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竜の依頼

 

 こうして始まった蛙狩り。


 水質汚染対策の為、現地での解体はやれずに、とりあえずボックスに収める日々。


 水分は我が魔法に頼るものの、食い物は偽バーのみになっていた。


 トイレもまた、水質汚染対策の為、ドラゴンに混ざらない場所を聞いてそこで済まし、地上に戻れないまま半月が過ぎた頃、ようやく見かけなくなってきた。


 《おぬしのほうが喧しかったの》


 爆竹狩りしかやれないので、そう言われても仕方が無いけど、大量に狩るならそれが一番早いからな。


 《そろそろかの》


 そう言うとドラゴンは、オレの頭に触れる。


 動くなと言われてそのままにしていると、妙に額が温かくなる。


 《滅多には得られぬものじゃ。感謝するがよい》


 なにこれ。


 《我の加護じゃ》


 おお、それは貴重なものを。


 《うむうむ、そうじゃろうそうじゃろう》


 じゃあ地上に返してくれるね。


 《良かろう。すぐに済むからの》


 ずっとここに居るの?


 《もうしばらくじゃの》


 じゃあ元気でね。


 《おぬしもの》


 そうしてしばらくぶりに日の光を浴びると、まるでドラキュラの如く、非常にまぶしいときたもんだ。

 確かに現地では我が魔法の助けを借りて明かりの確保はやれたものの、あんまり明るくすると眠れないとドラゴンからの苦情が出て、ほんのりとした明かりで過ごしてきた。


 だからまぶしいんだよ。


 ボックスの中には地底湖に生息していたグリーン・フロッグの死骸がわんさかなので、早く解体しないとそのうち腐るかも知れない。


 念の為にざっくりとその深さを聞き、容量を大体計算したうえで、必要数の水質改善薬を投入しておいた。


 1箱そっくり使ったけど、まだまだあるんだよな。


 そうしてドラゴンがその水を混ぜてくれたんだ。


 どうやらこの世界ではドラゴンは精霊に近い種族らしく、普段はこうして物陰に隠れていて、何かの災害に応じて表に出て、それらと戦う役目を負っているんだとか。


 でもさぁ、いくら精霊の部類でも、おしっこが聖水だから飲めと言われても飲む気にはなれなかったよ。


 いかにも特殊な趣味持ちみたいじゃないか。


 もっとも、お持ち帰りになったのは言うまでもない。

 オレは飲まなくても、それを欲しがる奴は居そうだし、商売に繋がりそうな素材の確保のチャンスは逃さないさ。


 滅多に姿を現さない存在のおしっことか、相当貴重品だろうと思うし。


 さてさて、早く解体して戻らないと、そろそろ下事情のほうも限界だ。


 待っててよ、お姉さん。


 ◇


 調査に出てそろそろ1月。


 数日余して街に戻ると、ギルドが妙に大騒ぎしていた。


「何をしておったのじゃ」


 何故叱られる。


 こちとら調査のついでに変な事に巻きこまれて、その解決をやっていたと言うのに。


「調査と対策です」


「対策など求めてはおらぬ。調べるだけ調べて戻るのが役目じゃ」


「でも対策しないと戻れなかっんたよ」


 そこで仕方なく、地下のドラゴンの要請で、地底湖の掃除を頼まれて、綺麗になるまで戻してくれなかった話をした。


 蛙? 言わないよ。


 既に蛙の宝庫も狩り尽くし、地底湖の蛙も狩り尽くした今となっては、皮と胃袋を省いた物体を焼いて埋めた跡しかないうえに、そんな大量な素材を焼くとなると、通常の方法では無理がある。


 貴族だけしか使えないと言われている魔法なのに、こんな貧民上がりが使えるなどと、余計な情報を渡すつもりはない。


 ギルドにその情報が流れれば、何かと便利に使われかねないからさ、そういうのを防ぎたいんだ。


「その証はあるかの。確かに竜種の生存はあるが、あやつらはそう簡単には表には出ないもの。なのにおぬしに依頼をするなど、余りに怪しげじゃ」


「加護をもらったよ」


「そこまで言うなればこれに触れてみるがよい。加護があれば光るはずじゃ。じゃが、光らぬ時はおぬしのギルドカードは没収じゃ」


「つまりオレの預金が欲しいと」


「うぬぬ、これは決まりじゃからの」


「いいさ、あんな小銭。光らなかったらくれてやるさ」


「あれを小銭と抜かすか」


 金貨22枚は多いけどさ、ボックスには大金貨12枚があるんだよな。

 金貨に換算すると600枚な訳だし、小銭と言っては言い過ぎかも知れないけど、小額なのは確かだろう。


 どうやら換算比率は当てにならないようで、比べようが無いのかも知れない。


 確かに貧民の頃は鉄貨が100円相当と思っていたけど、今じゃ50円相当ぐらいじゃ無いかと思えるんだ。

 なので恐らく、もっと上の境遇になれば、その比率が下がるのかも知れない。

 宿だって当初は素泊まり5000円ぐらいのつもりだったけど、その半分でメシ代が同額なら分かる話だ。

 だから薄利多売で素泊まりが2500円前後に抑え、それと同額な食事代って事になっているんだろう。


 いくら何でも2食で5000円は有り得ないもんな。


 となると、30枚で銅貨10枚のゴムとて、後の体調不良が無くなるんだから、決して高い額では無いのかも知れない。


 少なくとも貴族にとっては。


 それはともかく、これに触れてみろと、何やら魔石のような物を出してきた。


 竜の珠と言うらしい。


 加護をもらった者が触れると、脳裏に加護の説明のようなのが浮かび上がるらしい。


 なのにだ、脳裏に『安眠』としか浮かばなかったんだけど、あのドラゴンの奴、確かにいつも寝ている奴だけど、だからってもう少し役に立つのをくれよな。


「うぬぬ、光っておる。まさか、本当の話だとは」


 ◇


 《我が寝ている横でああもうなされればの、安眠をくれてやろうと思うたのじゃ。それほどに同族殺しが心に響いたのかの。おかしいのぅ、そのような精神など、この世界の者は持ち得ぬはず。もしやあ奴、前の生は別の世界であり、その記憶を持ったままの転生かの。それで色々と博識なのじゃな。それにしても、同族を殺すぐらいの事が心に響くとは、前の世は平穏な世界であったのだのぅ》


 ◇


 ギルマスにも困ったもんだ。


 あれじゃ金の亡者だよな。


 なんでもあの商人と約束したからと、オレの預金額が倍になったんだけど、代わりにしばらく下ろすなと言われる始末。


 書類上は増やしても、出さなければ増えた事にはならない。


 そんな思いが透けてみえるんだけど、そんなにギルマスって職業は薄給なのかよ。


「ここだけの話だけど、あの人になってから色々と世知辛くてね。前のギルドマスターは良い人だったのに、今じゃおやつも自腹なのよ」


 おいおい、おやつ支給って、そりゃ甘すぎだろ。


 まあそれが下の連中の人気取りの為なら、そう悪い手段じゃない。

 現にオレも部下に飲み代のカンパなんかもしていたぐらいだし。


 ただ、上司はその辺りの空気が読めずにさ、金は出してやるからとあいつらに同行してさ、すっかりウザい上司認定を受けていたもんだ。


 あいつらが上の連中を誘うのは、金だけ出して本人は来るなって意味合いなので、それを見越して「用事があるから行けないが、これで少しは足しになるか」と言えば良いだけだ。


 それでも、どうしてもと言われて同行した事はあるんだけど、その席でも余計な仕事の話などは話題に出さず、主に聞き役に徹していた。


 そのせいか、またと誘われていたんだけど、その矢先にこれだ。


 部下の愚痴の内容を知れば、職場環境の改善に役立つからと、かなり有効だったんだけどな。


 もう、過去の話になっちまったか。

 

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