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貴族の思惑

遅くなりました。

 

 日々の日課として拵えていたら大量になったので、使い捨てにする事にした。


 実際、再使用するからには洗わねばならず、どうにもやる気が起きなかったんだ。

 なので口を縛ってポイッとやれば、そのまま継続がやれると。


 お姉さんも慣れたようで、今ではお姉さんの部屋にもつぼは置いてある。


 確かにボックスに入れておけば問題無いんだけど、どうにも女連中の横の繋がりがあるようで、宣伝してやると言って聞かないのだ。


 なのでまぁ、つぼひとつぐらいなら良いかなと預けてある。


 最初は自分使いの予定だったのに、どうやら商品になりそうな勢い。

 ならばそれ用の容器が必要だろうと、小さなつぼに処理薬品と共に30枚入れたのをいくつか用意していく。


 毎日1回の1か月分である。


 もちろん大人用にとあんまり引き伸ばさないタイプのも拵え、一応は『大』『中』『小』の区分を作り、自分使いは『小』になっている。

 それはまだまだ発展途上だからだし、いずれは『中』を使うんだ。


 ちなみに『大』は馬用な。


 それと共に、あちこちの商会で処理薬品の材料を分散して買い集め、追加で作ってみた。

 そこにスキルの効果があったんだろうけど、妙にあっさりと作れて驚いたぐらいだ。

 本来なら素人がそう簡単作れるものでは無いはずなのに、やり方が何となく理解できて、妙に順調に完成したんだ。


 確かにまだありはするものの、そのうちあの商人が売ってくれと言うかも知れないし、そうなれば渡さない訳にもいかない。

 その時に実はと、意外とたくさんあると知れば、半分ぐらいは構わないだろうと言うだろう。


 なので可能な限り拵える事にした。


 そうしてそれを少し入れたつぼに商品を納めたのを、100個入るぐらいの木箱に収めるのが日課になったある日の事、お姉さんからある相談を受けた。


「実はねぇ、アレ、貴族の人が欲しがっているらしいの」


 どっからそんな伝を得たんだよ。


「あの薬をいつも買いに行く店でね、もう要らなくなったと言ったら詳細を聞かれてね、つい」


「安くないとは言ったのか」


「うん、だけど相手はお貴族様だし、本当に良い物なら糸目は付けないと思うの」


 さすがにサイズはうっかりと聞けないだろうと、『大』『中』『小』の3つのつぼを預け、とりあえず献上という形にして、気に入ったサイズでの今後の取引という事になる。

 ちなみに直接の取引は薬屋の女将さんが受け持つようで、こちらは卸の位置取りになる。


 だけどあんまりあこぎな事を言うようなら、こちらの伝のあの商人って手もあるんだし、中間リベートの額で今後の取引が決まると思って欲しい。


 お姉さんもそれは頑張ると、妙に息巻いているので任せるとして、カットの店の進捗状況を聞いてみた。


 どうやら付きまとっていた嫌な奴が消えたらしく、店の段取りも順調だと聞く。


「あの人、貴族とか言ってたけど、あたしはもうそんなの嫌だからね」


 やべぇ、貴族を殺っちまったのか、元貧民が。


 こりゃ発覚したら処刑一直線だな。


 バレない事を祈るのみだ。


 ◇


 お貴族様のプライドなのか、3つのサイズが全て欲しいという。


 一応、ぽったくり価格として、日本円にして1枚1000円を想定したうえに、処理薬品に浸けるので薬品代も足しての、小つぼ単価を銅貨10枚で提示してみた。


 小さなつぼと言ってもそう安くも無かったんでな。


 おまけにそれが3種入る容器の代金も加算しないといけないし、包装も頼む必要があったから、必要経費として提示したんだ。


 もしそれで高いからと、それっきりになるならそれも良しと思っての事だったのに、追加が欲しいと言われる始末。


 セット箱1つで銅貨30枚。


 なのに分割でも1つが銅貨10枚の訳は、本来ならば箱代やら包装代やらが加算のところ、セットサービスにしてある……と思わせる為だ。


 そうしてサービスとお姉さんに言ったところ、それをそのまま薬屋の女将さんに伝えたらしく、相手の受けが良かったとか聞かされた。


 とりあえず10箱欲しいらしく、すぐに準備すると伝えて宿に戻る。


 確かにそれぐらいならば用意してあるものの、すぐに渡したらこちらが望んでいるように見えてしまう。

 商売は足元を見られたほうの負けなので、その手の弱みは見せないようにしたいのだ。

 そうして3日ぐらいしてお姉さんに渡せば、相手がかなり待っているらしく、すぐさま届けに行くわねと、その日の予定が消えちまった。


 しまったな、ヤッた後で出せば良かった。


 ◇


 どうやら3つセットで銅貨32枚での取引になっているらしく、店の儲けはセット単価で銅貨2枚らしい。


 それは中々にして善良と言わねばなるまい。


 確かに右から左に動かすだけの商売だけど、貴族との取引は色々と面倒なしきたりもあるようで、そこいらの貧民上がりじゃやれない話でもある。


 散々、日課として作りまくっていたので、在庫はかなりあるものの、転売されたんではどうにもならない。

 だけど銅貨2枚ぐらいのプラスならば、転売と言うより代理取引の手数料ぐらいだ。


 もっとも、その貴族が転売しない保障は無いが、そういう横の繋がりは貴族同士でしかやれないものなので、転売になっても仕方の無いところだ。


 こんな世界でするなとも言えないしな。


 ◇


 特許の無い世界は、序盤で大量に捌くしか無いのかも知れない。


 どうやらあの貴族は本当に転売しているようで、いくらでも欲しいと言われている。

 オレの想定が安かったようで、まさかゴム1枚が1000円相当でも安いとは思わなかったよ。


 なんせグリーン・フロッグの皮からは100枚ぐらい作れるうえに、処理薬品の単価も知れている。

 なのでその気になれば1枚当たり、鉄貨1枚でも赤字って訳じゃない。

 それに200枚ぐらいは入るつぼは薬品用の流用だし、小分け用のつぼとか小箱とか、包装代のほうが高いぐらいだ。


 要するに手間代だけの話。


 普通に森に入って薬草を探せば、魔物との戦闘があるにしても、20~50本ぐらいは採れる。

 それを冒険者の日当に換算すると、日当は銀貨1~2枚って事になる。

 もちろんそれは採取のみの場合であり、討伐を専門にこなす連中はもっと稼ぐだろうけど。


 日当25~50万円と言えばかなりの高給取りに思うだろう。


 だけどもそれはソロって訳じゃなく、きちんと装備を整えた冒険者が数人でパーティを組んでの話なので、魔物との戦いがあったりしたら、装備の手入れも必要になるし、そもそも危険なのでどうしても高くなる。

 冒険者は初期投資がどうしても多くなるので、多少の高給取りぐらいじゃないとやっていけないんだ。


 パーティは大体、3~8人ぐらいになっていて、5人ぐらいが一番多い。


 となると、1人頭5~10万の稼ぎになるものの、森の中では気も休まらずに一日中、緊張して過ごす事になるうえに、戻ったら武器や防具の手入れに加えて、消費した回復薬の補充もある。


 薬草が高いだけの事はあり、回復薬も決して安くない。


 そもそも狩りは毎日行うものではなく、色々と準備したり身体を休めたりして、1週間から1ヶ月に1度ぐらいの頻度になっているとか。


 そうしてもし、怪我が酷くて休業になるにしても、保険も無いから全部自前で支払うしかない。

 こんな世界なので治療費も安くないうえに、欠損しての引退なら後の生活の保障すらもない。


 となれば後の事を考えて、貯蓄の必要がある。


 現在のところ、ギルドは銀行のように金を預けられるようになっているものの、利息なんかは付かない。

 そうして集まった金をギルドでは利息を付けて貸し出しているのであり、それがギルドの運営資金の一部になっているとか。


 それでも備蓄をうっかり持ち歩いていて、強盗に身包み剥がれたらもう生きていく術がなくなる。

 その為という訳ではないが、大抵の冒険者はギルドにお金を貯めており、死亡した冒険者に身寄りがなければ、そのまま没収になっているんだとか。


 そんな事をあっさり暴露するんだよ。


 つまり、ギルドは好意で金を預かってやっているんであって、手数料と利子を相殺にしているから利息無しって言うんだ。


 嫌なら預けるなって殿様商売だな。


 それでも銀行が無い以上は、普通はギルドに預けるより手はなく、みすみすギルドの儲けに貢献しているんだと。

 オレは最初、それをしなかったので、金があると絡まれそうになったんだな。


 窒息したチンピラさんの話な。


 あの時はあいつ、治療代を出せとのたまった挙句、他のパーティメンバーに散々やり込められて不問になったばかりか、代わりに謝ってくれたんだ。

 なのにさ、翌日にギルドの前でいちゃもんを付けてきたので、小声での発動の結果、急に苦しみ出したんだ。


 さすがに見えない魔法が行使されたと気付く者はなく、あいつが急に苦しんだ挙句、死んだ話になったんだ。


 そもそもあいつもいけないんだよ。


 屋台の餅みたいなのを食いながら脅すからさ、すっかり喉に詰まらせて死んだ事になったんだ。


 今では無駄だけど、ギルドでの稼ぎはギルドに預けるようにしているけど、ギルド外の儲けはボックスに収納している。


 とりあえず10箱、銀貨6枚の売り上げか。


 もっと入れ物を購入しないと足りなくなるな。


 ◇


『我を狙う愚か者、その行く手を阻め、我が魔法よ』


 どうにも尾行が付いちまい、蛙狩りに支障が出たので妨害してみた。


 見えない魔法の行使なので、いきなり前に進めなくなっても意味が分かるまい。

 確かに魔法の行使と思うかも知れないが、貴族オンリーの魔法の行使、ならばこちらを貴族の関連と思ってくれれば、余計な手出しも無くなるはず。


 さすがにそう簡単に殺すのは無しだ。


 あのおっさんの場合は、カッとして殺った、後悔はしていない状態だけど、ただの尾行を殺したらきっと後悔するだろう。

 それは別に倫理観からの話じゃなく、もしかしたら貴族がその製法を求めての事かも知れないからだ。


 いくら貴族本人じゃないとしても、その関連を殺したともなれば、元貧民には抗う手は無い。

 恐らくこの前のおっさんの殺しにも関連付けられるだろうから、もうこの町には居られない事になる。

 折角の良い宿とセフレなのに、そんな事になったのでは残念でしなかい。

 それでもさ、さすがにヤケになる気は無いので、相手の出方を今は見るしかない。


 さてと、今日も作りますかね。。

 

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