第8話
二人は、シルヴィアに言われたように南の王城へと向かった。
南の国は、温暖で明るい国である。家の庭先にはレモンやオレンジの木がゆれている。春の明るい日差しのもとで、ピンクや白の花々が揺れている。庭先はもちろんのこと、農園や畑、川沿いのあぜ道にも大小の花々が咲いていて、見ているだけで華やいだ気分になってくる。
いつもなら、のんびり花を見ながら散歩するところだが、今日はそういうわけにはいかない。
「綺麗ねえ」
そうつぶやくものの、マリッサはジルを早足で駆けさせるのをやめない。
アップルはというと、無言で前を見つめたまま、ジンジャーを走らせ、表情を変えない。
「二人いればなんとかなるよ」
見かねたマリッサが声をかける。生まれた時からずっと一緒にいるマリッサから見ると、昨日から言葉少ななアップルが緊張しているのが、手に取るようにわかる。アップルは、そんな妹に苦笑する。
「お前はお気楽だな」
そう憎まれ口を叩きながらも、アップルの表情が和らぐ。
それを横目にみて、マリッサはニッコリする。
アップルとマリッサは、髪の色と瞳の色が同じなため、一見そっくりである。けれども、顔立ちや性格は、あまり似ていない。
アップルが切れ長の瞳に引き締まった口元をしているのに対して、マリッサはくりくりっとしたよく動くぱっちりした瞳にふっくらとした唇をしている。
ソレイユとルナ。太陽と月。そんな名前をつけられた二人。
「マリッサのほうが太陽みたいだ」
アップルは、そんな独り言をつぶやいた。