第32話
地下道は、不思議な輝きを放っていた。
蝋燭などの灯りが灯っているわけではない。
ただ、壁や地面、天井が、ぼわんと光をはなっているのだ。
不思議な光景である。
床は、ふかふかと柔らかい。
「どうして壁が光っているの?」
アップルが、壁をさわりながら聞く。
「東の国の魔法です。
と、言いいたいところなのですが、これは光苔という苔です。
暗いところで発光するのです。
東の国では、よく使われているものですわ」
こともなげに、更紗が答える。
「苔なんて使わなくても、魔法で照らしちゃえばいいじゃん」
ヴィーは、不思議そうだ。
「魔法で、これだけ長い地下道を照らすとあっては、魔力がたくさんいりますわ。
そんなことをするより、この苔のほうが便利です。
この地下道は、少しずつ水が染みてくるので、水をやる必要もありませんしね」
更紗は、笑いながら話す。
初めて見るものばかりの東の国に、アップルとマリッサは、興味津々だ。
ヴィーは、まわりの珍しいものよりも、すぐにつっかかってくる更紗に興味津々といったところか。
二人は、一緒にいると憎まれ口ばかり叩いている。
長い長い地下道は、少し湿っていて、風がもわっと生ぬるい。
「明るいのに、お化けでも出てきそうな風だねえ」
ヴィーが首をすくめる。
更紗が、しいっとヴィーの唇に指を当てる。
「ここは、歴代の王族の方々の御霊も、よくお越しになられるのです。
滅多なことを言わないで下さいませ」
「えっ、本当に出るの?」
ヴィーは、青くなる。
更紗は、そんなヴィーを見て、くすくす笑う。
「出るって言ったって、あなたのご先祖さまでしょう?
怖いなんて、おかしいですわ」
ヴィーは、そういえばそうかと思い直した。
そして、ふっと暗い顔になる。
「じゃあ、僕の母上も出てくるのかなあ・・・」
遠い目になる。
いつもは明るいヴィーの少し沈んだ雰囲気に、なんとなくしんみりした空気になる。