第15話
「なぜ亡くなっていないことがわかるのですか?」
アップルが聞く。
「南の国の王族の肖像画には、魔法がかかっているのです。ほら、叔母上の肖像画の背景は白いでしょう?隣の父上のも白い。でも、亡くなった王族の肖像画には、花が咲くのです」
そうヴィーに言われて、まわりを見回すと、肖像画のほとんどには百合や薔薇、たんぽぽ、アイリスなどの様々な花が描かれている。それぞれの肖像画には、一種類の花だけが人物を囲むように咲いている。
「この方は?」
マリッサは、オリヴィエ王の横の黒髪の女性の肖像画を指差した。
そこには、長い黒髪を垂らした艶やかな女性が描かれている。白いドレスをまとったその女性の周りには、満開の桜が描かれていた。
「僕の母です」
ヴィーの瞳は、切なそうに画を見つめた。
「母は…僕を生んだあとしばらくして亡くなりました」
「それは、申し訳ないことをお聞きしました」
マリッサは、慌てた。
「いいのです。母の周りには桜が咲いているでしょう?この桜は、母を表しているんですって。王族が亡くなると、その人に最もふさわしい花、その人を表す花が画の背景に表れるのです。それ以来、桜を見ると母を思い出すのです。少し暗くなっちゃったですね」
ヴィーはははっと笑う。
「いいえ、貴重なお話でした。ただ…、普通にしゃべってもらって、構わないよ。私たちはいとこ同士だろう?」
アップルが笑いかける。隣にいるマリッサもうなづく。
ヴィーは、少し泣きそうな顔をしている。
「僕には、父上しかいないのかと思ってた…」