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看護の道  作者: 蒼龍 葵
一章 私が看護師になるまでの道のり
2/11

「私は看護師になりたくなかった」


 はい、真面目にやります!


「私は看護師になりたくなかった」



 「え?」


 というはてなマークが出た方が殆どでしょう。我が家は親父以外みんな看護師なんです。だから絶対になりたくないという気持ちしかありませんでしたよ。

 昔流行ったとあるドラマはほんと面白く作られておりましたが、あれを見て看護師を目指した人は多分潰れますね笑。

 誰だってあの仕事の大変さは見てりゃわかる。私は末っ子で共働きの親は朝の挨拶も交わさない日があるくらい会話のない家で育ちました。親はいつも家にいない、週末休みだと家事に追われる母親に話しかけても返事すらない。だから看護師って仕事が大嫌いでした。

 夕方に帰宅しなきゃいけない指令があったのも家に犬がいたから。散歩と晩飯のおかずを適当に作るのは私の仕事でした。とはいえ、レシピがぜーんぜん無かったから就職してからは専ら買い物してお惣菜を買って帰る生活になりました。

 他の友達はおかーさんが作るあったかいご飯に、お昼は手作りのお弁当。運動会もお手製のお弁当を楽しみにするじゃないですか。でもね、うちはそれがなかったんですわ。

 授業参観に三者面談。どっちも親は忙しくて、家庭訪問も別の日にしてもらったり、人嫌いの親父がジロジロ見られるのを嫌がりながらもこっそりきてくれたり。

 母親を「母親」として尊敬できたのは仕事の面だけです。そんな話をすると昔は包丁が飛んできたので言えませんでしたが(お


 私は高校生の頃までずっと漫画家を目指しており、看護師になる気は一ミリもありませんでした。そりゃあ中学になる時に「おかーさんみたいな看護婦(当時は看護『婦』)になりたいです!」とか言っておかん泣かせたけど、ほんと、この仕事になる気なんて微塵もなかったよ。


 だって、血が嫌いだったんだもん。


 マジで血が嫌いで、ホラー映画見て、骨折とかのシーン見てゲボるくらい嫌いなんですよ。女の子のアレの日とか自分ので軽く失神するんだぜ? もはや自殺レベルですよ。

 それがどこで道を間違えて現在に至るかって話は長くなりますが、こういうやつもいるんだな〜的な気持ちで軽く読んでください。


 私の転機は行きたくない高校に入学し、行きたくもない看護科に入り、そんで秋の球技大会が終わった翌日の話です。

 朝起きてトイレで初めてゲボ。お腹調子悪いのかな〜と思い、その後も3回ほどトイレを往復。

 洗面所ラッシュの時間(兄貴が先に仕事に行くので譲り合い)を避けて歯磨きをしていたらまたゲボ。立てなくなり椅子に座って歯磨きをしていたらやっと母親が異変に気付き、出勤とついでに職場の救急外来受診に。 なんとはしかでした。二歳くらいの時にはしかやってるんですが、兄貴が20歳くらいではしかになって、自宅療養してたからもらったんですねえ。

 唇は紫でポカリ飲んでは吐き、ヘロヘロになった私の血管は見えませんでした。外来の看護師さんに何回も刺されてマジで死ぬと思っていたら母親召喚。「ちょっと痛いよ」と言いつつ全く痛くない刺し方で点滴開始。

 弱ってると看護されるありがたみがよく分かります。就職してやる!という気持ちで全然看護学校に行く勉強なんてしてなかったわけですが、入院をきっかけに少しだけ気持ちが変わりました。とはいえ、この時点ではまだ看護師になろうなんて思っていませんよ。

 3日間食事が全く取れず、毎日吐くから隣のベッドにいた女の人に「気持ち悪い」「へんな病気じゃないの?」「なんでこんなコいるのよ」といわれ朝から晩まで一日中カーテン隔離。一人部屋が空いてなかったんだもん仕方ないじゃないか(しかも昔の病院は滅多に一人部屋が空いてない。6人部屋すし詰め)

 具合悪いし熱は38度から下がらないしトイレに行くのも足がふらついて何回もトイレで転びました。抗生剤が効いて一週間くらいで元気になり、売店まで点滴しながらふと一階に降りた時です。

 当時うちのおかんは1日千人くらい患者が来る循環器内科で働いておりました。ちょー忙しくて医者と患者との橋渡しや受付も忙しくてピリピリしてる職場です。もちろん患者は高齢者しかいないから対応も大変。たまたまそこを通りかかった時のおかんの仕事ぶりを見て初めて「看護師」としての母親を尊敬しました。

 家では本当週末しかいないし、仕事のあがりが遅いから土日はいつも疲れて昼寝してる感じで、家族の会話ってのもないし、子供を育てるために身を犠牲にして頑張ってくれてんだよなあ……という思いしかなかったわけですが、おかんがちゃんと何ヶ月ぶりの患者さんの訴えを聞いてあっちもこっちも呼ばれるのに嫌な顔一つしないで対応するその姿。

 そりゃあ「白衣を着たら私達は仕事人だよ。プライベートは絶対に持ち込んだらいけない」と言うのがわかります。


 上の言葉はごく当たり前の事なんですが、うちの母親から看護師の心得として必ず覚えておきなさいと言われた言葉です。

 私達は人間です。好きな人にフラれたり、大事な人がなくなったり、自分の体調が悪かったりするとそれとなく態度や顔に出てしまいます。それは当たり前なんです。人間だから。しかし看護師はそうであってはいけないんです。相手は具合が悪くて病院に来てる。患者相手にプライベートもろだしにして態度が悪かったら下手すると訴えられる話です。


 売店に行くのも忘れて、私は母親の仕事ぶりをみて病室に帰りました。母は病院でかなりの有名人で、「●さんの娘さんね、おかーさんに昔すごくお世話になったのよ」と言う人が殆どでした。

 医者からの信頼も抜群で、どこの職場にお手伝いに行っても仕事が出来る看護師。ただ、おかんは最初っから仕事が出来たわけじゃない。年上のおばさんにいじめられ、新しい職場で仕事内容を教えてもらえず、独学と医者に聞いて見えない努力をする人だったからこそあれだけの知識と反面教師で人に優しく、という行動が出来たのかなあ。

 おかんのような看護師になりたい。とは思わなかった。でも入院して初めて母親の仕事ぶりを見て、自分が誇れる仕事ってこういうものなんだ。と思ったのは事実です。

 本格的に看護師になろうと決意したのはまだ先のお話。

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