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世界を変えた日

 アザゼルと名乗る青年はまっすぐルシファーのことを見つめたまま、話を続ける。


「そして、君はここに連れてきた悪魔たちのことを敵だと思っているようだけど、それは間違い。君は紛れもなく魔王の器として呼ばれている。」

「いやいや、そんな見え透いた嘘は流石にバレるって。どう考えたって転生してるんだから、俺が勇者で……え、まじ?」


 アザゼルの言葉が偽らざるものだと感じたのは、彼の余裕そうな雰囲気からかもしれない。

 或いは直感か。

 それとも……彼の力か。 

 

「あぁ、本当だよ。そうだ、準備の途中だったのを忘れていた。()()()()()()()()()()。すぐに準備するから、待っていてくれ。砂糖は小さじ一杯、ミルクは無し、レモンは……三滴入れるのか。フフッ、細かいな。」

 

 再びアザゼルは横の食器棚に視線を戻す。

 ルシファーはあまりのことに、言葉を失う。

 それは紅茶がこの世界にある、などという事ではない。

 今アザゼルが言った内容は、転生前の世界でのルシファーの紅茶の好みと完全に一致していたからだ。

 どうして、知っているのか。いや、彼は先ほど『知りえない事なんてない』と言っていた。それが本当なら知っていても何も不思議ではない。

 だとすれば、この青年はいわゆる〈全知〉というやつなのだろうか。

 まさに、この世の頂点に君臨し得る能力だ。

 そんな、世界の全てを知り得る者が目の前にいるとして、一体今ルシファーがすべきことは何か。


「聞きたいことがあるんだがいいか?」

「何だい?」


 まずは自分自身の置かれている状況、そして問題を改善する必要があればその改善案についての相談もしよう。

 アザゼルはティーカップを二つ手に持ち、テーブルへと運ぶ。

 薄い紅色をした花柄のティーカップとは、ずいぶん可愛らしいものを使っているようだ。

 持ち手の部分は人差し指が入る程度の大きさしかない。中指と親指でしっかり支えてあげなければ、人差し指を軸にティーカップがくるんと回ってしまいそうな、そういう形状だ。

 ソーサーにも装飾が施してある。これは……蝶だろうか。

 カップを載せる直前のほんの一瞬しか見えなかったが、どうやらカップとソーサーの接着面にも何か模様があるようだった。

 蝶に関係するものなのだろうか?


(しまった、気が散っている。今すべきは、彼からこの世界に関する出来るだけ多くの情報を引き出すことなのに。)


 そう思い返し、視線をアザゼルに戻してルシファーは一つ一つ尋ねていく。


「まず聞きたいのは、俺はあの悪魔たちと居て大丈夫なのか?一度死んでいるから、また死ぬのは別にいいんだけど、あいつら……なんていうか……怖い。」

「ハハハッ。まったく心配はいらない。彼らにとって君は救世主にも近い存在なのだから。手は出してこない。」


 それを聞いて、ルシファーはふぅと息を吐き出す。

 悪魔というには拷問などを受け、体を引き千切られるのでは?と思っていたからだ。静かに死ぬのは良いが、そんな死に方は絶対に嫌だと思っていた。 

 それがないと言うなら、次に聞くべきは……


「お前以外の魔神とやらに、殺されることはないのか?」

「あるよ。」


 その瞬間、一気に血の気が引くのをルシファーは感じた。


「そりゃあそうだろう?彼らは誰が一番強いか、それを決めるために争っているんだよ?そこにいちいち横槍を入れるようなやつ、殺したく思うに決まってるじゃあないか。」

「……」

「そんな、困った表情をしないでくれよ。彼らは彼らで可愛いところがあるんだから。それに、それを解決するために僕の所へ、まず来たんだろう?」


 そう。

 出来るだけ腕っぷしが強いか権力を持つ者の後ろ盾を得るために、ルシファーはバフォメットたちに尋ねたのだ。

 あとは、その強者が手を貸してくれればいい。


「あぁ、その通りだ。お前の力を貸してほしい。もし対価が必要というなら、出来ることは……」

「いや、対価は要らないよ。既に君から貰っている。」

「っ?!何もあげた覚えはないんだが……」

「んー、そりゃ知らないよね……そのうち教えてあげるよ。」


(何それ怖っ!)


 気づかないうちに何か大事なものをあげてしまったのだろうか?

 転生してからここに来るまでに得たものなど何も無い。

 と言うことは転生前から引き継いでいる何か……例えば記憶などを奪われたのだろうか?だが、頭の中に靄がかかっている感覚は一切ない。大切にしている記憶は確かに覚えてはいる。

 ならば、何だろう?


 一方、アザゼルと言えば、紅茶の準備が出来たらしく、カップに紅茶を注ぎ、差し出してきた。

 お菓子の入った木編みの入れ物を添えて。

 入れ物の中は丁寧に整理されており、大きめのクッキーが後ろに、その手前には小さめのクッキーと可愛いクマの柄が描かれた紙に包まれたキャンディーがあった。


「さて、力を貸すって話だけれど……」

「お前女子力高すぎんだろぉぉぉぉぉ!!!」

 

 キーンと、ルシファーは自分の大きな声が部屋を反響して返ってくるのを感じた。。

 ルシファーは、はぁはぁと息を切らしながら続ける。


「え、ここには女の子が一人もいないって聞いたけど、女子力が高い男の子がいるの?!意味わかんないんだけど……ヒロイン枠はちゃんと別に用意してあるよね??」

「急に騒がないでくれよ。ビックリするじゃないか。」

「まじで、枠を取るなよ!!本当に取るなよ?!」

「分かった分かったから、まずは紅茶でも飲んで落ち着きなよ。」


 アザゼルが両手を下に向けて、落ち着けとジェスチャーしてくる。

 目に血を充血させながら、ルシファーは椅子を引きドカッと座る。

 ふんふん鼻息を荒くしながら、カップを持ち紅茶をゴクリと飲もうとした時、アザゼルに手を掴まれた。

 背景で恋愛ソングが流れそうな甘い空気が流れる。


「『流れる』じゃねぇよ!!つか、なんだよ。急に手なんか掴みやがって!!!」

「いや、そんなに急に飲んだら、口の中をやけどすると思ってね。」

「おかんかお前は!?」

「照れるじゃないか……」

「顔を赤らめるんじゃねぇよ!」

「……もしかして君の方が照れてるんじゃないかい?」

「照れてねぇよ!!」

「だって君も顔が赤くなっているよ?」

「怒ってるんだよ!!」

 

 という問答がしばらく繰り広げられた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ルシファーは紅茶を飲み終わったものの、むかむかとした気持ちは依然残りつつけていた。

 終わりのないと思われた問答がどうして止んだのかといえば、途中でのどを潤そうとルシファーが紅茶を一気飲みして、軽いやけどを負ったことが原因だ。

 アザゼルは急いで水を創り出して、ルシファーの唇は腫れず、事なきを得たのだった。


「さてと、話を戻そうか……って、そんな睨まないでくれるかい?」

「けっ!続けろよ……」

「まったく、勝手だなぁ。それじゃ話を戻すよ?」


 アザゼルは紅茶の入ったカップを手に取り、香りをすーっと愉しんだ後、少量を口に含み更に下に伝わる味と鼻に抜ける香りを嗜んだ。


「魔神たちに殺されないよう僕が力を貸す、という話だったね。僕が一緒に出向いても良いんだけど、残念なことにこれから少し出かける用事があってね。着いて行くことはできないんだよ。」


 そう言って再びカップに手を伸ばすアザゼルを見て、『どうみてもお前暇だろ……』とルシファーは心の中で思っていた。

 本当は口に出かかっていたのだが、機嫌を損なうわけにはいかないので我慢したが。


「さて、そこでなんだが君に少し()()()()を掛けてあげよう。なぁに、少し()()()()()だけだ」

「さらっと恐ろしいこと言うんじゃねぇよ!」


 流石に今度は我慢出来なかった。

 世界を弄るってあなた神か何か?と突っ込みたいほどだった。

 いや確かに、先ほどから超常的なことはあったし、あながち間違いではないのかもしれない。


「世界と言っても今回は魔神たちにしか効果無いからそれほど影響は無いさ。」

「……もしかしてお前の力を使えば、世界の全員が空を飛べるようになったりするのか?」

「あぁ、出来るよ。と言うか、さっきからお前お前って。名前で呼んでくれよ。」

「あーはいはい。アザゼルね……っ?」


 ルシファーは、ん?と違和感を感じた。

 それはふと今のやり取りが懐かしく覚えたからだ。

 だが、いつのやり取りだったかはすぐに出てこない。

 いつかにしたそれを思い出そうと過去を振り返る。

 そう、あれは……


「全くもう。そんな態度なら助けてあげないよ?」


 だが、アザゼルはルシファーに完全には思い出させる暇を与えず、自身の能力を行使しようと近づき、ルシファーの頭に手を当てる。


「じゃあ始めるよ。『魔神たちがルシファーに手を出すという事象は()()()()()』。それからこれも必要か……『ルシファーが殺しに対して恐怖、嫌悪を覚えることは()()()()()』。」


 その瞬間、ルシファーの周りが光で包まれ……ることはなかった。


……


「あのー、アザゼルさん?何も起こらないんですけど。」

「何?ぶわーって光でも出ると思った?」

「え、異世界なのに出ないんすか?」

「だって、今変えたのは身体的なものじゃなくて、精神的なものだし何も体に変化はないと思うよ?」

「あー、そういう系ね。せっかく転生で来たのに異世界らしいものにまだ悪魔しか出会ってないから、なんだか少し残念だわ。」

 

 そういうとアザゼルは笑う。


「大丈夫、これから死ぬほど異世界を味わえるから。」


 ニヤっというその不敵な笑いは、ルシファーが今後困難に見舞われることがまるで分っていることを示唆していた。


「ヒロイン……俺強ぇぇ……あるよね?ねぇ、あるよね?」

「さぁ、どうだろうねぇ?」

「いや、何か知ってるなら教えて!ほんとやっていけるか心配だからさ!!」

「ちょ、離して。何も知らないから!」

「嘘つけ!さっき言ってもないのに俺の紅茶の好み完璧に把握してただろうが!!」

「いや、あれはたまたまで……」

「んなわけあるか!ダウト!!」


 ここから始まったルシファーの異世界生活は、アザゼルの言った通り日々勇者と戦い、そしてヒロイン候補たちに延々とフラれる多難なものになったのである。

ル「前回の投稿が2年前の12月って間空きすぎじゃない?」

作「いやぁぁ、何と言いますか……日々自分を見つめていたというか何というか」

ル「見つめすぎ!もはや自分しか見えてなさそう。というか絶対サボってたよな?」

作「……さぁ、投稿再開だ!!!」

ル「(こいつもうダメだ……)」

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