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準備

「うげぇ、ウリエルの野郎こっち来てるのかよ!」


 バベル周辺の警備に当たっている者から連絡があった、という報告を聞きルシファーはいやそうな表情をする。

 彼の近くにはバフォメットとベリアルが居たが、二人には何が不味いのか分からないという様子だ。

 向かってくる聖騎士の数は五十人。

 その中にはウリエルもいるとのことだが、だからどうした、程度にしか思っていない。

 

「普通あれだけの打撃を与えたら、しばらく大人しくするだろ……」

「何か問題がございますか?」

「あぁ。想定より早すぎる……」


 ルシファーとしては、ウリエルたち光華聖教会は各地の復興をしてから攻めてくるものだと思っていた。

 被害が出ている状況で攻めるのは、信者たちの不安や不満の増大化につながると考えていたからだ。

 そうなることを恐れて、攻めてはこないと踏んでいたのだが、これほどまでの早さでここに向かってきているという事は、その不満を押し込むだけの力があるという事を示している。


 ルシファーの予想ではあと数か月は後に攻めてくるはずだった。

 その間に人間たちの町へ出向き、二、三人の女性を落としているはずだったのだが……


(面倒臭ぇな、ほんと)


 ここまでされては光華聖教会、そしてウリエルという人物の評価を上げざるを得ない。

 そして、今まさに迫って来ているというなら、こちらもそれ相応の対応をしなければならないだろう。


「動かせる魔将をすぐに集めろ。魔神はサタナキアだけに声を掛けてやれ。最近仕事無かったろ、あいつ。たまには働かせろ。」

「畏まりました。」


 バフォメットとベリアルは招集令を伝えるため、転移した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 しばらく遊楽の間でルシファーが待っていると、近くの階層にいる魔将から順に転移して姿を見せた。

 初めに姿を見せたのは魔小人ロノウェ。

 その後ろには以前彼に与えた階層、四十二階で見たことのある他の魔小人が二名いた。

 ぶっちゃけ、魔小人たちは見分けがつかない。

 先頭を歩いているからロノウェだろう、と勝手に想像しているだけだ。

 そんな彼らには最近色々世話になっていたので、感謝の言葉を伝える。


 続いてほぼ同時に転移してきた者が二人。いや、人ではないから二体と数える方が正しいか。

 それは魔獣オセと魔虫ベルフェゴールだった。


「おーう、元気にしてたか!魔王様!!」

「オセ、魔王様に対して失礼っす。」


 オセはライオンに似た姿だが、頭に一本の角が生えているのが特徴だ。口調は荒いが、根は良い奴であることをルシファーは知っている。

 一方のベルフェゴールは大きな魔虫であり、クワガタのような見た目をしている。ルシファーより長く生きているはずだが、言葉遣いはかなり若い。


「別に気にしてないからいいよ。」 

「ならいいっすけど。」

「おめぇは気にしすぎだってぇの!!」

「だはっ!!痛いっすよ……」


 オセがベルフェゴールの背をバンと叩く。

 痛たたたと、背中に手を伸ばそうとするが、魔虫であるベルフェゴールの手では届かない。

 見ていて滑稽だったが、可哀想になりルシファーが代わりに摩ってやることにした。

 

「うぉぁ、魔王様!たかじけないっす!」

「あぁ、これからしっかり働いてもらうしな。」

「そうなんすか?!」


 おや、っとルシファーは首を傾げる。


「あれ、バフォメット達に言われてないの?」

「俺たちは『魔王様がお呼びだ』としか言われてないぜ?」

「一体何をするんすか?」


 バフォメットたちは時間を短縮するために、あまり説明しなかったようだ。

 現状について軽く説明していると、転移してきた者がいた。

 それはシルクハットを被り、手にハープを持った悪魔だった。

 色白な見た目からは病弱そうな印象を受ける。


「おう、久しぶりだな。アスタロト。」

「……ども。」


 アスタロトはかなり無口な悪魔だが、呼びかけに応じてくれるだけまだましだ。

 なんせ、もっとひどい奴もいるのだから……


「ルシファー様。サタナキア様をお連れいたしました。」


 声のする方を見れば、ベリアルとバフォメットの姿がある。

 どこだ、サタナキアは?と思い、よく見てみるとベリアルが何かを背負っていることに気づいた。


「……おい、サタナキア。自分の足で歩いたらどうだ?」

「あー?めんどー。」


 腑抜けた声の主こそ、バベル最強の一角、魔神・吸血鬼ヴァンパイアサタナキア。

 吸血鬼の名の表す通り、長い牙を有している。

 そんな彼の髪はボサボサで、目は半開き。

 バフォメットたちが行くまで、寝ていたのは明らかだった。

 

 普段、彼は八十層から一歩も出ない。

 一日の大半を寝て過ごしており、起きている時間も食事をとる(吸血鬼だから、生きたモンスターの血を吸っている)だけという、バベル一の引きこもりだ。

 

「さ、サタナキア様。魔王様に対してあまりそのような言葉遣いは……」

「なー、ばふぉめっとー。お前、いつから俺に命令するようになったのー?」


 サタナキアはバフォメットの頭を掴み、自身の顔に近づける。


「し、失礼いたしました!」


 バフォメットの注意など、サタナキアには一切意味を成していなかった。

 まわりの魔将たちも先ほどまでの騒がしさが消え、その場に元からあった置物の様に静かだ。

 

(ヤンキーかよ。怖ぇぇよ。)


「つか、ルシファー。眠いから帰っていいー?」

「ダメに決まってるだろ。それにお前今来たばっかだし。しかも最後に!」

「そうだったー?ふぁぁぁ。」


 大きなあくびをし、目をこすっている。

 あまりこいつと話しても埒が明かないので、話を進めることにした。


「バフォメット。これで今集められる奴は全員か?」

「はい、グレシルはバベルの外で偵察活動をしており、メフィストフェレスは現在活動することは出来ませんので、現状戦える者はこれで全員です。」


 よし、と頷く。

 八魔将の内六人、更に魔神も一人集まったのはかなり良い方だろう。

 これだけの戦力があれば、かなり立ち回りやすい。


「オセ達には話したが、お前たちにはここに向かってくる聖騎士たちの相手をしてもらいたい。」

「聖騎士ー?そん位の奴らなら、俺が出て来なくても良かったじゃーん。」


 早速サタナキアから文句が来る。

 自分を運んでいるベリアルにあっちー、と指差し、帰ろうとしている。

 ベリアルはサタナキアのいう事を聞くべきか、その場にいるべきか、迷っている様子だ。眼は完全にルシファーに助けを求めていた。

 

「ベリアル、行かなくていいぞー。お前を呼んだ理由もちゃんとある、サタナキア。

 敵の中に一人、二面性能力デュアルスキルを持ってるやつがいる。」

「へぇー。強いの?」

「ダンタリオンの作った魔侯爵クラスの奴は余裕で殺された。」


 そういうと、顔をこちらに向けてきた。

 少し興味を持った様子だ。


「ダンタリオンのがねー。」

「もちろん、お前が怖いなら他の魔神に任せ……」

「いいよ。俺がやるー。」


 他の魔神の話を出すとお互いに競い合う癖が、どうやら魔神達にはあるようだ。

 使い勝手のいい餌だな、とルシファーは邪悪な笑みを浮かべる。


「よし、一番動かなそうな奴も乗り気なようだし、今後の策を説明するぞ。」


 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(おかしい。なぜ、バベルの奴らは出て来ない……)


 ウリエルら一行はバベルに向け、森の中を進んでいた。

 彼女の予想では、バベルに到達するまでに悪魔たちから攻撃を受けるはずだった。

 出来るだけ内部に入らせたくない、というのが、バベルの悪魔たちの考えだと思っていたからだ。

 そのため、道中は防御魔法を常に張るよう指示してあるし、ウリエル自身も『智天使』を発動させ続けている。


(そうさせること自体が罠なのか……?)


 考えれば考えるほど分からなくなることに、苛立ちを覚える。


「ウリエル様。バベルに入ってからは一点突破という策で行かれるのですか?」


 青年、イタロ=ザッカルドに尋ねられる。

 彼は今回の攻略組の中で最も若い。地方の聖騎士出身であったが、そこの隊長から推薦を受け、今では光華聖教会の聖地アデンにおいて、防衛中隊の隊長を任されている。

 

「こちらはそのつもりで行くが、相手は悪魔だ。姑息な手を使い、我々を撹乱するやもしれん。その場合は自身が最も良いと思う行動をすれば良い。」


 そう答えると、イタロはなるほど、と大きくうなずく。

 その様子を見て、ウリエルは若いのに大変よのぅ、と思わざるを得なかった。

 恐らく、彼のレベルであればある程度の悪魔であれば勝つことが出来るだろう。一週間前に現れた悪魔との闘いでは、彼は健闘したと聞く。

 だが、所詮その程度だ。

 ウリエルは、バベルの中に潜む悪魔たちはあのレベルではないと踏んでいる。

 一週間前の悪魔が最高戦力なら、今までバベルを攻略できないはずがないからだ。

 恐らく自分自身と同等かそれ以上のレベルの悪魔はいることは間違いないだろう。

 そんな悪魔と対峙した際、彼では完全に役不足となるのは明白だ。

 

 しかし、そんな彼と同じような強さを持つ者たちを連れてきたのには理由がある。

 それはウリエルやガブリエルといった、聖騎士の中でもトップクラスの者たちが下級悪魔たちに邪魔されずに戦える環境を作るためだった。


(全く、妾もそこまでせんといかぬとは。まだまだよのぅ……)


 ウリエルは最強と思っていた自分を久々に恥じ、そしてその怒りを必ずあの魔王にぶつけてやろうと強く思った。

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