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長逗留の予感

 


 通常、1日2食が当たり前の世界において、昼食を食っているのはオレぐらいだろう。


 もっとも、食うのはあの偽バーだけどな。


 2本で1パックになっているので、昼食は2本とペットボトルの水だ。

 ろ過器付属の水質検査機器に流してみれば、安全圏内に収まっていたので安心して飲んでいる。


 だけどさ、この町の井戸水は少し怪しい。


 確かに煮沸すればその限りではないが、生水はちょっと止めておいたほうが良さそうだ。

 そう言えば貧民街でも生水は絶対に飲むなと親に言われていて、煮沸水のみを飲んでいた。

 あれで腹を壊す事も無かったんだから、親には感謝しかない。


 腹痛の挙句、そのまま死ぬ子もかなり居たし。


 そういう生活の知恵すらも、うっかり広めると命取りになりかねないとして、親からの知識を人に教えるのを禁止されていた。


 可哀想だけどここではそれが決まりよ。


 普段は優しかった母にそう言われれば、それを破る気にはなれなかった。

 そうして生き残ったんだから、それは正解だったんだろう。


 それにしても、いくら食っても尽きない偽バーは、実は相当の量なんだよな。

 あれで商売が出来るぐらいの量なんだし、売るという手段を考えなかった訳じゃない。

 だけどさ、長い人生、あの栄養補助はオレには必要なものだ。


 うっかり売り尽くして得られなくなれば、もう再入手は不可能なんだし、そうするべきじゃない。

 ああいうのはいくら多くても、再入手の手段が無いのなら、人に知られるのは得策じゃない。

 いくら大金を得たからといって、それで病気になっては何にもならない。あくまでも健康が一番さ。


「それにしても、毎日は本当にありがたいよ」


 いつも商人はこう言って、相場より高く買い取ってくれる。

 もちろん、値切るようならそれっきりなので、オレに弱みは無い。

 値切るなら救命胴衣のほうに流れるんであり、別に売れなくても困らないからだ。


「ただねぇ、君は処置澄みで持って来てくれるから良いんだけど、この処理薬品の在庫が残り少なくてね。君は何処で買っているんだい? 」


 やはりか。


「あのね、以前、買った店なんだけど、もう需要が無いから製造中止になったらしく、売れ残りを全部買ったから、もう売ってないと思うよ」


「あらら、君のとこもそうなのかい? 僕もね、あちこちで聞いてみたんだけど、もう手元にあるだけなんだ。製造の予定は無いらしいし、何よりその製造法が分からないときてはもう、どうしようもないんだ」


「まあ、薬品のある内にしっかり稼ぐしかないよね」


「うんうん、だからさ、キッチリ買い取るから、また持って来てくれるかい? 」


「もちろんさ」


 余計な事は言わないぞ。


 それにどうせ、必要があるならば再度の開発になるだろうし、そうなればまた似たような物が作られるようになるだろう。


 ただし、それに毒性が皆無かどうかは分からない。


 なんせかつては水筒にする為に無毒にする必要があっての事だけど、エアクッションを舐める奴はいない。

 確かに口で膨らませればその限りじゃないけど、ちゃんと鍛冶屋のふいごの話はしてある。


 つまり意識誘導ですな。


 解決策があれば人は余計な事を考えないものだ。

 あれで苦労の果てに魔石の活用に辿り着かれたら厄介なので、目先の解決法を示したに過ぎない。


 それでもまたぞろ知恵の湧き出る泉だと賞賛した挙句、アイディア料だと銀貨を10枚くれた。


 ◇


 1泊銅貨1枚の宿は、1ヶ月で銅貨25枚になった挙句、半年で125枚になり、1年だと200枚となる。


 かなりの長期割引の訳は、料理人の旦那が少しコミュ障に近いせいだ。


 知らない人がひっきりなしに入れ替わる状況は慣れないので疲れるらしく、慣れている人が相手ならそこまでの事もなく、旦那さんの心の平穏の為、そういう風になったんだとか。


 つまり家族扱いをすれば仕事に支障は無いけれど、他人の集合体の中では緊張してしまうんだとか。


 女将さんも旦那がそれで苦しむのを見たくないようで、薄利多売の家族作戦に同意して、今の繁盛振りになっているんだとか。


 だから儲けは決して多くなく、必然的に小規模経営の範疇に収まっていて、町の税金区分もかなり優遇になっていて、この作戦は成功なんだと聞いた。


 ちなみに小規模経営と言うのは屋台なんかを指し、普通の宿がそれに適用されるのは滅多に無いらしい。

 ただ、薄利多売のせいで儲けはあんまりなく、年間売り上げが屋台とあんまり変わらないぐらいなので、特例に近い扱いでの小規模経営の範疇に収められているらしい。

 ただ、領主の考え方のせいもあるだろうけどな。


『宿は町の顔である』


 これがモットーだそうだ。


 だからあこぎな宿は摘発になり、今では良心的なのが残っており、この町の宿は何処も安心だけど、あそこは特にだからもし空いていたら逃すんじゃないよって言われ、空いていたから潜り込んだんだ。


 ちなみに素泊まりの場合な。


 食事は別料金になってはいるものの、旦那さんの料理は気に入っている。

 だから朝晩付けて倍の料金を支払ってはいるけど、それでも年間で銅貨400枚、つまりは銀貨8枚だ。

 アイディア料で1年間の経費が浮いたって話さ。


 え、もらったのは銀貨10枚だろうって?


 実はついに買ったんだ、汎用の拡張カバンを、銀貨2枚で。

 それがあるからこそ、馬車のホロ用の生地の持ち込みも不思議に思われなかったのであり、そうじゃなければあんなかさばる物、普通の背負いカバンに収まるはずがない。


 冒険者御用達と言われる拡張カバンは、胃袋を売りに行く前に調達し、その中から出すと見せかけてのボックス使用が調子良い。

 

 なにはともあれ、中々快適そうな町だし、しばらく逗留してみるかな。

 

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