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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
8/20

第8話出会いは奇なり。でもその出会いは私の気持ちを暖かくしてくれた

 駅の出口についてすぐに、ピンク色をした軽乗用車が私たちの前に止まった。

 運転していたのは白衣を着た髪の長い綺麗な女性の人だった。

 運転席の窓を開けると

 「早く乗って」と彼をせかした。

 私は後ろの座席に、そして彼は助手席に乗り込み狭い駅の前を急いで離れた。

 運転するる女性は白衣を着ている。と言う事はお医者さん?

 でも彼とは何かとても親しげに話をしている。

 もしかして彼女さん?

 どちらにしても、今から私はどこに連れていかれるんだろう。その事ばかりが頭から離れない。

 バックミラー越しに私を見たのだろうか。

 「大丈夫よ。変なとこに連れて行こうなんてしていないから、安心して」

 彼女は優しく言った。

 そして彼も「ごめんねいきなり車に乗せて移動だなんて、大丈夫だから、安心して」とちょっと横を見ながら言う。

 「いつもの事でしょ。あんたは……」

 彼女は彼に嘆くように言う。

 ああ、もうどうでもいいけど私はどうなるんだろう。都会に越してきて2日目。晴れやかな都会生活が待っていると思ってた矢先なのに。

 車はおよそ10分くらいは走ったのかもしれない。

 止まった先を見ると小さな診療所の前だった。


 「石崎内科外科診療所」

 そう入り口の横の看板に書かれていた。

 彼はさっと車を降り、私の側の後部ドアを開けて

 「さ、着いたよまずは下りて」と、また手を差し伸べた。

 彼の手を頼りに車を降りて、また彼の肩に捕まって診療所の中へと連れていかれる。

 さっき、駅の時よりももっと体が彼に密着していた。

 胸が押し付けられるように、彼の体に密着している。

 「私車ガレージに入れてくるから、診察室で待ってて」

 「ああ、解った」

 つまりこの二人は私の怪我を治療してくれるためにわざわざ連れて来てくれたんだ。

 疑心暗鬼に何かを疑っていた自分が恥ずかしくなった。

 少しして診察室のドアがばたんと閉まる音がした。白衣を来た彼女が自分の椅子に座り私のシャツで巻かれた膝と肘をじっと見つめた。

 「俊昭、ま、あんたにしては上出来ね」

 そして私の目を見て、

 「まだかり痛むでしょ、かわいそうに。頑張ったね」

 巻かれたシャツをほどかなくても怪我の程度が解るんだろうか。実際、本当は我慢できないほど痛かった。

 「それじゃそこのベッドに横になって」

 私を診察用のベットに寝るように言って

 「俊昭、あんたいつまでここにいるの。さぁ出て行った。ここから先は医師の領域だよ。部外者は外に出て行きな」

 そう言って彼を診察室の外に追い出した。

 彼女は、私の膝に巻かれたシャツをほどき

 「ごめん、ハンカチ剥がすとき痛いけど我慢してね」

 と優しく言った

 出血した血がハンカチに染み付き乾き始めている。

 ゆっくりと静かにハンカチは傷口から剥がされていく。

 「い、痛いっ」

 思わず声が漏れてしまった。

 我慢しようと思っていたのに……

 「あ、ごめん。でも、もう少しだから我慢して」

 口では言うが手は止まらない。

 ようやく張り付いたハンカチが剥ぎ取られた。

 「これはひどい。よっぽどひどくコンクリートか何かにこすり付けたような感じだな。皮膚が傷口からはがれている」

 彼女は躊躇することなくピンセットで麺綿を掴み赤い消毒液を傷口にポンポンとつける。

 「う、う、う、」

 下唇をぎゅっと噛み、痛みに耐える。

 「もう少しだ。頑張れ」

 声は優しい。でも痛みは触られる分増してくる。

 ガーゼを被せ、ぐるぐると膝が包帯で巻かれた。

 「さて肘の方はどうかな」

 そう言って傷口を診察すると

 「うん、こっちは大したことないな。ほんの擦り傷だ。まっ念のため消毒だけはしておく」

 大したことはないと言っていたがやはり消毒液は沁みて痛かった。

 「とりあえずこっちも包帯を巻いておくからね」

 私は右肘と左膝に包帯を巻かれさながらのけが人の様な格好になってしまった。


 「よし、終了。後で化膿止めの薬出しておくから、それ飲んでおいてね」

 「あ、ありがとうございます」

 とりあえず礼だけは口にしないといけないと思い、その後の言葉を探したが出て来たのは

 「済みません。私まだ保健書、実家から届いていなくてないんですけど……あと診察代いくらでしょうか」

 と何とも事務的な言葉だった。

 「そうか、実家から届いていないと言う事は一人暮らしなのか」

 彼女は少し考えた様に言う。

 「はい、4月から豊崎高校に入学するのでこちらに越してきたばかりなんです」

 「はぁ、豊崎高校だとぉ」

 「はい」少し小さな声で言った。

 「おーい、俊昭もういいからこっち来い」

 診察室のドアが開き彼が入ってきた。

 「おーこれは、立派な怪我人だなぁ」

 私の姿を見てなぜかにこやかに言う。

 それなりの処置が終わって安心しているのだろうか。それともあの女医、彼の彼女かもしれない人の腕を信じ切っているから、さっきと違ってあまり心配しなくなったのだろうか。

 なぜか私はムッとした。ほんの1時間くらい前に出会ったばかりの人なのに

 「何おちゃらけているんだ俊昭。それより彼女4月から豊崎の生徒になるんだってよ」

 それを訊いた彼は意表を突かれたように

 「え、本当」

 まじまじと私の顔を二人は見つめた。



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