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全属性魔法適正2

「ユウキ!魔力はまだ大丈夫!?」

「うん。全然戦えるよ!こいつら、思ったより強くないしあと少し踏ん張ろう!」


 ユウキと呼ばれた少年は、元の世界では吉崎優貴という名だった。高校生の時に林間学校で訪れた山奥で地滑りに巻き込まれ、この世界に生まれ変わった転生者だ。

 彼が転生したのは、伝説島と言われた南の楽園島・エルドラドだ。

 この島は全周千キロに渡る滝の上に存在する幻の島である。

 エルフ族と鳥獣族のみから構成され、その数三百万人が島全土に渡って暮らしている。

 楽園の名に違わず、島全体が風光明媚であり人族の干渉を一切受けていない場所だ。干渉を避けることが出来たのは、この島を囲う滝が原因だ。この滝は落差が三キロを超え、そのあまりの水量ゆえに下から見上げると水しぶきが空を覆い隠し、黒く見えることから『無明の滝』と呼ばれ、滝の下に住む人族以外の生物をほぼ寄せ付けなかった。 

 

 そんな場所に転生したユウキは住人のエルフたちから珍しがられた。

 なにせエルフたちの中で人族を見たことがあるのは、旅人とよばれる各地を旅するエルフだけだったからだ。エルフの長老でさえ、初めて人を見るというレベルで、エルドラド内で普通に生活している者達はユウキを見かけるとしばらく凝視するのが常だった。

 だが彼は元の世界から他人と打ち解けるのが早く、転生してから一年も経つ頃には多くの友人を得ていた。

 その中で知り合った三人のエルフたちは外の世界を見てみたい、という冒険心溢れた者たちだった。彼女らはユウキはずっとここにいたいという気持ちもあったが、その四人というのが全員女性でしかも美人だったこともあり、彼女たちの願いを断れず、エルドラドを離れることを決めたのだ。


 自身の能力〈全属性魔法適正スペルハウラー〉に気付いたのは、出発の直前だった。

 少しでも彼女たちの力になれるよう、魔法を使える数人のエルフ達から魔法を習っていた際、その全員の魔法をユウキは使うことが出来たのだ。

 本人は何とも思っていなかったのだが、教えていたエルフたちはまるで神を見ているかの如き有り様だった。

 なにせ、両親には無い彼ら独自に発現した特殊な属性ですら、ユウキは扱うことが出来たのだから。

 それからというもの、ユウキは各地を旅しながら、多くの魔法を会得してきた。現在では千を越えるであろう彼の魔法は、ありとあらゆる状態に対処することを可能にしていた。

 そしてそれは彼に自信を与え、驕りを生むこととなる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(それにしても、一体どれだけの数のモンスターが居るんだ……)

 

 スケルトン、キマイラ、そして時折オークやケルベロスなど、個々であれば容易に撃破出来る相手だが、その数はとてつもなく多い。常にユウキたち四人を取り囲むようにして数十体がかりで襲い掛かってくる。範囲魔法を使い続けてはいるが、いつの間にかどこからともなく新たなモンスターが湧き出てくるのだ。

 そして、戦闘している時間もまた問題だ。ユウキは体感でしかないが、バベルに入ってから三時間は経っていると思えた。その間ずっと戦いっぱなし。

 いくら彼が回復魔法を使っているからと言っても、流石にパーティーメンバーにも疲れが見え始めていた。ユウキは遠距離から攻撃しているためそこまで精神的な疲れはないし、魔力もまだまだ残っていたが、前衛で戦っている三人のエルフはかなり消耗が早かった。

 相手が多いから攻撃を外す、という事はないが、相手の急所には剣が当たらなくなってきていた。

 あと一時間も戦い続ければ、じきにモンスターからの攻撃を避けることが出来ない事は、ユウキには容易に想像できた。


 そんな時だった。 

 突然モンスターたちからの攻撃の手が止み、一本の道が開かれたのだ。戦意を喪失したという様子ではない。まるで何かの命令を受けたかのように動かなくなった。

 あまりの出来事にユウキたちは目を見合わせる。

 全員が共有したのは安堵の感情などではない。


 これから訪れるであろう更なる敵に対しての警戒をしよう!という思いに統一されていた。


(ボスの登場か?)


 正直なところ、ユウキはラッキーだと感じていた。雑魚敵を延々と当てられ続けていた今のままでは、打開策がなかったからだ。いや、あるにはあるのだが、使うべきではないというのが正しいか。

 ともあれ、相手からこの状況を変化させてくれるのは、ありがたい事だった。


(これだけの数のモンスターを使役しているんだ。気を引き締めないと。)

  

 通常、数匹まとまって行動しているモンスターにはそれを束ねるリーダー的存在がいる。ゴブリンたちにはゴブリンリーダーが、オークにはキャッスルオークがそれに該当するが、そういった存在は例外なく強力だ。腕力、行使する魔法、スピード、知力、など様々だが、どれをとっても冒険者には脅威となる。

 今回は数が多く、その上複数種を束ねているのだから、かなり強いことが予想される。

 

 ただ、それは既に覚悟していたことだった。

 ユウキたちがバベルを訪れたのは、海洋都市ヘレンに立ち寄った際に『中に何があるか誰も見たことがない天に聳え立つ巨塔がある』という噂を聞き付け、エルフの彼女たちが興味を持ったことが発端だ。

 誰も見たことがない、ということは皆入れずじまいだったか、もしくはその場所で殺されたということだ。そして実際、中に入った途端どこかに転移されモンスターに襲われたことから、後者であることは自明だった。 

 

「ユウキ!()()()()お願い!」

「うん!みんな僕の後ろに隠れてて!……【暴焼紅蓮】」


 緑色のロングヘアーをしたエルフがユウキに頼んだ魔法。

 それは一点集中の超高火力魔法であり、属性は火属性や上位の炎属性・焔属性のさらなる上位である灰燼属性。

 威力に関する話があまりにも現実離れしていることから、はるか昔の神話の世界の魔法と言われたそれは、数か月前、ユウキたちが古代遺跡を探索している最中に見つけ出した書物にその詳細が書かれていた。

 そして、全ての属性を司るユウキによって今現実のものとなり、モンスターたちによって開かれた一本の道の奥に向かって放たれる。

 

 その直後、道の奥に非常に禍々しい赤褐色をした炎の渦が巻きあがる。すると炎の周囲にいたモンスターたちは、次々にその渦の中心に吸い寄せられていく。スケルトンなどが吸い寄せられるたびに炎の渦はどんどん大きさを増していき、それに比例して吸い寄せられる範囲が広がり、更にモンスターを吸い寄せて炎を大きくする。

 スケルトンたちもその炎から逃げようとするが、中心への引力に逆らうことは出来ず、その身は引きこまれていく。

 そうして炎がユウキたちの目前にまで迫った瞬間、突如としてその炎は中心部に向かって一気に凝縮されていく。

 炎の大きさが蝋燭ほどの大きさにまで小さくなった刹那、大爆発を起こした。

 

 【暴焼紅蓮】の神話と言われる所以は相手の数がどれほど居ようとも関係なく、そして数が多ければ多いほどそれを燃料とするかの如く炎の渦は大きくなっていく点にある。その炎はありとあらゆるものを焼き尽くし、そしてそのあとに発生する爆発も合わせると周囲が跡形もなく消し飛ぶことから、この魔法は灰燼属性と呼ばれた。


「【守王陣】」


 そして、その大きすぎる威力から発動者を守るための魔法も書物には記されており、爆発を起こす前にユウキはそれを唱えていた。

 ユウキを中心として、エルフの彼女たちが全員入れる程度の魔法陣が地面に描かれ、【暴焼紅蓮】からの衝撃を全て吸収した。

 〈守王陣〉は攻防共に強力なものが揃った天属性の魔法の一つであり、魔法陣を境にして全ての熱と衝撃を完全に吸収する。

 そのため、劇的な破壊力を誇る〈暴焼紅蓮〉からユウキたち五人は身を守ることが出来たが、これはこの二つの稀有な属性を併せ持つ人間が居なければ、術者もろとも焼かれて死んでしまうということの裏返しでもある。

 

「はぁっ、はぁっ……」


 ユウキは息を切らし、膝を突いた。

 先ほどまで【暴焼紅蓮】を用いなかったのは、【守王陣】と合わせて使った際、ユウキの魔力量は著しく低下し、しばらく上位魔法を使えなくなるからだ。雑魚兵相手にむやみやたらと使える魔法ではなく、ここぞという時でなければならなかった。


「凄いよユウキ!今回のは今までで一番の威力じゃない?!」

「うん。でもこれで片付い……」


 ふとユウキは得体のしれぬ違和感を覚えた。


(なんか変だ……でも一体何が……)


 魔法の発動は失敗しておらず、確実に来たる脅威をその姿を見る前に葬り去ったはず……だった。



「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ユウキたちパーティーメンバーの耳を少年のキンとした声が突き抜ける。

 全員の視線は何も残っていないはずの炎の中心があった場所に釘付けとなった。

 初めは煙で見えてはいなかったが、徐々に薄れるにつれその姿はあった。

 

 平然と立つ悪魔とスケルトン、そして慌てた様子の人間の少年の姿が。



 

 



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