第29話
「まあ、そう言うな。
私たちが南の国を出た時には、なんのあてもなかったのだ。
とても貴重な話を聞かせてくださっているのだぞ」
アップルが苦笑する。
そして老婆に向き直って話を促す。
「闇を打ち破るには、どうすればよいのですか?」
礼儀正しいアップルの言葉に気を良くした老婆は、再び話し出す。
「闇を打ち破るにはまず、消えた王族たちを探し出すことじゃ。
彼らは色々なところに色々な形で隠されておる。
探し出して、そのものの本当の名前を呼べば元に戻る」
「色々な形とは・・・物になっているということですか?」
「いいや、物とは限らん。
人かもしれんし、物かもしれん。
道端の木かもしれんし、農家の豚かもしれん。
それは、お前たちが見つけることさ」
またもや余計なことを言いそうになるヴィーの口をマリッサがすんでのところで押さえつける。
「ふがふがふが・・・」
ヴィーを尻目にアップルは老婆に向かってふかぶかと頭を下げた。
「おかげさまで大変貴重な情報を得ることが出来ました。
ありがとうございます」
老婆はヴィーのほうをちらっと見ながら、アップルの礼の言葉を受け入れる。
「素直になることさ。
素直に澄んだ心で物事に耳を澄ませば、真実が見えてくる。
けど、これ以上教えてやったら、わたしゃいい魔女みたいじゃないか。
そんなものには、まだまだなりたくないね」
老婆は鼻で笑う。
3人は、ふがふがしているヴィーを押さえつけながら、老婆に丁重に礼をいい、老婆の家を後にした。