彼らの里へ
「そういえばあんたの名前を聞いてなかったな。名は?」
「おぉ、失念しておったわ。我が名はアルスヘヴン・ライトロード。」
「すげぇ神々しい名前だな……俺もそういう名前にすればよかった……」
「ふっ……名ばかりだがな。先の湖を守るしかすることの無い老いぼれだ。」
ルシファーとメリアの二人はアルスヘヴンの背に乗って彼の里へ向かっていた。
眼下に広がる景色の美しさは息をのむほどだ。
人の手が一切入っていない森や山、そして上から望んでもわかる湖の澄んだ様に二人は感動を覚える。
「ここは本当に素敵なところですね!」
メリアがはしゃぎ気味にそうアルスヘヴンに伝える。
アルスヘヴンはそれを聞き口元をほころばせる。
「この地は神より賜りし物だ。この先も我々は守り続けなければならない。」
(ドラゴンにもそういう信仰があるんだな……いや、知性があるやつは皆そういうものか。)
自分が悪魔たちの信仰先ともいえることを思い出し、ルシファーはふと笑ってしまった。
知性体は皆何かにすがるのだろう。
それは強き者であったり心の奇麗な者であったりするだろうが、知性がある以上何かに頼ることは当たり前なのかもしれない。
(俺は……)
ルシファーは自分自身が何を信仰しているのか疑問に思う。
頭に浮かぶ存在がひとりいた。
アザゼルだ。
彼のおかげで他の魔神から攻撃されることがなくなり、結果として多くの悪魔たちを統制することが可能になったといっても過言ではない。
(何か手の上で踊らされてる気がして嫌だが……それにしてもあいつはどうして俺たちを二人だけで送り込んだんだ?)
あの湖のことをアザゼルが知っていて、その水を欲している可能性……
ありえなくはないが、それなら悪魔たちにドラゴンを殺させて、湖を独占すれば良いはずだ。
友好的に解決しようとしたのだろうか?
まさか……悪魔であるあいつがそんな優しさを持っているとは考えられない。
それにあいつは長生きすることに執着しそうなタイプではない気がする。
そんなことをルシファーが考えていると、アルスヘヴンが高度を落とし始めた。
開けた地に降りるのかと思っていたが、見えてきたのは谷底にぽっかりとあいた洞窟だった。
ドラゴンが通れるほどの大きさの入り口の前には、アルスヘヴンよりも幾周りか小さいドラゴンが二匹守り手のように構えていた。
左のドラゴンはこちらを見ると何やら魔術を唱え始めた。
ふと違和感を感じ後ろを振り返ると、そこにはルシファーたちを隠すように霧が広がっていた。
前方には何もないのに、アルスヘヴンが通った後を追うように霧が作られていたのだ。
「これからこの洞窟の奥でお前たちの審議を行う。外部の者は一度審議にかけられてから、滞在を許されるのだ。」
アルスヘヴンが告げる。
「審議ってどんな?」
「この地に相応しい存在かを五体の古竜たちの能力で判断するのだ。なに、心配せんでよい。ただの通過儀礼みたいなものだ。」
「ふーん。痛くはない?」
「問題なければ痛みはない。そのまま滞在できる。」
何か引っかかる言い方だ。
「……問題あったら?」
「窯の火付け材料になるだろうな。」
どうしてだろう、何か胸騒ぎがする。
まだ審議もしてないというのに。
(まぁ殺されそうになったらメリアの言う通り、アザゼルが助けに来てくれるでしょ)
……そんな風に余裕をこいていた時代がありました。
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案内されたのは広さと高さがともにある場所だった。
ここにはドラゴンは数匹いるが、まだまだ入れるだけの余地がある。
ルシファーとメリアの周りには五体のドラゴンが鎮座していた。
鱗の色が緑のドラゴンもいれば、青いドラゴン、そして赤茶色のドラゴンもいた。
「てかお前そっち側の立場だったんかい!」
赤茶色のドラゴンはアルスヘヴンだ。
彼はこの場所に二人を案内した後、今いる審議側の場所へとのそのそ歩いて行ったのだ。
「小僧、口の利き方には気をつけろ。」
アルスヘヴンは先ほどまでの口調とは違った。
思わずルシファーとメリアは顔を見合わせる。
(他の者への示しをつけるためか……それにしても偉いやつとは思ってなかった)
普段から他の悪魔たちに対して気さくなルシファーだったが、上の立場の者がそういう態度をとる事は理解できる。
舐められるようでは統制が取れなくなると容易に想像できるからだ。
(とはいえ、口調はなかなか変えられんもんねぇ……)
アルスヘヴンと出会った時のように、ルシファーも礼儀の良い会話は可能だが、気を抜くとすぐにふざけた感じになってしまうのだ。
それでもバベルを統合できたのは、そうやって誰とでも心から会話できるルシファーらしさあってのものだろう。
ルシファーは彼らに挨拶をし、頭を下げる。
「失礼。本日は皆さまの里にお招きいただきありがとうございます。また、私たちの審議のためにご足労をおかけして申し訳ありません。私の名はルシファー。そしてこちらの者の名はメリア・イスラフィール。」
(あの、メリアさん?私がまじめに話すたびに目を丸くするのやめてもらえます?)
横目でメリアを見ると、彼女はルシファーの様子の変わりように唖然としていた。
だがすぐにハッと我に返ったようで、ルシファーに続くようにして頭を下げた。
「ふむ……この場にいるのはこの里で最も優れた能力をもつ者たちだ。我が名はアルスヘヴン・ライトロード。貴様らの『覚悟』を測る。」
アルスヘヴンが自己紹介をしたのに続いて、その右のドラゴンが自己紹介をする。
「我が名はヴァイロン=リドル・ライトロード。『勇気』を見抜く者だ。」
それに続き、一周するように他のドラゴンも自己紹介をし始めた。
「我が名はディリザル=グレア・ライトロード。私はお前たちの『真意』を見逃さない。」
「我が名は……」
五体のドラゴンが自分の名を言い終わる。
それぞれ『覚悟』『勇気』『真意』『憎悪』『希望』を判断できるようだ。
(にしても、全員名前にライトロードが付くんだな。鱗の色は違うけどもしかして兄弟か?)
そんなことを考えている間に、審議が始まる。
「さて、皆の者。この二人が皆の目にはどう映る?」
アルスヘヴンがそう問う。
すると緑の鱗をした先ほどディリザルと呼ばれたドラゴンはそれにこたえる。。
「メリアという娘のほうは問題ないだろう。彼女には何も影は見えん。」
「同意。」
「同じく。」
他のドラゴンも彼に同意する。
ルシファーは心臓がバクバク音が大きくなるのを感じた。
「だが……小僧のほうはいかんな。」
ディリザルは首を横に振った。
その瞬間、ルシファーから血の気が引く。
「すべてが偽だ。今だけではない、過去もそうだ。」
「そうだな、逃げ腰な点からも『勇気』は見て取れぬ。」
「では反対意見のある者はいるか?」
アルスヘヴンの問いに、皆反応しない。
「ではこれをもってメリア・イスラフィールの里で過ごすことの許可を、そしてルシファーの処分を確定する。」
「ちょいちょいちょい、待てって!!!」
ルシファーはかなり大きな声を出したが、彼らはまるで耳に入っていないかのようにその場を動き始めた。
それと並行して、小柄なドラゴンの前足によって肩をつかまれたルシファーは部屋から連れて行かれそうになる。
メリアはと言えば、アルスヘヴンによってなぜか眠らされ彼女もどこかへ運び出されていた。
(やばいぞ……これは本気でまずい……)
そう思って今まで使ったこともない〈通信〉の魔法を使おうと、頭で必死にバフォメットたちへ話しかける。
以前バフォメットが使用し遠距離にいたルシファーと会話したことを思い出したのだ。
(バフォメット!!!頼む、出てくれ!!!)
だが、その望みはかなうことなく、ルシファーは部屋から運び出されていった。




