第31話
「あちらです」
更紗に案内されて湖の波際の道を進んで行くと、東の国の王都が見えてきた。
東の国の王都は、湖に沿って賑わっているらしい。
露店や店が、ぽつぽつと増えてきた。
黒いまっすぐな髪の男や女が、声をはりあげて品物を売っている。
南の国とはあきらかに異なる着物や文化を感じさせる。
湖沿いだからだろうか、肉屋はほとんどなく魚を売っている店が多い。
パン屋も見当たらない。
東の国は、パンなどの小麦ではなく米を主食にしているのだと更紗が説明する。
南の国の服装をしているアップルたちは、黒い髪の集団の中では殊更目を引く。
3人のように茶系や金色の髪をしているものは、商品の仕入れにやってきたと見られる商人たちが、ちらほらといる程度。
とくに、マリッサのような女性は、よほど珍しいのか、道行く人の半分くらいが振り返る。
そんな東の国の人たちを見て、更紗が苦笑する。
「マリッサさまが、お美しいから、みな、気になって仕方がないようですね」
マリッサは、うんざりしたような顔をしながら、マントのフードをかぶりなおす。
「お城は、まだ?」
そう言われて、更紗は街を少し抜けた湖の反対の高台にある屋敷を指差した。
「あそこですわ」
3人は、いぶかしげな顔をする。
「あの屋敷からお城への道が通じているのです。
東の城の者は、たいていが魔法を使えますから、いつもは魔法で出入りするので道は、使いません」
3人には、よくわからないことだらけである。
4人が、屋敷にたどりつくと、男が入り口を開けてくれた。
男に案内されるまま、屋敷の奥へとついていくと、男はいくつもの曲がり角を曲がったあと、ずらりと並んだドアのひとつを開けて地下へと続く階段の前で足を止めた。
そして更紗に向かって、ふかぶかとお辞儀をする。
更紗は、男に礼を言うと、3人を連れて階段を下りていった。