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神の摂理

 

 人工授精が神の摂理に反すると言うのなら、品種改良も同じ意味になる。


 麦の粒がより多く採れるように研究などせず、原種のままの少ない粒の収穫に留め、足りない食料で餓死者を出しても遵守しろと言うのなら、その神は中々に残酷なのだな。


 植物と動物は違うと言うのなら、魔物を一方的に狩っている現状をどう考えているのか。

 人を襲うからと言うなら、野生動物も同じだが、そいつらは狩っても問題無いんだろう?

 つまり人に従順な動物だけは殺さずに、抗うのだけ殺しても良いと神が認めたのか?

 そうして馬は自然なままの分娩に任せ、人気の無い馬は早々に肉になっちまえと言うんだな。


 折角この世に生を受けたというのに、誰にも望まれずにただ食肉になる運命ってのも残酷だとは思うが、それが神の望みならば君たちはそれで満足なのか。

 そもそも、家畜と言ってただ食肉になる為だけに生まれてくる命はどう考えている。


 あれは別などと言ってくれるなよ。

 あれとても立派な命には違いない。

 つまり、神の関係者は肉は食わないのだな。


 それどころか原種の麦のみを求め、改良された食物は絶対に摂らないんだろうな。

 となると、エールも改良のクチだし、粉にして焼いたパンも改良のクチだ。


 原種の麦のみをそのまま食うとか、奇特な人たちとは思うが、それが神の望みと言うのなら好きにするといい。


 よし、屁理屈作戦、成功だ。


 ◇


 事の起こりはこうだ。


 アメミテス子爵の監視と思しき存在から接触があり、過日の不思議な現象に付いての質問の結果、自分の魔法だと暴露した。

 魔法は貴族かその関連だけのものと相場が決まっているので、それで関連は確実と思ったものの、いつ隣国に来るのかが懸念となっていたという。


 そこでオレが帰参を求めてないと伝わって、逆に不思議に思ったらしい。


 通常、親を亡くしても貴族の関連なら、いや亡くしたならば余計に貴族との関連を求めるものなのに、どうして求めてないと言ったのか。


 それがどうしても分からずに、今回の質問となったとか。


 ちなみにオレの答えに納得がいけば、もう監視の必要も無くなるので消えると言っていた。

 なので元々は貴族でも生まれた時から貧民街で育ったので、今更貴族の暮らしには付いていけそうにない。

 しかも途中からの参加とか、他の一族の連中も心良く思わないだろうし、出自の事で色々と言われるのも嫌だ。


 特に両親がそれで貶められたら、我慢できる自信は無いし、決闘になった挙句にそいつを殺せば、それはまた新たな遺恨を産む。

 そんな波風、オレは望まないし、相手方も望まないだろう。


 それが分かって尚、帰参を望むなど有り得ない。


 貧しかったけどそれでも楽しかった両親との思い出、それだけあれば今のオレには充分だ。


 これで相手は納得すると思ったんだけど、答えが良すぎたらしい。


 いかに貴族の関連とて、貧民街で育った14才の子弟に言えるようなセリフじゃないと、こちらの才覚を疑ったらしい。

 確かに納得したから監視は終わりにする代わり、本家の為に何か知恵を出して欲しいと言われたんだ。


 そうして本家の主なあらましを聞いたところ、牧場で馬を生産しているって話を聞いて、今度産むの『大』を使用した人工授精のアイディアを出したんだ。


 それで本家が乗り気になったので詳細な説明をした挙句、『大』を仕入れての試行錯誤が始まった、その矢先、どっから漏れたのか教会関係者からクレームが付いたんだ。


 それは神の摂理に反する行為だと。


 それで本家の連中も困った挙句、発案者のオレにお鉢が回り、仕方なく現地に赴いての説明という名の屁理屈作戦になったんだ。


「おぬし、中々の才覚よの」


「お褒めに預かりまして恐縮でございます」


「あやつらも教育はしていたらしいの。それなれば不都合は無かろう」


「お許しください」


「どうしても嫌か」


「聖人君子ばかりでは貴族はやっていけないと推察致しますが、こちらはそうなのでしょうか」


「懸念は恐らく正解だろうが、それを跳ね除けるぐらいでなくてはの」


「跳ね除けた結果がどうなろうとですか? 」


「あの愚か者の件か」


「この世から消した件ならば」


「あれは少々変則的ながらも、貴族同士の決闘よ。負けた者は単に弱かっただけの事じゃ」


「今回の件での見返りを求めるならば、放置を願いとうございます」


「どうあってもか」


「申し訳ありませんが」


「そうか……残念よの」


 ◇


 なんか本当に残念そうで、ロクな人材が居ないのかも知れない。


 でもさ、隣国に逃れて貧民街とか、別に任務でも何でも無かったらしいじゃないか。

 望んでも無い後継者争いに巻き込まれた挙句、身の危険を感じての逃走劇、その結果が貧民街住まいならば納得のいく話だ。


 良かった、スパイの子じゃなくて。


 そしてもうじきと言っていたのは単に、その後継者がもうじき決まるところだったらしく、そうなれば戻っても安全と思っての事だったらしい。


 そうして後継者確定の連絡を持って行けば、既に貧民街は無くなっていたと。

 それから近隣の街の噂なんかを調べていると、妙に稼いでいる貧民上がりのガキの噂。

 もしやと思って調査をすれば、不可思議な障壁で断念せざるを得なかった。


 つまり、魔法が使えるって事で忘れ形見だと。


 稼いで旅費でも貯めているのかと思えば、家を買ったりしていて、どうにも隣国に渡るようには見えない。

 それでも下手に来られて、後継者問題を今更蒸し返されては困る。


 だからその時の対策の為に監視を付けたと。


 そうして現在の当主に直接、帰参しないと言ったので、監視の件は無くなったものの、何かの折には援護してやると、妙に気に入られちまったようだ。


 確かに貴族の問題は現貴族じゃないと解決できない事が多く、将来的に頼るようになるかも知れない。

 なのでその好意はありがたく受けたものの、その見返りもちゃんと渡すつもりだ。


 貴族が単なる好意での援護など、そうそう信じられる話じゃない。


 となれば何かの見返りを渡してイーブンにしないと、そのうち取り込まれる事にも成りかねない。

 その辺りの話はあの商人から散々に聞かされているので、その対策はきちんとやるさ。


 それはもちろん、あの商人もだけど。

 

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