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君の愛は、美しかった  作者: つこさん。


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第四十三夜 「いただいたお花の、香りを知ることもできないのだもの」

 


 なんと本当に次の日の午後にはマインラートの拘禁が解けた。

 どれだけ有能なのだろうか、ヨーナスという弁護士は。


 ヨーナス自身の予定がつかずに最近まで依頼できなかったことを、ユリアンは心の底から口惜しく思った。

 だが過ぎたことをどう言ったところで時間は戻らない。




「おもいっきり喧嘩売ってきました。

 正論言ってきただけですけどね。

 これで僕は要注意人物だ。

 仕事にあぶれたらよろしくお願いしますよ、伯爵」




 ユリアンはその場でヨーナスに一筆をしたためた。

 シャファトの名を用いた信任状で、これがあればいくらかは身の守りになるかもしれない。



「今は当主印がないので、正式なものは改めて届けましょう。

 気持ちとしてはこちらを差し上げるよりも、専属契約書に署名をいただきたいところですが」


「そりゃあ嬉しいお申し出で、伯爵。

 もう少し泳いでいたい気もするんで、時が来たらお願いしますよ」


「いつでも。

 書面を用意して待っていますよ」




 マインラートを迎えに行った。

 身元引受人がユリアンであるのでひとりで。

 マクシーネ夫人もオティーリエも、迎えるための準備のためにそわそわとしながら残った。




 憔悴した様子のマインラートは、それでも瞳に喜色を浮かべていた。

 互いに言葉もなく抱き合って、共にイルクナーへと帰る。





 棺に入れられたモーリッツ氏と対面し、マインラートは一筋だけ涙をこぼした。




 ****




 弔問客は少なくはなかった。

 むしろ最近のイルクナーの状況を考えたら多いと言っていい。

 イルクナーの姓を持つ騎士はこれほどまで多いのか、とユリアンは驚く。

 マインラートの祖父の時代からの世代のイルクナーが勢揃いした。

 上は八十代、下は現役小姓の十三歳で、総勢で三十人を超えた。


 それと共に多くの貴族位はもちろん、市民層からさえも悼む気持ちを携えてきた者たちがいた。



 これだけ愛された人が逝ってしまっただなんて。

 どうしようもない気持ちで唇を噛む。

 ユリアンはまだ、オティーリエの涙を見ていない。




「どうしてこんなことに……」




 誰が発した嘆きだったとしても、それは多くの者の代弁だ。




 市街地のすぐ側にある国営墓地。

 先代イルクナー子爵のすぐ隣の場所に、モーリッツ氏は横たえられた。



「こんなに早く親に並びおって、この不孝者が」



 土を掛けられていく姿に小さく叱りつけたのは、八十六歳と言っていたイルクナーの者だ。


 しゃんと伸びたたその背には、言葉にし難い悲しみが溢れていた。

 年若いユリアンには、きっと理解できない深いそれをじっと見た。



 ユリアンはオティーリエの隣に立ち、その手を握っている。



 手袋の上からでもわかる冷え切った指先を、どうにか温めたくて。




 ****




 マインラートはイルクナー子爵になった。




 当然ながら襲爵祝賀会は計画されなかった。

 その代わりに多くの弔問の意があらゆる形でイルクナーに届いた。




「……やっぱり、死んでしまうより、生きている方がいいわね」



 ある時、オティーリエがぽつりと呟いた。



「いただいたお花の、香りを知ることもできないのだもの」




 何も言えなくて、ただユリアンはその(からだ)を抱きしめた。





 冬季休暇に入った。

 緊急事項や朝廷警備を除いて、公の業務が停止する。

 少なくともこれで二カ月の間は、マインラートが再び拘禁されることはない。

 冬の間の社交の期間は、シャファトにとってもイルクナーにとってもこの度は故人を悼む時間だ。


 今年は雪が深くなりそうだ。

 窓から眺めた白を、ユリアンはなにか欠けた気持ちで見つめた。



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別視点

わたしの素敵な王子様。

本編

いねむりひめとおにいさま

【閲覧ご注意ください・イメージを損なう恐れがあります】君の愛は、美しかった・登場人物イメージ

君の愛は、美しかった・登場人物イメージ(活動報告ページへ飛びます) script?guid=onscript?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] オティーリエえええええ なんか一気にいろいろありすぎて、その心労やいかばかりか。 人生の最高と最低が一時にきてるもんなこれ。 しかも普通の人生なら体験しえない最高と最低ですよ、なんてこった…
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