素材集め
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宿に落ち着いた後、別の発想に付いて色々と考えてみる。
魔石には属性があり、術式を刻めば魔法が発動するという。
こいつも親から聞いた情報だ。
本当に何者だったんだよと思わせる存在だけど、死別した今となっては調べようもない。
でさ、風の魔法を発動させる魔石を用意してさ、船の上での災害時に使えば、救命胴衣にならないかってアイディアな。
それ用にチョッキ風な服の中にあの胃袋を入れてさ、いくつか繋いで風の魔石と連結する。
そうして非常時に魔力を流せば、むくむくと膨らむ服になると。
これで泳げなくても溺れない────かも。
さすがに海の魔物に食われるのは想定してないんでな、溺れなくても死ぬかも知れないのさ。
だけど、食われたら一瞬の痛みだけど、溺れるのは苦しいと聞くし、オレなら前者のほうが良いと思う。
運が良いと食われずに助かるかも知れないし。
そりゃオレも泳げないとは言わないけど、あくまでもそれは海パンでの話だ。
皮製とは言うものの鎧に身を固め、武器まで佩いた状態で泳げるとは思えない。
更に靴はブーツになっていて、鍛冶屋に発注した特注になっていて、足先に鉄の────早い話が安全靴だ。
そんなのただ、沈むだけになっちまう。
いやね、魔物に対しては足技も有効なんだけど、そこいらの靴で蹴ると足先を痛めるんだ。
だから冒険者のブーツは固い皮革製になっているんだけど、それでも足を踏まれると保たないのが現状。
ならば工事用のアレならどうかと思ったのさ。
確かに重いけど踏まれても平気な靴はかなり役立ち、チンピラが足を踏もうとして失敗し、筋を違えて捻挫したぐらいだ。
そいつは仲間内の恥さらしとなり、遂には追放になったとか。
元々人をからかう性質が嫌われていて、渡りに船だったらしい。
そいつ? もう居ないさ。
『そいつを包め、包んでしまえ、息の出来ない柔らかい牢獄に包んでしまえ、我が魔法よ』
それで終わったんだ。
死因は窒息死。
殺されそうになったら殺さないと殺されるのがこの世界の法則。
特に貧民街では鉄則ぐらいになっていて、だからそこいらの子供といえども、うっかり手を出したりしたらどこからともなく石が頭に飛んで来るぐらいの感覚になっていて、それを知る者は手を出す事もなかった。
庶民ならば反撃は認められているものの、そういう庇護すらも省かれている貧民は、衛兵に発覚すれば逆に罪になる場合も多々ありはした。
ただ、オレが使ったのは魔法だけどな。
もっとも、普通の魔法は目には見えるものだけど、オレのは基本的に純魔力を行使する魔法。
だから透明なままに効力を発するので、そいつは1人で勝手に窒息した事になっている。
「なんか余計なもん食って窒息したバカ」
こういう結論となり、ロクな検証もしないままに、かつての仲間によって穴倉に投棄され、そのまま焼かれて灰になっちまったと。
町の専属の火葬魔法士によって。
やはり魔法はあるんだなと、両親が火葬になった時に思ったんだ。
確かに親も使ってはいたものの、絶対に内緒だと言われていて、誰にも言えなかったんだ。
だけど街に魔法使いが居るのなら、そこまで珍しくもないのかな。
「あれでもあいつは高給取りでな、それというのも魔法が 使えるのは基本的には貴族だけとされていてな、あいつも下のほうだが貴族の端くれでもあるんだよ」
となるともしかして、うちの両親も────そうか、それで何かの任務の為に貧民街に潜り込んでいて、もう少しで終わりになるその前に、病死になったんだな。
となると、考え付きそうなのは他国、それもこの国を狙っている他国の可能性。
もちろん、あの領主の内偵の可能性もあるが、わざわざ貧民に成り済ます理由が無い。
この国の人全てから隠れる為には、確かに貧民の立ち位置は有効だろう。
だって人以下な存在にわざわざ自分からなろうなんて、そんな奇特な存在は居ないとされているんだし。
やれやれ、オレはスパイの子かよ。
◇
余計な考察が両親を貶めるような気がしたので、あの仮説は忘れる事にした。
あれは確定になってから改めて考えるとして、今はこれからの生活の事を考えよう。
幸いにも近くに湿地帯はあるようで、あのカエルを狩るのも難しくないだろう。
通称、水筒蛙。
グリーン・フロッグという、何のひねりもない名前の魔物だけど、弱い毒があるのが特徴だ。
それで天敵に狙われないので比較的警戒心は薄く、今では廃れた用途のせいで、殆ど無防備に過ごしている。
そいつの弱点はただひとつ、驚かせると仮死状態になる。
いわゆる死んだふりだな。
そいつはどうやら本能的なものらしく、カエル自体にも抗いようがなく、それが目的の時代は大量に狩られたらしい。
オレがしたのは単純な事だ。
今は無き貧民街の共同便所付近の土と、近くの山から採れる黄色い粉になる鉱石と、蒸し焼きにした木片から得られた木炭の粉、これを組み合わせてこしらえた火薬もどき。
配合率をあんまり覚えてなくてさ、音を出すのに苦労したけど、何とか音だけはまともになったものの、威力はまるでない代物になったんだ。
つまり、爆竹な。
そいつに火を付けてカエルたちが群れている上空に投げる。
バーン────
それでみんなひっくりカエル……え、寒い?
そりゃ今は少年しているけどさ、ゲームは会社勤めの息抜きが目的でさ、アラサーとも言われるぐらいになれば、親父ギャグのひとつも出るようになっちまう。
だから仕方ないのさ(開き直り)
◇
本来ならばカエルの胃袋はそう長持ちする代物じゃないのだけど、これがある処置をすると長期に保つようになる。
こいつが新規開拓の素材なら、その開発は自分でする必要があったんだけど、こいつは元は水筒として使われていた素材であり、先人が既に開発してくれていた素材、だから苦労知らずに流用できるのさ。
解体して胃袋を取り出し、処置の為の薬品を塗ってはボックスに収納する。
この水筒蛙用の処理薬品も、今では廃れたが為にかなり安く購入できた。
なんせ卸問屋で聞けば、『え? あれ、買ってくれるの? 嬉しいねぇ。サービスするからさ、みんな買ってくれるかい? 』
こんな事を言ってさ、あたかも不良在庫の一斉処分の機会を得たとばかりに、倉庫の薬品を全部引き取らされたんだ。
オレってこんなのばかりやっているような。
だけどもうその薬品、製造中止になっているらしく、オレが全部引き取ったからもう、他の人は入手困難な品になったろうな。
さてあの商人、手に入れられるかな?
水筒蛙の製造元がこの街にかつてあり、あの卸問屋は元はその製造元だったらしく、水筒が売れなくなったので倉庫を流用しての業種転換らしく、だから薬品も巷では既に取り扱い停止になっていて、今ではもう他では入手不可能だろうと言っていた。
確かに聞けば開発レシピも残っていて、全部買うと言えばそれもくれた。
いくら薬品が邪魔でもさ、製法まで手放しちゃダメだろ。
だけどもう、すっかり製造からは手を引いたらしく、何の未練も無いそうだ。
なのでありがたく、この利権はオレの財産にさせてもらうよ。
先人の苦労を知らねば、子孫は容易くそれを手放してしまい、見知らぬ第三者の利益となってしまうのだ。
うちの会社の関連でも、よくそういう話は聞いた。
うちは再生開発部、なので他社が捨てた製法なんかを拾い集め、組み合わせて全く新しい用途を見つける、なんて事もやっていた。
その関連で、斜陽になった商店の亡くなった祖父が開発した製法がさ、今はもう使われないものの汎用性は決して低くなく、欲しかったからアプローチした時の事なんだけど、ちょっと目先の金をちらつかせれば、簡単に手放したんだ。
それは確かに様々に応用が利き、いくつかの全く新しい製法に化け、会社はぼろもうけするわ、ボーナスは出るわで、あいつには内緒だけどかなり感謝したものだ。
だけどもう、あれは遥かな昔、そう、あれはもう前世。
現にログアウトの文言も意味をなさないし、他にも止める手立てはない。
戦闘技能を磨く為に毎日毎日しごかれて筋肉痛になったり、解体の技能を修得する為に毎日毎日血と臓物にまみれたり、故郷の家を焼かれて街を出る羽目になったり、とてもゲームって感じじゃない。
確かにアイテムボックスもあるし、中の品もそっくりありはする。
でもさ、これが仮想の体験とはどうしても思えないんだ。
両親が病気になった時は何とか助かって欲しいと禁断のボックスを開き、あの偽バーも食わせてみた。
栄養が足りずに身体の抵抗が落ちているなら、これで何とかなるまいかと。
無駄だったけど。
だからオレはこれをリアルと判断し、これからも本気で生きていくつもりだ。
だから他人が捨てたチャンスはしっかりと拾い、余計な話はしないと決めた。
生存競争に甘えは禁物。
甘えた奴から死んでいく。
そいつを今は無き貧民街の連中から、骨身に叩き込まれたさ。
オレもな、自分より年下のガキを救ってやりたい気持ちはあったんだ。
だけどな、そいつをうっかりしちまうと、他の連中もすがってくる。
そうして身動きが取れなくなっちまうんだ。
近所のおばさんはそれで潰れた。
親切なおばさんだったのに、街の連中がたかりにたかり、とうとう生活できなくなって死んだんだ。
だから他人への親切は我が身を滅ぼすと、あれで手助けを諦めた。
大盛りの肉と野菜の焼き物だって、他に飢えているガキに食わせたいと思った事もあった。
特に家がかなりの貧乏で、まともに食えない子もいたし、可哀想とは思っていたけど、遂にはそいつが死ぬまで放置した。
皆、我が身が可愛いものさ。
あれでうっかり教えたら、そこいらの奴らに知られる羽目になり、もうオレは食えなくなっていただろう。
それどころか金の入手先をしつこく聞かれ、オレの生活は滅茶苦茶になっていたに違いない。
何も出来ないガキと思われていたからこそ、見下して甘かった奴らなのに、自分たちより稼ぐガキなら、食い物にされるに決まっていた。
だからどうしても冷酷になる必要があったんだ。