第二十八夜 笑顔の抑制が効かなかった。
本日二本目です。
いちゃつき回。
飛ばしても大丈夫です。
朝食をイルクナーの従僕団と共に取った。
普段は家族で共に食事をしていたマクシーネ夫人も食堂の席に着き、こんな中でもどことなく嬉しそうな表情をしていた。
「部屋を使えるように、優先的に調査してもらいましょう」
食後にそうマクシーネ夫人に言うと、「あら、このままで構わないですわ」と返された。
「こんなことがなければ、共に過ごすこともなかった家人と寝起きをするのも、悪くないと思いますのよ」
つくづく、強い女性だ、と思った。
シャファトに移る二十四人の部屋ひとつづつに騎士が着いて、持ち出す荷物の検査を行った。
先触れでユリアンは先に帰ることにした。
オティーリエがどうしているのかも気になったし、拘束された二人の状況も確認しに行かなければならない。
父とも一度話したかったがもう出勤してしまっている時間なので、それは帰宅を待つことにした。
夜勤明けで馬車に乗り込んで去る騎士に紛れる前に、ホルンガッハー氏はユリアンに呟いた。
「第三師団に行かれるようでしたら、リーンハルト・ケッペンを訪ねてください。
もうひとりの指揮官です」
なぜ、という理由は告げなかった。
馬を借りて単騎でユリアンは帰宅した。
馬丁に馬を預けて玄関を開ける。
「坊っちゃん!」
感極まったように家令のフースがユリアンを迎え入れた。
なんと言っていいのかわからないのはお互い様で、深刻な視線を交わしながらユリアンは「ただいま」と言った。
「湯を沸かしましょう、まずはごゆっくりなさってください」
「オティーリエは? 母さんと来ただろう?」
「はい、二階の客室にお通ししました。
従僕の皆さまの受け入れも問題ありません」
「ありがとう。
会いたいな。
このまま行っても問題ない?」
「髪に櫛を通しましょう。
それにひげも剃った方が」
「……先に湯をもらうよ」
階段を上って自分の部屋へと向かう。
「ユリアン様!」
背中に衝撃があってユリアンはたたらを踏んだ。
背中に飛びついてきたのはオティーリエで、肩越しに振り返ると真剣な瞳と目がかち合った。
「おはよう、オティーリエ。
なにか不自由はなかっただろうか」
「ありませんわ。
皆さんとても良くしてくださるの」
「それは良かった。
そんなに慌ててどうしたんだい?」
言われて、オティーリエはユリアンから離れた。
向き直ると、オティーリエは後ろで手を結んで俯く。
「……会いたかったのです」
可愛さが過ぎるんだが皆聞いてくれこの天使はわたしの妻なんだ。
「わたしも……会いたかった」
ユリアンが手を差し出すと、おずおずとオティーリエがそれに手を重ねた。
それを引いて腕の中に閉じ込める。
小さくて柔らかくて――愛しかった。
「ユリアン様……ちくちくします」
「あ、ごめん」
少し離して顔を覗き込む。
いつものオティーリエだった。
少しだけ安心してユリアンは微笑みつつ息を吐いた。
「君のお母さんは、すごいな」
一晩の内にあったいろいろを思い浮かべながらユリアンは言った。
「どんな風に?」
「強い、とても。
学ばされることがたくさんあったよ。
今こうして戻って来れたのも、マクシーネ夫人ならば後を任せられると思ったからだ。
さすが、多くを学んでこられた方は違う。
いざという時の肚の据わり方が違う」
「それはロスヴィータお義母様もきっと一緒です」
「そうだね、母さんが強いのは日々実感しているよ」
「そうでしょうとも。
ユリアン、廊下の真ん中で何をしているのです。
婚約があるとはいえ、まだ結婚前ですよ! 慎みなさい!」
背後から母の叱責が上がって慌ててユリアンはオティーリエを離した。
「……おはようございます、母さん」
「なんて暢気なことでしょう、この大変な時に。
早く身支度をしてきなさい、話さなければならないことがたくさんあります。
オティーリエ、抑制の効かない動物は置いておいて、一緒にお茶をいただきましょうね」
「はい、お義母様。
……でも、ユリアン様は動物じゃないわ。
わたしの旦那様なの」
笑顔の抑制が効かなかった。




