第2話
あの時老人に拾われた二人の赤ん坊が、なぜここにいるのか。
15年前の冬、かの老人はシルヴィアに頼まれて、はるばる山を越え、北の国に入り、国境付近の川沿いの小屋にいたのである。川は北の国の城の脇を通って、国境付近から海へと抜けていた。
老人は、川沿いの小屋を出たあと、二人の赤ん坊を抱えて北の山を越え、南のトンネルを抜けて、ようやくこのシルヴィアの屋敷までやってきたのである。シルヴィアは二人を拾った状況を老人に聞くと、悲しみをこらえようとはしなかった。オリヴィアのことを考えると、涙はとめどなくあふれた。
二人は、北の王家の生き残り。いや、まだ他の人々が死んだと決まったわけではない。
しかし、二人は今のこの大陸にとって、北の国に光をもたらす切り札ともいえる存在なのである。北の国が闇につつまれたこと。それは徐々にまわりの国々にも脅威となりつつある。
二人の存在は、ほんの一握りの人にしか知られていない秘密であった。
二人の名前は、ソレイユ王子とルナ王女。
しかし、今の名前はアップルとマリッサとされていた。アップルとマリッサは15歳。魔法剣の使い手であるアップル。そしてマリッサはシルヴィアに魔法を教わっていた。二人はシルヴィアから深い愛情をそそがれつつ、厳しく勉強させられていた。アップルとマリッサは、時々勉強から逃げ出して叱られることもあるものの、全体的にはシルヴィアの良い生徒であり愛しい子供たちであった。
シルヴィアはなぜ二人を助けたのか。
それは二人が北の国の光だからというだけではない。二人の母、北の国の王妃オリヴィアは元々南の国の王女であり、シルヴィアの名付け子でもあった。シルヴィアは、あの老人に頼んでこの15年間、オリヴィアを含む王家の人たちの行方を探し続けていた。
この15年、3つの国では表面的には平和な時が続いていた。しかし最近、北の国との国境が騒がしくなってきていた。
闇は北の国から滲み出てきた。