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調査依頼

 

 かつては1枚だった大金貨も複数となり、ますます備蓄が増えている今日この頃。


 さすがに蛙の数の減少を鑑み、しばらく狩らないように決めた。


 胃袋はボックスの肥やしになっていたのを少しずつ回せば良いだけなので、しばらく狩らなくても問題は無い。


 そうして貴族との取引も商人に任せている。


 それでもあの薬品は胃袋のほうに主に使われているらしく、ゴムのほうも作りはしているものの、主力商品と大っぴらに言うには肩身が狭い品なので、販促は少しずつ行っているところだとか。


 もちろん、避妊薬の兼ね合いもあるので、中々大変とは言っていたけど、後々の体調不良という確かな弊害があるんだし、ある程度は強気になれるとは思うんだけど、商人同士の話し合いの結果がどうなるかは、彼に任せるしかない。

 ただ、名称のせいで有利なので、強気にやれるとは言っていた。


「やっぱり君って貴族の関連だったんだね」


 こんな事を言われたけど、どうしてなんだろう。


「だってね、君ぐらいの小さな子供は、普通は現状の改善とかは考えないものだよ。なのにあのクッションは良く出来ていた。あれを貧民上がりが作れる程に、この国の環境は良くないよ」


 まあ、あれは元々、ネット小説を読んだ時からの考えだし。


「それにさ、君って最近、石鹸の匂いをさせてるじゃない。いくら稼ぎがあろうと、元貧民はそんなに身奇麗にしようなどとは考えないものだ。それはつまり、元々清潔な環境にあったからだって思ったんだ」


 邪推ありがとう。


 でも、納得しているみたいだし、乗せられちまおう。


「可能ならば風呂は毎日入りたいがね」


「うん、貴族の子弟ならそう思うだろうね」


「風呂付きの小さな家とか無い? 確かにあの宿は気に入っているが、長期に住むなら自宅が欲しい」


「この街を気に入ってくれたんだね」


「ああ、今のところは転居の予定は無い」


「なら、良い物件があるよ」


 そうして教わった小さな家。


 風呂はちゃんとあるが、小さくないか?


「これが風呂か? 」


「あはは、これはね、子煩悩な夫婦が子供を洗う為に据えたんだけど、子供が大きくなった頃に引っ越してね、だから小さいと言いたいんだろうけど、君もまだ小さいんだし、使えると思っての事だよ」


 小さい言うな。


「水はどこから? 」


「それがね、実はその問題もあって引越しになったんだ。前は近くに井戸があったんだけど、その井戸の水が妙に変になったらしくてさ、飲むと病気になるらしいんだ」


「それなら他の井戸も拙いだろ。地下じゃ繋がっているんだし」


「えっ、そうなのかい? 」


 おいおい、井戸の話なのに、地下を知らないのかよ。


「地下水脈ってのが地底を川のように流れていて、そいつから汲むのが普通の井戸だ。なので、ひとつの井戸の水がおかしいなら、全てがおかしいと思うべきだ」


「それは貴族の知恵なんだね。僕たちではそういうのは知る機会も無くてね」


「昔は良くて今がダメなら、水源地に何か変化があったんだろう。それを調べるかどうかしないと」


「最近の病気の蔓延はもしかしたら」


「生水は止めて、一度沸騰させた水を飲むしかない」


「それで防げると良いが」


 念の為に井戸の場所を教わり、封鎖してある井戸のフタの隙間から、浄化粉末を流し込んでおいた。


 1000リットルに対して1袋なので、地下水脈の量が不明な以上、その効果の程は分からないけど、5袋なら5000リットルなんだし、それでいくらか改善するようなら、時々、こうしていれてやればいい。


 さすがにこんな異世界の品、おいそれと表に出せねぇよ。


 まあ、地下水脈は流れるものだし、ここから下流にしか効果が無いだろうけどな。


 ◇


 冒険者の仕事としては異例ながら、水源地の調査という依頼が出されたのはそれからしばらく後の事。


 あるパーティがそれを請けたものの、肝心の水質の具合を調べる手段が無いので、実際に生水を飲んでみるという、体当たりな検証になった挙句、腹痛で療養院送りとなり、赤字の結果に終わったとか。

 それで水源地の水の悪化は知れたものの、何が原因かは分からず仕舞い。

 なので再度の依頼になったものの、今度は請ける者が現れないんだとか。


 だから回ってきた特別依頼。


「でもさ、金貨5枚なら誰でも請けると思うけど」


「さすがに腹痛になる水だからね。その原因になりそうな水を片っ端から飲んでいくしか方法が無いでしょ。だから皆嫌がるんだよ。療養院送りなれば、金貨数枚飛ぶからさ」


「じゃあ何でオレならいけると思った? 」


「君ってあそこの井戸の封鎖を解いて、その水を使っているんでしょ。つまり、何か病気にならない方法があるんだよね」


 あれはただ、薬を投入するのに邪魔だから外しただけで、生水は飲んでないぞ。


 オレの水分補給は『我が魔法』に過ぎないのに。


 今回の邪推には困ったものの、水源地の調査には興味がある。

 なので、ダメ元での調査を承諾させた後、現地までの地図を受け取った。


 我が魔法に周囲警戒を任せ、旅は順調に進んでいく。


 旅と言っても歩いていくだけの簡単なお仕事なので、特に大変って訳じゃないけど、問題は山の中の水源が今回の依頼の場所なので、道なき道を歩く羽目にはなったものの、前回の調査の人たちが踏み慣らしておいてくれたので、比較的楽に現地に到着した。


 途中から現れる川、これが井戸の水源だな。


 恐らく地図の水源は別のもので、これが正解だろう。

 流れる水はここから地下に染み込んで、井戸となって

 活用されているのだろう。


 念の為に地図の場所に行ってみると、そこは蛙の宝庫と……


 狩りまくりだぁぁぁぁぁ。


 ◇


 あれからひたすら蛙狩りとなり、肝心の調査は放置のまま。


 どうやら以前の調査隊は、この蛙の宝庫には気付かなかったようで、恐らく物音をさせながら歩いていたんだろう。

 いくら警戒の薄い蛙でも、人の物音がすれば逃げるに決まっている。


 確かに魔物に対しては大人数を思わせる物音は有効だ。


 いくら魔物とは言え、単体で大勢に向かっていくような愚かな思考能力ではないようで、連携を組む事すらあるって話だし、大勢なら勝てないと逃げるらしい。


 しかるにオレには『我が魔法』の警戒があるので、比較的静かに進んでいた。

 だから逃げずにいただけで、爆竹の音で気絶した以外はみんな逃げていったさ。


 蛙の住んでいる池の水を飲んだら、そりゃ腹痛にもなるだろう。

 いかに弱いとは言え、こいつらは毒持ちなんだからさ。


 それにしても、こんなに近い場所に蛙の宝庫があるとなれば、ここの水とも何かの関連があると見た。


 もしや、大水の時にここの水が川に流れ、それが地下水脈に流れ込んでの事だとしたら、この蛙は水源悪化の原因に成り得るだろう。


 となれば駆除の必要ありと、改めて依頼になる可能性が高く、二束三文な蛙の素材など、現地で焼却処分になる可能性が高い。


 なら、オレが狩り尽くしてやるぜ。


 ◇


 その頃、戻らない調査冒険者の事は、魔物にやられたと報告書に記され、死亡者の預けている預金はギルドに接収され、カードは死亡者の欄に収められようとしていた。


 5日もあれば終わるはずの調査なのに、半月も音沙汰無しだからではあるが、いくら何でも諦めが早過ぎると、依頼を出した商人がギルドを相手取っての話し合いになっていた。


「しかしな、もう今日で16日にもなるのだ」


「きっと何かのトラブルです。彼はそう簡単に死ぬような人じゃありません」


「そうは言うがな、あんな子供が請けるだけでも無理があったのだ。しかし、彼ならばと言うから任せただけで、本当は君のほうの過失のほうが大きいと思わないかね」


「もう半月待ってください。きっと彼は戻って来ます」


「ふむ、ならばの、彼の預金、もう半月はそのままにしておこうが、戻らなければ倍にしてくれるかの」


「良いでしょう」


「ほお、大商人ともなれば太っ腹よの」


「その代わり、戻ればその倍額、彼の預金になるんですよね」


「うっ、しかしの、それは」


「どうなんです? 」


「うぬ、死んだ者は戻らぬか。良いじゃろ」


 その頃、彼は面倒な事になっていた。


 ◇


 河川の汚染は見受けられず、ろ過機器の調査でもクリアのまま。


 あの蛙の宝庫の水は関係無いとなると、地底自体に問題があるのかも。


『探れ、探れ、地下を探れ、怪しき生物の生存はいかに、我が魔法よ』


 どうにもイメージが地中探査のモニターのイメージなので、脳裏にそれらしきグラフが出ているものの、何が何やらよく分からない。


 あれ、これ、生物か?


 何か大きな物が眠っているような感じだ。


『繋げ、繋げ、遥かな先の、眠れる存在と繋いでくれ、我が魔法よ』


 うっ、これって、もしや……


 ◇


 気付いたら真っ暗な場所。


 目の前には大きな物が鎮座している様子だけど暗くてよく分からない。

 ただ、存在感というか、そういうのが何となく分かるのだ。

 それは魔法を行使する存在なゆえか、巨大な魔力の塊を感じると言うか。

 それに威圧感があれば、オレは今、きっともっとうろたえているだろう。


 我が魔法に頼み、小さな灯火を出してみると、そのでかい物はうろこに覆われているようだ。


 これってもしかして。


 《目覚めたか、小さき者よ》


 うえっ、もしかして、ドラゴンとか?


 《うむ、そう呼ばれた事もあるの》


 うえっ、考えが読まれてる?


 《あまりにあからさまなのでの》


 んで、どうしてここに。


 《我を呼んだのではないのか》


 何か居るから、話が通じるかと思って。


 《では聞こう。何の用じゃ》


 最近、街の井戸の水質が悪くなってね、もしかしたら、地下水脈におしっことか流してない?


 《何を言うか、この愚か者めが》


 けどさ、他に思い当たる話も無いし。


 《水脈と言うのはよく分からんが、要は地下の湖の事じゃろう。なればの、あれを駆除してはくれぬかの》


 何か住み着いてるの?


 《ううむ、我が寝ておると言うのに、ゲロゲロと喧しいのじゃ》


 蛙かよ。


 《良いか、全て狩れば元の場所に戻してやろうが、やれぬと言うなればここで朽ち果てるがよい》


 こんな子供に酷い言い草だ。


 《子供なのかの? 人の大小は分からぬが、そうであれば無理は言えぬの》


 まあ、やってみるよ。


 《報酬はやるからの》


 おお、意欲沸いてきた。

 

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