第41.5話 私は勇者になってしまったようです・・・(中中)の話
黒い何かが、最愛の人の胸に剣を突き刺した。
そして、私は助けようとしても、身体が動けずに、ただ見てることしか出来ない。
聖剣の力を使っても、身体に纏わりつく黒い何かは、払うことが出来ずに、動けずにいた。
そして、黒い何か、彼を引きずる。
(やめてくれ・・・!どうして、そんなことをするんだ!)
叫ぼうとしても、喉を締め付けるように、大きな声は出せずに、掠れる。
手を伸ばす事すら、許されない。
(動いてくれ・・・!私の身体・・・!オーバー・クロックッ!!!)
しかし、発動しなかった。
魔力も、力もあるのに、何故。
私は、それでも力づくで、黒い何かを振りほどこうとすると、急に体の拘束が解ける。
その勢いで、思わず転んでしまう。
(これで・・・!)
だが、黒い何かは、既に彼の首を掴み、目の前の深そうな穴の目の前に立つ。
この後、何が起こるのかは予想できる。
私は叫びながら、重い鎧を脱ぎ捨て、走り出す。
時は既に遅く、彼はそのまま・・・。
私は気づけば知らない天井を見つめていた。
(まあ、知ってる天井なんだけど・・・)
どうやら、最初の訓練で私は気絶したようだ。
窓を見てみれば、もう夜だった。
この短時間で、再び夢を見たようだ。
案の定、何も覚えていないけど、良い気分の内容でないのは確かだ。汗が凄い。
取り合えず、着替えよう。
「ん・・・?これは・・・」
鏡を見ると、目には涙を流していた。
最初は汗だろうとおもったけど、そうではなかった。
自分は何故、泣いているのか、覚えていない夢に関係しているのか、分からずじまいに、すぐに拭く。
そして、すぐに着替える。
「まだ、食堂空いてるかな・・・」
私のお腹の虫が、そこそこデカい音が鳴る。
お腹空いた。なんでここまでお腹空いているのか、考えられるのは大体は先ほどの訓練で踏み込んだ時に"変な"感じがした。
あれが、ここでの魔力なのかな?
まあ、それはさておき食堂に、向うことにした。
私はゆっくりドアを開ける。周りを見渡すが、人の気配は感じなかった。
廊下に出て、長い廊下を歩いていると、突き当りのから誰かが通り過ぎて行った。
それは、見た事のある人物。
「ん?あれは・・・板野?」
あれは板野と、もう一人は"国王"だ。
私は腕時計を見ると22時を回っていた、何故こんな時間にあの二人が?
気になる所だが、尾行は失礼だし、私には関係ない事だろう。
そのまま、食堂に向うことにした。
食堂に着いた、どうやらこの時間帯は食堂ではなく、酒場になっていて、騎士達が集まってて騒いでいた。
酒臭く、男同士に肩を組んで、大声で歌っているのが目立つ。
私は、そんな雰囲気が少し苦手で、人が少ないカウンターの席に座る。
「いらっしゃいませ。何かご注文はございますか?」
オールバックで黒髪のバーテンダーの服の男の人が立っていた。
年齢は30代後半ぐらいだろうか、朝食の時には、見かけてなかったのだが、夜だけにしかこないのかな?
それに、かなりの色男だ。普通の女性なら惚れてしまうだろう。
「なんか、食べられる物はないですかね?」
「成る程・・・」
男性は少し悩みながら、何かを思いついたように話す。
「分かりました、少々お待ち下しさい、今お持ちいたしますね。」
そう言って、カウンターの裏に行く。
向かう後ろ姿は、とても優雅で"隙"がなく、恐ろしいぐらいに規則正しい。
私は、戦いの経験が無くても、その動きで一瞬で分かった。この人はものすごく強い、それは人外レベルでの強さと、華やかさの裏にとてつもない覇気を感じる。
すると、私が何者か分からない相手に緊張していると、デカい笑い声で話しかけてくるおじさんがいた。
この声は知ってる。ベット送りのアルバートだった。
「わーっはっはっは!ミツルギの坊ちゃんじゃねぇか!どうしたんだ、こんなところで」
貴方に気絶されて、ご飯食べてないんですよ!!!
ツッコミを入れたい衝動を抑えるの精一杯で、苦笑いをするしかなかった。
うん、ここで耐える、私は偉いと思うんだ。褒めてほしい。
まったく、大体はこの人のせいなのに、気楽なもんだ。
「ええ、ちょっと食事を取り損ねて・・・」
「そうかそうか!今日は運がいいな!なんせ、ミハエルの旦那が、来てくれたからな。あいつの飯とつまみは絶品なんだ!」
どうやら、先ほどの人の男性の名前はミハエルと言うらしい。
なんか、天界にいそうな名前だな。
アルバートの会話を聞いていたかのように、タイミング良く鉄板を二つ持って差し出す。
「こちらをどうぞ」
そこには、熱い鉄板の上でジュージューと音しながら焼かれているウィンナーが置かれていた。
香ばしい匂いが私の胃の中まで伝わる・これは絶対美味しい・・・!
だって、私の胃を刺激させてるんだから!これでも、食いしん坊なんだ・・・。
「アルバートも、これでいいですよね?」
「おう!ありがとうな!」
そう言って、アルバートさんのことを呼び捨てにし、ビールジョッキと同じウィンナーを差し出す。
呼び捨てにするってことは、親しい中なのだろうか?
そんなことは私は、油で暖かな光で反射するウィンナーを食べる。口に入れるとパリッと音が鳴って肉汁が口の中に広がる。
その肉汁は口から喉へ、喉から胃へ運び込まれるように全身に伝わる。
「美味しい・・・!」
こんな美味しいウィンナーを食べるのは初めてだった、よく見ると意外と大きいな・・・。
口に運ぶのが少し苦労するが、美味しいから問題はなかった。ハフハフッ・・・!
「やっぱり、ミハエルの旦那のつまみは美味しいな!」
「かの、 "嵐戮のアルバート"と言われた方に褒められるのは光栄でございます」
「冗談を言うのはやめろやい、お前さんの方が強いのに何を言うんだ」
お互いに笑いながら話す。
私はオールバックマスターとはどんな関係か気になった。
なんせ、アルバートさんが認める強者なんだから。
「アルバートさん、この人は誰だか知ってるんですか?」
「あぁ?ミハエルの旦那の事か?こいつは元騎士団の団長だぞ?」
私は驚く、温厚な見た目をした、色男が、元騎士団長なのか。
でもなぜ、酒場で働いているんだろう?
「いやー、俺的にはまた戻ってきてほしいのだがな。ミハエルの旦那は昔は"黒騎士"言われてこの国の最強の"戦士"だったんだ。」
「それは過去の栄光ですよ」
そう言って、ツッコミを入れるミハエルさんだった。
私は、その光景を見つつ、黙々とウィンナーを食べる。
うん、美味しいなー。
「だがよお、なんで騎士をやめたんだ?お前さんまだまだ戦えるのに」
「私はやりたい事をやってるだけですよ」
アルバートが言うにはやはり戦えるそうだ。アルバートさんと比べて、傷一つもないもんね。
そもそも、この人がやられる所が、なんか想像できないし・・・なんでだろう?
私は食べ終わり、席を立つ。
「ごちそうさまでした、美味しかったです」
「ありがとうございました、またお待ちしています」
ミハエルはお辞儀をする。
私は後ろのアルバートの笑い声が聞こえながら酒場から離れたのだった。
「さて、明日に向けて寝ることしますか・・」
私は今日の出来事を思い出しながら就寝した。
それからは私は剣を振り続けた。
アルバートさんにやられた事に、悔しかったのかただひたすら振り続けた。
意外と負けず嫌いなんだよね。これも、ある意味、家庭の影響かもしれないけど・・・。
そんな私は着々とLVを上げていた。
【御剣 正義】
職業 勇者
LV20
HP5000
MP2000
SP2500
攻撃 4500
防御 3000
魔力 3400
精神 2910
素早さ 1500
器用さ 1700
運 50
スキル
・天命剣「リミテッド・ソード」
・スラッシュ
・限突「オーバー・クロック」
・ブレイジング・ダンス
・剛力
・鉄壁
・クロス・ジャッジメント
パッシブ
・勇者の加護
・精霊の加護
・剣の加護
そんなある日、私の手から光り出す。
その光は徐々に剣の形になっていく。
それを見たアルバートは感心するように言う
「ほー!ミツルギの坊ちゃん、もう聖剣を出せるようになったのか!」
だから、私は女だって・・・内心そう思いながら、私は聖剣を手に取る。
剣なのにとても軽い、というか本当に軽いな。てか、本当にかるいなっ!?鶏の羽並みに!!
というか、見た目がご過ぎないか?というかもうちょっと普通の剣にならなかった?
もう少し、スマートにしてほしいんだけど。
「さすが、御剣君、男らしい・・・」
「聖剣を持つだけでイケメン度が増す御剣君。」
「しゅきぃ・・・」
おかしい。普通の女の子なのに、何故男らしいさが増したり、イケメンとか言われなければならないのだ。
私は泣く泣く聖剣を振った。
ちなみに聖剣は試し斬りで案山子に試すと、全く力を入れてないのに綺麗に切れてしまった。
ひえぇー・・・取り合えず訓練の間は使わないでおこう、人にあたれば振ってるだけで殺しかねないよこれ・・・。
残り一週間後には、北へと遠征に行くから、手を抜かずに訓練をする。
もっと強くなって、あの人をちゃんと守れるぐらいには強くならないと・・・。
そう言って、私は訓練を終えて部屋に戻る。
「疲れたなぁ・・・」
私は、いつも通りにシャワーをする。やっぱり訓練の後は汗を洗い流して、スッキリするのに限る
お風呂を済ませ就寝をしようとした、だけどなぜかこの日は眠れなくて、気分転換に外に出た。
私は外に出て、景色を眺め夜風にあたった、気持ちが良い・・・。
風にあたっていると、男女の声が聞こえる。
こんな時間に男女の声?
私は気になって声の方向を見てみるとそこには、黒杉くんと美空さんがベンチに一緒に座っていた。
その二人が笑っている姿を見ると胸がキュッとなった。
「楊一は我慢とか無茶をしそうだから、その時に癖で見極めるの、気づかないと思ってたら大間違いよ。それに何年幼馴染やっていると思っているの?」
「はは、違いないね」
美空さんが黒杉くんの頭を撫でてた。
あれ?普通逆じゃないか・・・?いや、私も撫でたいけども・・・。
細かいことは気にしないでおこう。
「私は、絶対に楊一を守るわ」
「み、美空?」
「普段から、貴方には色々助けられているわ、今も昔も」
「そうかなぁ?僕は昔から気が弱かったし、美空を助けるよりも、助けられるほうが多いような気が・・・」
「細かい事はいいの!!」
私はただ眺める事しかできなかった。
「(守るか・・・)」
そうだよね。今更、私が黒杉くんを、守るなんておこがましいのかな・・・?
二人はお互いに顔が赤くなる。
私は、ただ遠くで見つめる事しか出来ずに、胸が締め付けられるように痛くなり、虚しくなる。
「(あの二人はやっぱり付き合ってるのかな?)」
それもそうだ、私との関わりなんて合って無いようなものなんだから、必然的に美空さんを選ぶなんて当然なんだから。
私が、手を伸ばしても届かない位置にいるのだから・・・。
「(そんなことならもうちょっと勇気を出して仲良くしたかったなぁ)」
追いかける事しか出来ない自分を悔やんだ。
そんな二人の姿を見るとなぜか視界が何故か滲んでくる。
困惑した、なんでだろうと思って私は目を擦った。
それは自分が流した涙だった。
(はは・・・私、泣いてるんだ・・・ださいなあ)
苦しかった、ここまで苦しくなるのは初めてだった。
そして、私はここで自覚する。
「(あぁ、本当に好きだったんだな)」
そう、最初にして最後の恋だった。
最初はこの感情はなんだったのかが分からなかった、ファンとしての好きだと思っていたのだ。
だけど、私はこの出来事で知ってしまった。紛れもなく"恋"だった。
しばらくして、美空さんの声が聞こえる。
「私は・・・」
「(ッ・・・)」
私は聞きたくなくて、その場を逃げるように走り出した。
視界が揺らぐ中、私は自分の部屋にもどった。
「お?御剣じゃな・・・」
「ごめん・・・」
私は下を向いて走った為、誰だか分からなかった。
声すら誰かもわからないぐらいに自分を動揺していた。
その夜、私は枕を濡らして寝たのだった。
――――――
「・・・なんだったんだ?」
今の御剣だったよな?なんで泣いてるんだ?
「あれ、一樹こんなところで何してるんだ?」
「あぁ、帰りが遅かったからさ、板野に絡まれてるんじゃないかって思って探しに来たんだ」
「あぁ、ごめんごめん!丁度帰る所だったから一緒に戻ろう」
何もなかったようだ。
まあ、何もなければよかった。
「そういや、さっき御剣に出会ったけど何かあったのか?」
「いや?僕は会ったないよ?」
「そうか・・・」
じゃあ、なんで泣いてたんだ?
ふむ、どうやら楊一には関係なさそうだし、別の事か?
まあ、部屋に戻るか・・・何か、もやもやするが・・・考えても仕方ない。
そう言って二人は談話しながら部屋に戻ったのだった




