第二十六夜 「どうして、こんなことに……」
ひとまず母ロスヴィータに先に帰宅してもらい、シャファトの受け入れ体制を整えてもらうことにし、それにオティーリエも同行させた。
持ち出しを許されたのは衣類のみで、それもすべて検査がなされた。
下着類すら点検されたらしい。
女性らしい羞恥心でオティーリエは真っ赤になり俯いていた。
一応気を遣って既婚の騎士を使ったらしいが、憎たらしさが最高潮になりユリアンは検査員の首を締めないようにするのがやっとだった。
それに気付いたのか検査員は一言「規則ですので」とユリアンに呟いた。
馬車を見送り、ユリアンはイルクナーのシャファトよりもずっと大きな館を見る。
イルクナーが贅を尽くす生活をしている家であったら、使用人の受け入れはシャファトのみでは難しかっただろう。
できることなら近日中にすべてが元通りになるようにと希っているが、ユリアンのときのようには行かないだろうことは察せられた。
マンフレート・フェーンは、イルクナーを訪れたのだという。
ユリアンがニクラウスと飲み明かしたあの日の夕方に。
皆元気にしているのか、と小姓ひとりひとりに声を掛け、少しの間話して、去っていったのだと。
おそらく納屋に立ち入ったのもその時だろう。
しかし、そう仮定したところでモーリッツ氏とマインラートの関与が否定される証拠があるわけではない。
マンフレートはなぜイルクナーに罪を着せようとするのか。
いや、他の二人も結託していて、マンフレートのみの犯行ではない。
イルクナーに気軽に立ち寄れる立場であったから、マンフレートが来たのだろう。
なぜイルクナーでなければならなかった?
ユリアンは唇を噛んだ。
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「マンフレートは、クヴァール国から戦争孤児の移民としてやってきた子どもでした」
二人きりになった時、家令のヴァルターはぽつりと言った。
「手負いの獣のようで、けれどいつも悲しそうな瞳で、助けを必要としている小さな子ども。
当時十歳を過ぎたくらいでしたが、六歳のオティーリエ様と変わらないくらいの体格でした。
モーリッツ様は、それはそれは心を砕いて接していらした。
マインラート様とも、実の兄弟のように育ってきたんです。
それなのに……」
はらり、とヴァルターの目から涙が落ちた。
「どうして、こんなことに……」
ユリアンは何も言わずにその肩に腕を回した。
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従僕団の内、半数近くが居残りを決めた。
敷地内全域の調査は終わっておらず、制限された不自由な生活になろうとも、そうした。
シャファトで預かる半数も積極的にそうしたいのではなく、現状すべての従僕がイルクナーにて生活するのは難しいからその選択をしただけだ。
二十四名がシャファトに向かうことになり、侍女長が引率する。
家令ヴァルターは、残る以外の選択肢を持たなかった。
父ヨーゼフからはユリアンの休暇を一週間申請したこと、自分は王宮と朝廷で引き続き動くことを述べた簡単な手紙が届いた。
それとともに従僕団への大量のきゅうりのサンドイッチ。
王宮の廷臣食堂の厨房が、ヨーゼフの頼みとあって全力で協力してくれたそうだ。
そこまで気が回らなかったことにユリアンは反省した。
そんなささやかな物でも、従僕たちは口々に礼を述べて受け取った。
夜も更けてしまい、移動は次の日に持ち越すことになった。
二十四人すべての手荷物検査を行うには時間がかかる。
それぞれの私室も捜査対象であり、勝手に入ることは許されなかった。
よって男女に別れて、大部屋で寄り添うように皆で眠る。
ユリアンも、そこに紛れた。
硬い床に寝転がり、窓から差し込む月の光を見るともなしに見ていた。
誰も彼も寝付けなくて、けれど話す言葉もなくて、ただ静まり返った部屋の中で皆が同じことをそれぞれに考えていた。
ユリアンは目を閉じた。
瞼の裏に浮かんだのは、最後に見たニクラウスの笑顔だった。




