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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
9/20

第9話出会いは奇なり。でもその出会いは私の気持ちを暖かくしてくれた

 「あのぉ、豊橋高校に何かあるんですか」

 彼女はすぐに

 「ああ、大ありだよ。しかも私はてっきり、あなたは大学生くらいかと思っていたよ」

 「ああ、俺もだ」

 まぁそんな事言われるのはもう慣れているから私は何とも感じていなかった。

 中学の時は、もう高校生によく間違われていていたし、ひどい時なんか「おばさん」なんて呼ばれた事もある。

 以前はもっと地味な恰好と髪型をしていたから言われても仕方がない。でも中学の時の友達に

 「身型こうしたらもっとかわいいよ。だって倫子ちゃん顔立ちはいいんだもの。もったいないよ」と言われたことがある。

 だからこっちに来た時、真っ先に美容院を探して髪型を変えた。その帰りにこの有様……どう言ったらいいんだろうか。

 まぁ確かにこの髪だと女子大生風かもしれないけど……。

 「と、言う事は、この間まで中学生だったってこと」

 「はい、そうです」

 二人は顔をみあわせて

 「あははは」と笑い出した。

 「なんだ、それならそうと早く言えばいいものを。どうして黙ってたんだ」

 なぜか彼女は咎めるように私に言う。

 「…………」

 言える状態じゃないのはこの二人がよく知っていると思うんだけど。

 「まぁ、それはいいとして。俊昭お前自己紹介くらいしておいた方がいいんじゃないのか」

 彼は彼女のその言葉にハッとして

 「ああ、ううん。それでは遅ればせながら、僕は石崎俊昭。今年大学を卒業して、この4月から偶然に、しかも急遽採用された豊崎高校の臨時教師です。科目は物理。そして君を診察していたのが僕の姉、石崎真純いしざきますみこの診療所の女医であって院長になる」

 狐に騙されていると言う言葉をよく聞くが、実際にそれがどんな状況なのかは今まで考えたこともなかった。でも今、まさにそれがこの状況なんだと思う。  

 それにてっきり、あの人の彼女とばかり思っていたのに「姉」と紹介された時は少し驚きだった。

 なんていうか、今までの会話なんか訊いていると兄弟と言うより彼女と言ったほうがなんかしっくりとした感じだからだ。

 それに彼女いや、院長先生の見た目はとても若い。わたしとは正反対だ。彼と同い年くらいにしか見えないんだけど。

 私がキョトンとしていると

 「どうした。そんなに衝撃的だったのか。まぁ人とのめぐり合わせなんて偶然が巻き起こすもんだっからな。ま、大学出てすぐのこいつが臨時といえども教師として人に物事を教えるのにはいささか不安があるがな」

 「ねぇさん。それは言わないことだっただろう。俺だってもう今から緊張してんだから」

 二人の会話はやはりどちらかと言うと友達や彼女といった方がほんとにしっくり来る。

 「あのぉ、すみません。本当にお二人は兄弟なんですか。それも年子とか、もしかして双子ですか?」

 いきなり二人の会話に割り込んだ私の言葉に、今度はこの二人がキョトンとしてしまった。そして二人で揃って笑いだした。

 「初めてだよ。僕らが年子や双子だなんて言う人。そんなに年近くに見えるの君には、とんでもない話だよ。それともねぇさんにおべっかでも使っているのかな」

 そんな彼女を特別、掲揚けいようしようとしているわけもないんだけど。私が見たまま感じたままを言っただけなんだけど。

 「わたしは嬉しいよ。えーと、そういえばまだあなたの名前も訊いていなかったね」

 そういえばそうだった。わたしを助けてくれて治療までしてくれた人に、満足な礼も言えずそして名前も言っていなかった。


 「すみません、ご紹介遅くなりました。わたし遠野倫子とおののりこと言います。見も知らない私にここまで親切にしていただいて本当にありがとうございます」

 何とか言えた……気がする。

 「遠野倫子ちゃんて言うのね、解ったわ。ご丁寧なお礼も頂いてありがとう倫子ちゃん」

 「いえそんな……」

 「それはそうと、まだ保健書実家から来ていないって言っていたわよね。一応診察記録は残さないといけないし、処方箋も書くから、それじゃこの用紙にご実家の住所と今の住所そして両方の電話番号も書いてくれる。もちろんあなたの名前もよ。こっちの電話は携帯でいいから」

 そう言って彼女は「初めての方に」と書かれた用紙を渡した。

 私はそれに実家の住所と電話番号。そして新しい住所を書いたメモ長を取り出してそれを見ながらなんとか書き終えた。

 「あ、出来た。ありがとう」

 彼女はその用紙を眺めるように見ていたが、思わず「ん」と声を漏らした。

 「倫子ちゃん。今住んでいる住所って書いている通りなの」

 「はい、そうなんですけど。実は私おとといこっちに来たばかりなんです。だから全然場所というか、この街のどこら辺にあるのかさえも解らないんです。唯一解るのが、アパートから電車に乗って学校に行くことだけなんです」

 彼女、院長先生は「ふう」とため息をついて

 「倫子ちゃん。あなたの名前の字いいわね。私は好きよ、人に対してしっかりとした道筋を立てる子と書いて倫子。もしかして、私たちとあなたって偶然に出会ったわけじゃないかもね」

 「え、それはどういう意味ですか」

 院長先生は、彼にその用紙を渡して見せた。すると

 「あ、ほんとだぁ。なぁんだ倫子……さ、いや、ちゃん。ここのすぐ近くじゃないか、住んでるアパート」

 「私も俊昭もよく知ってるよ。倫子ちゃんのアパート。あの青い屋根のアパートだろ」

 「ああ、俺もよく知っている。よくあの前も通るからな」

 ここ、今私がいる場所のすぐ近く?そこに私の住むアパートがある?やはり土地に不慣れな私にはよく理解が出来ない。それにまだアパートの周りを歩いてみた事さえないのだから、どこに何があるのかさっぱりわからない。ただ都会は同じ建物がいっぱいだと感じることはよくあるのだが。

 俊昭さんがドアの横にある棚から住宅地図を取り出し、ページを数枚めくり私にその地図を見せた。

 「えーとね。この病院がここ、そして倫子ちゃんのアパートがここ」

 と現在位置から私のアパートへ指を滑らす様にスライドさせた。

 それは、私のアパートの後ろにある公園のちょうど反対側にこの病院が位置していることを示すものだった。

 「え、後ろの公園の真後ろなんですか。ここって」

 「うん、そうだよ。あの公園意外と木が多いから反対側ぜんぜん見えないんだけど、実は公園突っ切るとものの5分もかからないよ」

 「ここまでくるとまるで運命の様だな。私たちが出会ったのは。俊昭がたまたま連れてきた子が自分が教師をする高校の生徒で、この街からは豊崎高校にはちょっと遠いから、そこの生徒はほとんどいない。しかも住んでいるアパートが公園の真後ろとは、おもしろいものだ。もしかしたらこれからまだ続きが出そうだな」

 院長先生は、少し面白がっている様だった。

 そんなと、思いながらも「狐に騙せれている」?いやこれがやっぱり、後に言う「運命の出会い」というものなのだ。と今はそこまで至るほど、二人の間は進展はしていなかったのだけれど。

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