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内緒の話

少年時代はざっくりと(言い訳)

 


 誰にも言えない話がある。


 オレには魔法の素養があるんだ。


 そいつはどうやら親からの遺伝らしく、初期設定には無かったはずの魔法の素養。


 運営からの通達では、時代が少し古いが基本的にはリアルと同じように魔法は無いって話だった。

 だから身体強化のスキルはあっても身体強化魔法は無く、オレが選んだのは次の5つだったんだ。


『言語理解』『鑑定』『採取』『製薬』『身体強化』


 こいつの恩恵はかなりだった。


 奉仕のドブさらいは10才になってからが決まりとかで、ガキには普通、金を稼ぐ手段が無いのが当たり前。


 だけどオレはスキルによって薬草が分かり、そいつを採取して売ればいくばくかの金になっていた。


 もちろん、魔物が居るとされる町の外での採取は無理なので、ガキにはやれるはずもなく、うちの親にも絶対に街の外には出るなと言われていた。


 だけどさ、あったんだよ、すぐそこに。


 壁の割れ目から外が見え、出られないものの手を伸ばせば届きそうで、そうして目の前にある薬草を採取できたんだ。

 僅か数本だったけど確かに薬草であり、1本当たり銅貨1枚だったんだ。


 驚いたね。


 両親が1日で鉄貨20枚を奉仕で獲得して、そいつで何かしら買ってくれて食事になっていたけど、数日分の稼ぎが僅か薬草1本だなんてさ。


 それでも足元を見られての価格だろうから、高額商品に思えたんだ。


 必死で手を伸ばして、結局12本までは獲得できたけど、それ以上は腕がちぎれるかと思って断念したんだ。

 そうして獲得した薬草はさ、貧民街の中でも口が固いと評判の裏商会で売ったんだ。


 あそこには盗品も持ち込まれるらしいけど、絶対に口を割らないらしい。

 そりゃ共犯扱いされればその限りじゃないとは言っていたけど、赤の他人が成した結果は基本的には関係が無いらしく、信用に関わるから漏らさないんだとか。


 だからオレの薬草も誰にも知られずに売れたんだ。

 そうして銅貨12枚はそのまま、オレのへそくりになった。


 どうにも必要栄養素の不足を感じていて、だからそいつで補填はしていた。

 屋台のメシは高いけど、それでも栄養素は必要だからさ、こっそり隠れての買い物はしていたんだ。


 最初は疑わしい目つきだった屋台の親父も、銅貨を見せるとコロリと変わり、どうやらうちの面々の標的になっているらしく、衛兵が巡回しているのもそのせいだとか。


 んで、食っている最中に衛兵が来てさ、店主がちゃんと説明したんだ。


 金は受け取ったと。


 それでも貧民だと連行されそうなものだけど、威力を発揮したのが神殿発行のカード、その名も『善人カード』だ。


 ステータスのプラスを証明する代物で、神殿発行のそれがあれば、衛兵に対しても効果はあるとは聞いていたけど、相手は貧民のガキだと言うのに、まさか敬礼までされるとは思わなかったよ。


 だけどそれを見た屋台の親父がさ、そういう事ならとサービスしてくれるようになり、行けば大盛りにしてくれるようになっていた。


 つくづく、運営の罠を感じるな。


 あれで誰も選ばなかった方法だけど、オレはラッキーだと思っているさ。


 ◇


 それでさ、後から聞いた話だけど、その壁の外は町の外じゃなかったんだ。

 どうやら領主の薬草園らしく、だから安易に薬草が採れたんだね。


 おかしいと思ったよ。


 そんな高価なのに、街の外なんかに安直に生えているはずもないし、もし生えていたとしたらすぐさま誰かに採取されて残ってなどいるはずもなし。


 だからあの事は誰にも言えないんだ。


 ああそうそう魔法の素養の話だったな。


 親がさ、料理の時に使っていたんだよ、火の魔法をさ。


 その時に目をつぶってさ『燃える炎、真っ赤に燃える、赤々と燃える、真っ赤な炎』と、そんな風につぶやいてさ、そうしておもむろに『火よ』でたきぎに火が点ったんだ。


 それを見て思ったね。                                

 魔法はイメージであり、親はイメージ確保の為につぶやいてたんだと。


 オレもイメージの為につぶやいた。


『魔法の腕、何処までも伸びる、マジックハンド。さあ、取りに行け、我が魔法よ』


 そんな訳でボックスの中には、薬草の束があるんでした。だけどうっかり売れない訳がある。


 実はさ、領主の敷地に盗賊が入り、薬草が盗まれたって話になっていて、小さな割れ目は見つかったものの、大人の腕すら通らない小さな代物なので、犯行には関係無いにしても無用心だからと潰されたんだ。

 だけど他には手がかりも無かったようで、そのまま迷宮入りになっんだ。


 売った先が表の商会ならバレてたな、きっと。


 ◇


 今日、この街を出る。


 既に貧民街は全て焼かれてガラクタは片付けられ、市民の為の住居建設予定地になっている。

 2年早い成人式は独りで祝い、そのまま駅馬車で隣の町に向かうつもりだ。


 冒険者登録もした。


 そうしてボックスの中にあった薬草は既に、協会の常設依頼で消費され、金と貢献ポイントになっている。


 やはり足元は見られていたようで、薬草1本当たり銅貨2枚だった。

 常設依頼は10本以上になっていて、新人はいきなり森に入って薬草を探し、魔物に食われるのが相場らしく、念入りに戦闘訓練は受けさせられたものの、有料のそれが受けられなければ死亡率が高いのも道理に思えた。


 初心者戦闘訓練、銀貨1枚。


 高いだけの価値はあり、毎日通いながらも1ヶ月の日程で、協会の高ランクの連中にびっちりとしごかれ、貧民上がりにしては筋が良いと褒められつつも、何とか剣術のスキルが生えた。


 そう、努力によるスキル獲得の瞬間。


 それで卒業になったんだ。


 1ヶ月前後で獲得するのが普通らしく、半月で生えたのは才能だろうと、解体も教えてやると言い、予定の1ヶ月の後半は血と臓物にまみれていた。


 それでも鑑定持ちな恩恵もあり、ある種の魔物のある臓器はある種の薬の材料になるなど、実地で色々教わりながらの確認で、相当に知識が増えたように思う。

 恐らく製薬のスキルの恩恵もあるだろうけど、やはり月末まで数日ってところで『解体』も生えたんだ。


「真面目だったからな、こいつは餞別だ」


 そう言って親父さんが愛用していた解体ナイフをもらったんだけど、協会の人に聞いたところ、かなりの業物だから結構高いらしい。

 確かに何度も研いだようでかなりちびてはいたものの、まだまだ使える代物。


 だから愛用しますと答え、お礼を述べておいた。


 両親の思い出と、そんな協会の連中との想いを振り切るように、きびすを返して駅馬車のほうに歩いていく。


 もう振り返らない。

 少なくとも今は。


 まともに暮らせる目処が立つまで、過去の事は今は忘れる。


 さあ、行こうか新天地へと。


 新たなオレの生活はそこで始める予定だ。

 

いくらなんでもこれで終わりじゃありません。

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