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駅馬車の旅

加筆修正

 


 ガタゴトと馬車は走る。


 そういやネット小説では、そんな描写をよく見かけたな。

 薬草の売り上げはかなりだったけど、身なりを整えるのと武器なんかを買うのに親の遺産を少し使ってしまった。


 まあ、これから稼ぐから問題は無いが、くれぐれも使い果たさないようにしないとな。


 うん、この敷物は実に調子が良い。


 こいつは自作の敷物で、中にはある魔物の胃袋が使われている。

 かなり丈夫なので水筒に使えるものの、今では主流から外れた品なので需要が無いが、欲しいならやるぞと言われたので受け取り、試行錯誤の果てにエアマットとして確立させたんだ。


 だから馬車が揺れても腰が痛くないと。


 それにしても、目ざとい人は何処にでも居るもので、オレのエアマットに目を付けた商人がいた。


「そいつは随分と楽そうじゃないか。一体何処で売っていたんだい? 」


 そんな事を言われても困るよな。


「欲しいんですか? 」

「ああ、欲しいね」

「いくらなら買おうと思えますか? 」

「そうだねぇ────銅貨3、いや、4枚なら欲しいね」


 原価は殆どタダなのでここで売っても丸儲けだけど、売れば恐らくそいつを解析した後、大量生産になるだろう。


 そうしてこの商人の稼ぎになっちまうと。


「それは見てくれが悪いせいですか? 」


 もう少し情報が欲しい。


「あはは、まあそうだね。ちゃんとした職人に頼めば、恐らくは銅貨10枚でも売れる品になるだろう。それだけに惜しいと思える品だけど、自分使いにするなら問題無しだ」


 銅貨10枚か。


 外のカバーを発注し、中身だけの製作ならそれでやれそうだ。

 ただあの魔物を狩らないといけないんだけど、次の町の近くに湿地帯があれば良いが。


「それで、どうするんだい? 」

「共同経営なら」

「つまり、自作と言うんだね」

「恐らく画期的なはず」

「確かにね。僕も馬車はよく乗るけど、そんなのは見た事も無い」


 今はお昼の時間帯。


 ふわふわとした座り心地で眠気が出て、うとうとしているのを見ていたのか、クッションを持って馬車を降りるとすぐに商人が接触してきた。


 そうして商談が始まった。


 駅馬車の旅では食事は各々が持参するのが決まりになっており、基本的には御者から食事が支給される事はない。

 だけどどうしても準備出来なかったり、何かの要因で手違いがあったりした場合は買い求める事が可能だという。


 ただし、かなりの割高だけど。


 その商人は持参の、屋台で買ったと思しき食事をし、自分は安い干し肉をかじりながらの対話。


 昼休憩が終わってまた皆が馬車に乗る時、その商人から試しに使わせてくれないかと申し出があり、貸し出す事にした。。

 まずは使ってみて、本当に楽なら考慮すると言われ、そいつはクッションに座った。


「ふわふわするね、不思議な感覚だ」


 ああ、固い座席だ。


 まあ、しばらくの辛抱だけど、こんなのに長時間座っていたら、確かに腰が痛くなるな。

 商人は揺れるたびに不思議な感覚を楽しむようになり、見た目の機嫌がかなり良いように見受けられた。


 結局のところ、エアクッションはかなり気に入ったらしく、解析して大量に作りたいと、やはりそう言った。


 本来なら自作したいところだけど、オレもまだまだ生活の手段を手に入れてない。

 まずは住処の目処を立て、冒険者なら冒険者としての立ち位置を確保しない事には、そんな商売の話もやれはしない。

 確かにエアクッションは惜しいけど、そんな発想ならまだ他にもある。

 だから今回は契約にして、バックマージン方式にしようと思った。


「単価によるバックマージン? 本当にそれで良いの? 製作に介入したいんじゃないの? 」


 そりゃ基本的な部分を自作すれば、かなりの利益になるだろうけど、まだまだ成長期も終わってないんだし、そういうのは大人になってからにすべきだろう。

 そうしないと商人の道を歩む羽目になり、折角の戦闘技能を腐らせる羽目になりそうだ。


 それは磨いてくれた連中を裏切る行為だろう。


「そうか、まだ13才か、なら仕方ないね」


 そうして町で契約となり、1個売れるごとのバックマージンの契約の後、中のクッションを見せる。


「へぇぇ、良く考えたね。確かに今はもう、このタイプの水筒は使われない。だから廃棄になるところを貰い受け、こうやって商品にしたのか」


「だから原価はかなり下げられると思うんです」


「うんうん、この手の素材ならばタダ同然に手に入る。後はこの外側だけの工夫だね」


「例えばですけど、折り畳みの椅子のような形状にして、普段は小さくしておければ、一般客や冒険者にも受けると思うんです」


「知恵の沸く泉の如くだね」


「もっと言うなら馬車の座席にはじめから組み込めば、新型馬車として売れると思います」


「それいい、それだ、うんうん」


 凄い食い付きだよ。


 オレはただ、サスペンションやショックアブソーバは無理でも座席だけ緩和なら可能そうに思えただけなのに、その発想を妙に気に入ったようで、かなりの儲けになると踏んだらしい。


 こうなればもう、バックマージン方式は止めて、まとめての支払いはどうかと言われ、アイディア料と合わせての支払いにしたいと言われた。


 しかもその額は大金貨1枚。


 おいおい、マジかよ。


 元々、バックマージン方式は、銅貨10枚で売れるたびに、儲けの1割、つまりは銅貨1枚が支払われる契約になる。

 それで例え1万個売れたにしても、その収益は銅貨10万枚、すなわちバックが1万枚であり、銀貨にして200枚、金貨ならば4枚だ。


 つまり、単純計算でも12万5000枚の売り上げでチャラって事になる。


 確かにそれが現代社会ならば可能だろうが、流通に難のあるこんな世界で、それだけの数を売るとなるとどれだけ掛かるか分かったもんじゃない。


 しかも、町の外には盗賊も居るらしいし、魔物にやられる損害も見込めば、もっと売らないといけないだろう。


 町の住人自体もひとつの町で数千から数万。


 となるとどれだけの町を巡らないといけないか、相当に大変なはずだ。


「確かにこの国だけなら無理だろうね。だけど国は他にもある。ただね、このクッションだけならば、もっと安い報酬を提示したんだ。だけどね、馬車の椅子に組み込むというその発想、それに金を出すんだよ。君のその発想は僕には出せなかった。となれば、そのうち誰かがそれを発想し、その稼ぎは相当なものになったろう。そうなってから悔しい思いをするぐらいなら、今得られたのは行幸というもの。だから当然の報酬さ」


「それぐらいでそんな稼ぎに? 」


「恐らくだけど、貴族や王族が欲しがると思うんだ。現に僕の所有の馬車は、全て改造するつもりになっているしね」


 構想はオレの予想以上にあるようで、それならもう譲り渡そう。


 うん、それがいい。


 どのみち、貴族相手の商談なんかに介入できる程、こちらの状況はよろしくない。

 まだまだ子供と言われるぐらいの年齢だし、後ろ盾にもしなってくれたにしても、それはこちらの弱みになる。

 だからどうしても共同経営って訳にもいくまいし、立場確保の為の仮初とはいうものの、商会に所属を薦められたら、恐らく当分の間は抜けられまい。

 そもそも、そんなに欲深に追い求めるほど、こちらの身体は出来てないんだし、余計な危険を招いてまで、稼ぐ必要も今は無い。


「分かりました、それでお願いします」


 そうして権利放棄の誓約書が作られ、自前で使う以外のクッションの製造に関わる事を禁止する誓約書にサインする。


 どうやらこの世界には神に誓いを立てるタイプの契約があるらしく、そいつに違反すれば奴隷落ちするらしい。

 なのでもう、自分用に使う以外、あれを商品にする事は出来ない。

 ただな、そいつは馬車のクッションにする場合だけだ。


 他にも構想はあるんだよ。


 彼の商会での誓約書にサインしての、大金貨1枚はボックスの肥やしだ。

 少なくとも今はまだ、そんな金を使うほどに身体に自信が無い。

 百戦錬磨ぐらいにならないと、そこいらのチンピラに絡まれるだけだ。


 さて、とりあえず宿を決めて、そこから長期滞在になるか仮宿で終わるか、町の住み心地を試してみよう。

 

旅って程じゃないですね。

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