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製法をよこせ

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 あれからも毎月、50箱ぐらいの取引になっていた。

 なのでもう、岡の本のことわりの研究所の所員のようで、本業がやれないんだよな。


 尾行はあれっきりだったけど、取引量は減る様子もない。


 いい加減、製法を誰かに教えて、見返りに儲けの何割ってやりたくなってきた。

 確かに毎月の稼ぎは金貨30枚ってとんでもない事になっているんだけど、こればっかりの生活となれば飽きも来る。


 現に連日、蛙ばかりの狩りになっていて、あの商人も胃袋はありがたいものの、そう連日じゃなくても構わないと言ってくれているので、あらかたボックスの肥やしになりつつある。


 だがゴムのほうはボックスの在庫が減る一方だ。


 元々、自分使いの為に大量に拵えていたのと、将来を見越してのサイズの違いでの2種類だったんだ。

 なので『大』の数が足りなくて、殆ど『大』を拵える日々になっている。


 馬用って言うのは本来の意味合いの話で、そのうち牧場経営者との取引に使えるかも知れないと思っての事だ。

 なのでサンプルに拵えてあっただけなので、セット販売にするには全然足りない量になっていた。


 こんな世界だから人工授精とか、思いもよらないだろうけど、話を持ちかければ乗る可能性は低くない。


 競馬とかは無いものの、貴族は良馬を求めるものなので、より良い品質の馬がコンスタントに作れるとあれば、乗らないはずはないのだ。

 馬にも相性があるようで、望みの牝馬との交尾を嫌がったり、望まざる牝馬を気に入ってしまったりするらしい。

 なので望みの馬との交尾にする代わり、ゴムを付けてやれば種が取れる。


 それを望みの馬に付けてやれば良いだけだ。


 ◇


 お姉さんとの行為はそんな日々のゴム作りの発散になっていて、今ではカットの店の裏手からこっそりと潜り込んでいる。


 町でも人気の店になったようで、あんまり毎日の行為は翌日に差し支えるらしく、週末の楽しみに変化した。

 最初の頃は、飢えたように毎日だったけど、今はそれぐらいでも問題は無い。


 ただ、逆にお姉さんのほうが欲求が強いようで、週末はこちらのほうが翌日がきついぐらいになっている。


 お姉さんは休日はのんびり出来るから問題無いんだろうけど、こちとら年中無休での製作の日々なんだし、毎日大量の蛙がその被害に遭っている。

 そのせいか、幾分、その数が減っているようで心配でならない。


 頼むから絶滅すんなよな。


 ◇


 遂に貴族からの話が来た。


 どうやら製法が欲しいらしい。


 相手は大金貨10枚を提示しているので、ここは売っちゃったほうがお得だと言ってくる。


 あれから半年、確かに毎月金貨30枚の稼ぎとなり、大金貨にして3枚ちょっとの儲けになっている。

 つまり、2年弱の稼ぎの代わりに製法を渡せと言うんだな。


「君、税金払ってないでしょ。断ればそれが問題になるよ」


 ああ、やはりそれを出してきたか。


「オレは冒険者だ。あれは単なる副業なので、税金の話はギルドとしてくれ」


「あれが副業? はっはっはっ、馬鹿な事を言うもんじゃない。君のような若い子が、本業でどれだけ稼げると言うんだね。副業と言うのはあくまでも本業に及ばない額の稼ぎを指すんであって、逆の場合は冒険者が副業って事になる。分かるかね、つまりそういう言い逃れは不可能なのだよ」


「何処の貴族かは知らんが、同類にあんまりあこぎな真似は感心しないな」


「おや、君って貴族のつもりなのかい? 残念だけどそれは通らないよ。君の事は既に調べが付いていて、隣町の貧民街の出と判明している。もっとも、今はその街は無いようだけど」


 言い逃れがやれるかどうか、やってみるしかない。


 無理ならトンズラするだけだ。


「この懐中時計のエンブレムに見覚えはあるかね」


「懐中時計だと、そんな高価な。どこで見つけた」


「どうやら見覚えが無いようだな」


「いや、無い、と言う、訳でも、無い、が」


「ほお、知っていてのちょっかいか。こりゃ本家に提訴しないとな」


「待て、待ってくれ。今回の話は単なる製法の取引の話だ」


「脅しから入るのがお前たちのやり口か。それはますます提訴の必要を感じるぞ」


「済まない。もう言わないから、頼む、忘れてくれ」


 そう言って逃げるように去るのは良いんだけど、どこの貴族のエンブレムか教えてくれよ。


 いかんな、ハッタリは良いものの、やり方を間違えたらしい。


 ◇


 あれから1週間が過ぎた頃、宿に別の人が来た。


 前回の人の無礼を謝罪され、改めての取引の要請だ。

 なので今回もエンブレムを見せて聞いたところ、隣国の子爵のものであろうと言われた。


 どうやらこの使者、取引でよく隣国に赴くらしく、その子爵の事も知っていた。


 以前の人はこの人の従者の位置取りにあるらしく、同行してエンブレムは知っていたものの、盗品か何かと思っていたらしい。


 そうして即座に隣国に問い合わせたんだと。


 オレの事は親とはぐれた結果、貧民街住まいになっていた貴族の子息って扱いになるそうで、既に相手の子爵にも問い合わせをしたんだとか。


 そうしたら確かに夫婦で隣国に渡って後、音沙汰が無くなったってのが一族の中であるようで、恐らくその夫婦の忘れ形見であろうという話だったとか。


 相手のほうは特に面会を求めてないものの、取引に関してはあんまり舐めた事はしないようにと釘を刺され、あの従者は散々叱られたらしいな。


 となると、相手の子爵は既にオレの事を知っていて、今も監視されているのかも知れない。


 つまりあの尾行は製法関連ではなく……


 だけど心配は無用だ。


 ミゲール・フォン・アメミテス子爵令息か。


 両親共に『ミゲル』と呼んでいたけど、本当は『ミゲール』だったんだな。


「いや、もう親も亡くなった今となっては、貴族の親を持ったただの流れ者に過ぎない。ただ、そこいらの庶民のつもりの恫喝はいただけないが、そうじゃなければ普通の扱いで構わないさ」


「そう仰っていただけるならば」


「ああ、こんなガキに丁寧な言葉は不要。で、製法だったな」


「お教え頂けるので? 」


「それは構わないが、これにはある商人も絡んでいる。そいつは貴族のみならず、王族とも取引をするような奴なんでな、商談はそいつも含めてになるが構わないか? 」


「既に商人と組んでましたか」


「現在は別口での取引だが、ゆくなくはこれも任せようと思っていた。それを抜こうってんだから、その商人の許しを得る必要がある」


 そこで商会の名前を言うと、絶句した、何故だ。


「この国でも指折りの大商会じゃないですか」


 あれ、そうなのか。


「参りました。あそこが絡んでいては、さすがに抜く話は出来ません。我があるじにはそう言って諦めてもらいます」


 それで製法の話は無しとなり、オレが帰参を求めてない事を相手に伝えると言ってくれ、今回の一連の騒動は終わりになった。


 え? 貴族? 嫌だよ、そんな堅苦しいの。


 それに恐らく隣国の子爵もそれが懸念の監視だろうから、こっちにそのつもりが無いと分かれば安心するはずだ。

 それでも稼げないなら仕方が無いが、稼げる以上は自由に過ごしたいんだ。

 確かに貧民上がりは何かと風当たりも強いけど、オレには助けになる存在がある。

 体内をゆっくりと巡回するこいつは、オレを裏切る事は無い。


 オレはこいつさえいればそれでいい。


 なあ、相棒。


 ◇


 後日、あの商人との話し合いで、ゴム製品の製法を渡す事に決めた。


「でも、処理薬品のレシピは渡さないよ」


「くすくす、しっかりしているね。うん、でもそれぐらいじゃないと僕のパートナーには不足だ。うん、それは良いよ。でも、ちゃんと作って売ってくれるんだよね」


 こうしてゴムの日々からは逃れ、処理薬品をたまに売るという、本来の冒険者の副業になったのでした。

 ちなみにゴム製品の名前はあるのかと聞かれたものの、まさかあちらの世界での名称をそのまま使う訳にもいかず、以前にネット小説で見た名前を流用しようと思ったんだ。


「今回は産まないけど、今度産む」


「今度産む、ですか。成程ね、確かにタダの享楽の為ではなく、今は無理でも可能になれば産もうという意気込みはあると言う事ですか。それならば教会のほうも抑えられますね。それでいきましょう」


 やっぱり教会とかが煩く言うんだな。


「ええ、避妊薬の卸元もきついと言ってましたね」


 なら、こちらが有利だな。


「ええ、確かに」

  

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