第9話
昼すぎになって、二人はおなかがすいてきたことに気づいた。少し先を見ると、小川がある。
「お昼にしましょうよ」
マリッサはアップルにそう声をかけて、小川のほとりの草むらに入っていく。
二人は、食べ物を取り出そうとシルヴィアに渡された袋をのぞきこんだ。パンやチーズ、ジンジャーとジルの角砂糖などがつまっている。その時、マリッサは袋の底のほうにある袋に気がついた。
開けてみると、そこにはたくさんのクッキーがつまっていた。
「シルヴィアおばさま特製の、香草入りクッキーがいっぱい。夕べの甘い匂いは、これだったのね。こんなにたくさん…」
アップルが手を伸ばそうとするが、マリッサは止めた。
「これ、半年は持つのよ。しかも、一枚でお腹いっぱいになるんだから。そのうち食料がなくなった時に食べましょ」
そう言いながら、袋を戻す。
アップルも、そう言われて、仕方なさそうにのばした手をひっこめる。
二人は、パンとチーズを少し食べ、小川から水をくんだ。ジンジャーとジルにも、水を飲ませる。一粒ずつ角砂糖をあげると、嬉しそうに鼻を鳴らす。
二人は草むらに腰を下ろして、少し休むことにした。春風が肌をなで、心地よい。
南の王城までは、あと半日も馬を飛ばせばつくだろうか。豊かな農耕国家である南の国は、よく整備されていて治安も良い。旅に出ると意気込んでいた二人には、少し物足りないくらいだった。
いつまでも、こうしていたい。そんな思いを振り払い、二人は再び馬に乗り、南の王城を目指した。