第26話
足は、引っ張っても引っ張ってもなかなか動かない。
4人は、腰を落として全身に力をこめる。
手が引きちぎられそうである。
すぽっ
その時、突然、カラフルなスカートをはいた足が飛び出てきて4人を襲った。
いや正確には、カラフルなスカートをはいた老婆が、突然ドアの向こうから飛んできたと言えばいいのか。
危うく4人は老婆と一緒に、水に押し流されそうになる。
ところが、老婆が飛んでくると同時に、小さなドアから噴出していた水もぴたりと止まったのだ。
老婆は、どたっと4人の上に落ちてくる。
「いたたっ」
老婆が腰をさする。
「あの・・・降りていただいてもよろしいですか?」
更紗が声をかける。
老婆は、そう言われてようやく、自分が4人の上に乗っていることに気づいたようだ。
「おや、ごめんよ」
そう言って、ようやく4人の上から降りる。
老婆は立ち上がって、自分の家の玄関を見回す。
「おやまあ、びしょ濡れだね」
にこにこしながら老婆がいう。
「おや、私の服もびしょ濡れだ」
自分の服を見下ろして、びっくりしたように言う。
そりゃー、あんだけ水を浴びてりゃびしょ濡れにもなっちゃうさ。
ヴィーはそんなことを思うが、さすがに口には出さない。
「大丈夫ですか?」
更紗が心配そうに聞く。
「ああ、なんてことないさ。
ちょっとトイレの水を出しすぎちまった」
「トイレ?」
4人が小さなドアの向こうをのぞくと、確かにそこにはトイレがある。
「トイレの水を流しとったらな、ちょっと勢いが良すぎて杖がトイレにはまってな。
杖は抜けんし、杖が抜けんことには水も止めれんし、さすがに困っとったんじゃ。
お前さんたちが来てくれて助かったよ」
見れば見るほど不思議な老婆である。
落ち着いて見ると、その上着もスカートも、何色の服とかいう色はない。
赤、青、黄色、ピンク、茶色、黒、紫、白、金色、銀色、緑、オレンジ色・・・。
色んな色のカラフルなはぎれがちょっとずつつぎはいだような不思議な服である。
その服は、びしょびしょに濡れたままである。
手には、大きな杖を持っている。
「そうじゃなあ、お礼にコーヒーでも飲んでいっておくれ」
そこの居間で座って待っているように言うと、老婆は玄関の扉を閉めた。
「あの・・・私たち、濡れておりますから、このまま座ると椅子が濡れてしまいますわ」
更紗が老婆に恐る恐る言ってみる。
「ああ、気にしなくていいよ。居間で腰掛けといで」
老婆は、それだけ言うと、トイレの横のドアを開けて、さっさと台所へと行ってしまった。