我を通せ
就活のため内定出るまで投稿を休ませていただきます。
地中へと延びる巨大な管をルシファーとアルスヘヴンは覗き込む。
「これってドラゴンが作ったもの……じゃないよな?」
「あぁ、違う。初めて見たぞ。」
誰が作ったものなのか。
どこまで続いているのか。
何を目的として作られたのか。
まず確認すべき事はこの管がどこまで続いているかの調査だ。
「この管の周りの地面をえぐる様な攻撃はあるか?」
「小僧、物騒なことを言うな。そんな魔法を使えば皆に知られるぞ。」
アルスヘヴンは勘弁してくれとでも言いたげな顔をしている。
だが、ルシファーは既にこの管の目的は予想がついている。
そしてそれを裏付ける証拠を得るためにはこの管の向かう先を調べなければならない。
「その時は逃げた俺を追っているとでも言って、ジジイは逃げろ。今は確認することの方がよっぽど大事だ。」
ルシファーの目を見て思うところがあったのだろう。
アルスヘヴンは静かに『背に乗れ』とだけ言う。
彼の言う通り背に乗ると、アルスヘヴンはブゥンと飛び立つ。
すると鼻から息を吸ったと思った次の瞬間、口から高威力の圧縮空気を放つ。
放った反動で、アルスヘヴンの体はぐらりと揺らぐ。
その揺れが収まった後、地面を見下ろしたルシファーは目を丸くする。
地上から地下深くまで先ほどの管よりも一周り太い、ドラゴンですら入れるほどの穴ができており、新たな水の流れが作られていた。
「……揺れるなら言ってくれ。落ちるかと思ったぞ……それにしてもなんだ今の技?凄い威力だな。」
「山上の垂訓という魔法だ。山を抉り新たな洞窟を作るくらいしか使い道はないが、役に立ったな……ん?あれは……」
アルスヘヴンの視線の先にあるものを見て、ルシファーは自分の予想を確信へと変えた。
そこには川の上流へと向かう方向へ延びる大きな管があった。
恐らく、地上から確認できた管の続きだろう。
「……まず間違いなく、バイカル湖には何かしら仕掛けがありそうだな。」
「うむ……」
「それにしてもバイカル湖のどこに繋がってるんだ……?」
繋がっている場所に、何かしらの仕掛けがあるかもしれない。
するとアルスヘヴンが提案をしてきた。
「なら、確かめに行くか?」
「確かめに、って場所分からないんだから無理だろ。」
「問題ない。」
そう言って、アルスヘヴンは自身が作った空洞へ降りていく。
やがて横に伸びる管の前まで来ると、すぅーッと鼻で息を吸った。
「おい、まさか!!」
ルシファーがアルスヘヴンのしたいことに気が付いて、彼の背の鱗をぎゅっと握った瞬間、再び山上の垂訓が放たれた。
しかし今度は先ほどのような衝撃ではなく、小さく体が揺れた程度であった。
不発か?と思ったがどうやら違うようだ。
「よし、行くぞ。」
アルスヘヴンはそう言うと天高く舞い上がり、ルシファーを連れてバイカル湖へと向かった。
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突然洞窟内が揺れたことで、ドラゴン達は慌てふためいていた。
「ヴァイロン様!!」
「分かっておる!今の振動は山上の垂訓だ。一体誰が……」
審議の場で『勇気』を見抜くヴァイロン=リドル・ライトロードの下へ、部下たちから知らせが入る。
彼はドラゴンの戦士たちの長であり、外部からの敵襲への対策に加えて洞窟内部の統制も務めている。
今まではアルスヘヴンを筆頭とする強いドラゴンが戦いの場には出ていたが、近ごろは若手の育成に彼は力を入れており、段々と世代交代が行われようとしていた。
そういった最近の流れから、若いドラゴンの支持を彼は集めつつある。
しかしその一方で、外の世界に行きたいという考えをもつ一定数の者への弾圧は強くしている。
子供のうちからこの地を守ることが当たり前と思いこませるようにしているし、何といっても、飛行しづらい洞窟内で過ごすようになったのは外の世界への憧れを抱かせないようにするためだ。
ただそれは、この地を守り続けたいという彼の思いの表れだった。
「すぐに審議を開く。異常を発見した者は儂に知らせろ。」
そう部下に伝えると、ヴァイロンは〈通信〉を使い、審議に参加している他の四体のドラゴンへ連絡をしようと試みる。
しかし、どうもおかしい。
何度魔法を発動しようと思っても、何かに邪魔をされて〈通信〉が使えないのだ。
自分が老いてきた弊害か?と疑っていたそのとき、部下の一人が彼の下へやって来た。
「報告!!」
「どうした?」
「そ、それが現在アルスヘヴン様がどこにもおらず、また牢獄に閉じ込めていたはずの人型の悪魔がいなくなっております!!」
「何っ?まさか……奴が山上の垂訓を放ったのか?」
「脱走を手伝うための陽動でしょうか?」
ヴァイロンは報告を聞き、先ほど魔法が使えなかったのはアルスヘヴンが何かしらの妨害をしていたからだと直感した。
(人型の悪魔を連れてきたのは奴だったか?もしや情でも移ったか?)
「すぐに捜索を開始しろ!それから山上の垂訓の被害を受けた部分はどこか分かったか?」
「いえ!まだ分かっておりません!」
「洞窟内外構わず、くまなく探せ!」
「ヴァイロン様は?」
「儂はバイカル湖に異常がないか確認してくる。それと恐らく今は魔法が使えん。何かあれば湖まで来い!」
ヴァイロンはそう言い放つと、彼専用に開けられた外へ通ずる穴に向かって飛び立った。
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「おい、ジジイ!本当にあの管のつながっている場所が分かるのか?」
「恐らくな……ほれ、もう着くぞ。」
「大丈夫か……」
バイカル湖までやって来たはいいものの、ルシファーにはアルスヘヴンの考えが分らなかった。
しかしルシファーが不安がっている中、アルスヘヴンは低空飛行をしながらジーっと湖の端を添うように眺め、何かを探している。
その様子を見て仕方なくルシファーも何か変わったことがないか探すことにした。
「なに探してんだ?」
「変化だ。」
「変化って……具体的には?」
「分からぬ。」
「……。」
不安に思う気持ちより呆れが強くなりそうだったが、このアルスヘヴンが集中しているので、何も言わずに何かを探すことを続けた。
「悪かったな。脱走に手を借りちまって。」
ふと、探しながらルシファーはアルスヘヴンに謝る。
「それにさっき気づいちまったんだ。中毒の原因が分かったとして、もしそれを改善してもドラゴン達は苦しい思いをするだけだって。」
アルスヘヴンは何も言わない。
「俺がやってるのはただのお節介だ。中毒になってるやつからそれを奪っても何も良い結果を生まないし、なんなら苦しみ続けるっていう悪い結果になるかもしれない。いや、なるな。」
アルスヘヴンはやや高度を上げ、今度は湖の中心へと移動を開始した。
「だからジジイ、あんたは関わるな。やっても何も得なんて……」
「小僧。お主は一つ勘違いをしている。」
ずっと口を閉ざしていたアルスヘヴンが静かに話し出した。
「儂はな、この問題を解決したいと常日頃から考えてきた。新たなドラゴンが生まれるたびに、その子の将来がこの湖の周辺で終わる事が確定することが嫌だったのだ。だが長く生きてきたが原因も解決策も何も掴めなかったせいで、どこか諦めてしまっていた。今日までな。」
見逃すまいとアルスヘヴンは首を左右に動かし、飛び続ける。
「お主と出会い、助けたのも何かの縁だ。そしてお主がこの湖の真実へと導いているのは天からの施しだ。この時を逃せばこの先の人生常に後悔する事となる。やって後悔する方が後々まで引きずらないことは、もうこの年まで生きれば学んでいる。」
ゆっくりと動きを止め、その場で浮遊し続けた。
「だからお主は自分のことを自分本位に考えろ。やりたいことも、他者のためにしたいと思ったこともその我を通せ。振り返って後悔など墓場ですればよい……ほれ、あそこだ。」
アルスヘヴンの視線の先をルシファーも覗く。
するとそこには赤い物質がパラパラと海底から湧き上がって出てきていた。




