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クソがぁぁぁ

 ほかの階層で聖騎士たちが殺される中、未だに抵抗し続ける者たちもいた。

 バベルの入り口において転移されなかった聖騎士十数名だ。

 彼らの中にはウリエル、そしてガブリエルの二人がいたため、戦線が押されることはなかった。


「〔雷閃〕!」 


 ウリエルの持つ二本の双剣が下段から光の如きスピードで斬り上げる。

 オーガの太い骨ごと一刀両断したその一撃が生んだ断面は、まるでレーザーで焼き切った後の様に非常に綺麗だった。

 だが、それほどの一撃を食らわせたにも関わらず、彼女の表情は浮かなかった。

 

「糞がっ!!」


 ウリエルは自身の周りを敷き詰めるほどの死体の山を見て、吐き捨てるように言う。

 その死体は聖騎士たちのものではない。

 ウリエルと数名の聖騎士達によって殺された大量のスケルトン、オーガ、キマイラなどだ。

 

(こんな雑魚ばかり当ておって……時間稼ぎのつもりか?!)


 この大広間の様な場所に着き、モンスターが出てきたときには強力な敵だと思って対処し始めたのだが、ウリエル達はすぐに違和感を覚えた。


 あまりにも弱すぎたのだ。


 攻撃を食らっても平気、と言うほどではないが、聖騎士一人で三体のモンスターと戦っても勝てるほど劣っていた。

 バベルにいる敵だからと過大評価しすぎていたのでは?と言う騎士がいたが、ウリエルは違うと断言できた。

 なぜなら、各地を襲った悪魔はこれより強かったし、何より記憶をいじる様な能力を有する者がいるのは確定している。

 とすれば、何か策があっての事だと推測された。

 だがそのことに気がついても、敵の数はとても多く、斬っても斬っても大広間の奥の通路から現れてきていた。

 そのためウリエル達はこの場に足止めされていたのだ。

 このままでは敵の思う壺だ、と感じたウリエルは、打開策を講じる。


「ガブリエル!あれを使え!妾は先行してこの雑魚共の出所を叩く!」

「畏まりました。お気を付けて。」


 ガブリエルはそう静かに答えると、自身の剣をモンスター達が現れ続ける大広間から続く通路に向かって振りかざす。

 すると剣にはめ込まれた宝石、アルマンドラ・グリフォスが青く輝き出した。

 紺碧の光が一直線に通路に向かって伸び、その光に当てられたモンスター達が次々と消滅していく。

 モンスターたちは突然の出来事に怯む。

 そうして出来た大広間から続く通路を、ウリエルは〈智天使ケルビム〉によって数万倍に引き上げられた脚力で一気に駆ける。

 

 アルマンドラ・グリフォスが内包する能力は三つある。

 そのうちの一つが今放たれた〈対消滅〉だ。

 あらゆる物質の逆波動が込められたその光は、照らした瞬間、その物質を崩壊させる。

 相手に有無を言わさない圧倒的な能力だが、この宝石がはめられた剣を、彼らの中で最も強いウリエルではなくガブリエルが持つのには理由がある。


 アルマンドラ・グリフォスの能力は非常に強力である一方、一ヶ月に一度しか使えないという制約がある。

 そのため以前まで連戦には向かず、数百年に一度現れるような非常に強力なモンスターを倒す時などでしか使えなかった。インターバルの長さから、通常の戦争などではほぼ意味を為さず、使いどころが非常に難しかったため長い間、緊急時に用いられる秘宝として光華聖教会の奥で眠ったままだった。

 だが、その秘宝に表舞台で用いられるようになったのは、その欠点を補うガブリエルという人物が現れたからだ。


 彼のの能力名は〈時の覇者〉。

 〈時の覇者〉は触れた物体の時間の流れを自在に変えることが出来るというものだ。

 この能力によって、アルマンドラ・グリフォスの時間の流れのみを早くし、使用するときのインターバルを一か月から二時間にまで短縮することが可能とした。

 二時間という時間は決して短くはない。だが、掃討作戦などの際であれば、その程度であれば戦力になるのだ。

 なにより扱う人物もウリエルに次ぐ実力者として知られるガブリエルだ。

 アルマンドラ・グリフォスの力を使うような事は滅多に起こらない。

 〈対消滅〉を必要な時にすぐ打てる事が大切なのだ。

 

 本来であれば、魔王と対峙した時まで取っておきたかったのだが、ここでずっと足止めされ続けるわけにはいかない。

 そういうわけで、ウリエルは〈対消滅〉させるよう命令したのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ウリエルは駆けていくと、次第に通路の奥に空間があることに気付いた。


(モンスターが現れているのは、あそこで間違いないのぅ。)


 ガブリエルが〈対消滅〉を使用してから、ここまでわずか数秒しか経っていない。

 そのため、ここまでの通路にはモンスターたちは全く居なかった。だが、視界の先には徐々に通路を防ぐようにスケルトンたちが現れ始めていた。

 

「邪魔をするな……〔星双破スターブレイク〕!」


 走りながら、二本の双剣を自身の前に交差させるように突き出す。

 そして、剣先がスケルトンに触れるか触れないかというタイミングで、横に振りぬく。

 すると『智天使』の加速と相まって、ウリエルの横方向に衝撃波が生まれる。

 その衝撃波は通路の壁に反射していき、ウリエルの前方にいたスケルトンたちをも纏めて吹き飛ばす。


 他のモンスターが現れる前にたどり着かねば、とウリエルはさらに加速していく。

 通路を抜けると、そこには先ほどガブリエルたちと共に戦っていたような大広間があった。


「……抜けてきたんだ。凄いね……」


 部屋の中央に明らかに今までのモンスターと違う雰囲気の存在がいた。

 シルクハットを被り、ハープを持つその悪魔はウリエルの方を見ると、へぇとほんの少しだけ驚いたようだ。

 その悪魔の周りには、一切モンスターは居らず、町に現れたような強力な悪魔の姿も見えなかった。

 

(ということは、今までのはこいつの部下か何かか……問題は、この悪魔がどの程度強いかよのぅ……)


「汝は何者じゃ?」

「……アスタロト……君がウリエル?」

「ほぅ、悪魔にも名前が知られているとは、感激じゃのぅ。ところで、魔王はどこにおる?」

「……さぁ。あの人の考えることは分からないから……って、君は僕の考え読めるんでしょ?」

「知られているか……」


 魔王の居場所は知らないのは本当の様で、〈智天使〉を使ってアスタロトの記憶を見ても無駄だった。

 だが、得た情報もある。

 それは三つ。

 まず、先ほどまでのモンスターを創造していたのは、このアスタロトという悪魔であること。

 そして、彼がバベルにおいて八魔将という位に立つ悪魔であること。

 最後に、彼らの上に四魔神と呼ばれる存在がいること。


(全く、化け物ばかりだな……)


 八魔将の数体には勝てる可能性僅かにあるが、四魔神には勝てる可能性、いや生きて帰れる未来が見えなかった。一週間前の襲撃に現れた強力な悪魔全てを、たった一体の魔神が作り出したなど、考えたくもない。 

 今までの平和な日常が彼らの手の平の上で転がされているように思え、ウリエルは軽いめまいを覚える。


「妾を襲って来ないのは、魔王の命令だからか?」

「……うん。時間を稼げとしか言われてない……」

「悪いが妾は本気で汝を殺しに行くぞ?」

「……頑張って……」

「くっ……舐めるな!」


 ウリエルは〈智天使〉によって強化された脚で距離を詰める。

 対して、アスタロトは手を前に突き出す。すると彼の周りに黒い煙が現れ、自身の姿をウリエルから隠した。

 

「ただの目くらまし如き……〔雷閃〕!!」

 

 だが、ウリエルはその煙に毒性がないことは、先ほど記憶を読んだ時点ですでに知っている。

 そのため、臆することなく煙の中に突っ込み、二本の双剣を下段から切り上げる。

 ザクッという感覚が手に伝わり、切り上げの時に生まれた風により煙は一瞬で消え去る。


「クソッ、逃げたか……」


 斬ったと思っていたのはアスタロトではなく、一体のオーガだった。上半身を裂かれたため、既に絶命していた。

 煙が消えて、現れたのはオーガだけではない。

 幾体ものスケルトン、キマイラ、死喰鬼グール魔蛇サーペントなどがウリエルの周りを取り囲んでいた。

 部屋の奥にはアスタロトの後ろ姿が見える。

 

「こんな雑魚程度……〔乱滅ヴァルキュリア光斬スラッシュ〕!」


 二本の双剣を全方向に対して振り下ろし、切り上げ、薙ぎ払い、の動作を高速で繰り返す。

 〈智天使〉による能力向上があってこそなせる、ウリエル独自の技だ。

 彼女に迫りよるモンスターたちは全身を切り刻まれ、その場に崩れ落ちる。


「悪魔め、逃がすものか!〔衝光空撃フラッシュインパクト〕!」


 双剣を同時に一瞬の間に振り下ろすことによって生まれる衝撃波で、彼女とアスタロトの間に立ち塞がるモンスターを両断する。

 そうして出来た隙間を駆け、アスタロトとの距離を一気に詰める。

 いつ新たな壁となるモンスターを生成してきても良いように、剣を前に構え〔星双破〕を放てるようにして突っ込む。


(貰った!!)


 〈智天使〉で考えを読み取っても、不自然なほど彼にこれ以上の策はなく、ウリエルがまさに勝利を確信したその時だった。


 両者の間に三人の人物が現れた。

 一人はこの場にいるはずのないウリエルの知っているメイド、もう一人は忌々しい魔王、そして巨大な岩石の巨兵。


 魔王はウリエルの攻撃に気づいたようで、うぉぉい!と一歩後ろに後退り、岩石の巨兵はメイドと魔王を守るようにウリエルの前に立ち塞がる。


(不味い……コイツは!?)


 巨兵の事を、アスタロトの記憶で見た魔神アスモディウスであると理解し、立ち止まろうとする。

 だが、急加速して両足が地面から離れた今では止まる事が出来ない。

 

(クソがぁぁぁ!!)


 最早、彼女に残された手段はそのまま巨兵を無意味に斬るのみだった。

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