第7話出会いは奇なり。でもその出会いは私の気持ちを暖かくしてくれた
「え、そうなの。意外だなぁ、倫子ちゃん経験あるんだぁ」
これまた、言葉は以外だったと言っているが、優美の表情は普通だった。そして
「私もバージンじゃないよ。ちゃんとSEXの経験あるよ。良かったよ。倫子ちゃんも経験ある子で」
そ、それってどういう意味で言っているのだろう?
「ど、どうして私が、そ、そのぉSEXの経験があるといいわけ」
「だってさぁ。他の子なんかそれ物凄く自慢してくるんだよ。私はもうSEX経験済みです。女なんですって。でもさぁ、実際は女っつたってまだただの女子高校でしかないんだよ。それなのに、何かもう普通じゃないんだよって鼻高々に言うじゃない。私あんまり好きじゃないんだぁそんなの」
まぁ確かにほかの子が話しているのをよく耳にするけど、私自身もちょっと嫌だった。そんなに自慢することなのかと思いながらいつも聞き流しているんだけど。
「典子ちゃんはそんなこと一言も言わないし自慢なんかしていないし、当たり前のことよねこれって」
「でも、意外だった?」
ちょっと訊いてみた。
「ううん。多分倫子ちゃん彼氏いると思っていたから。それもとてもラブラブな関係の」
聞いたこっちが意外だった。そんな素振りは一切出したつもりはなかったんだけど。それに私一言も彼氏がいるって誰にも言っていないし、そんな事言える訳がない。
だって、私の最愛の人は今、この高校の教師をしているんだもの。ただ、まだ臨時なんだけだ……。
「どうして……優美さん、どうして……」
「あれ、当たっちゃった。ちょっとかまかけてみたんだけど」
や、やられた。
でも、この時この子は私の事よく気にしていたんじゃないかなって、心のどこかで感じていた。
「ごめん、ごめん。本当にあたちゃうと思っていなかったよ」
そしてなぜか彼女は笑った。
私も、どうしてだろう。怒るよりも彼女といると何かとても安心する。
そして私も優美と一緒に笑った。
ただの偶然か、それとも優美はあの時、最初から私の後を付けて来ていたのか、それは解らないけど。
この事が切っ掛けで優美とは親しくなった。
お互いにココ、屋上へ出入するのは二人ともう一人。
臨時教師の石崎俊昭との秘密になった。
石崎との関係を彼女が知るにはそんなに時間は掛からなかった。
それこそ優美さん、もうその頃は優美ちゃんと呼んでいた。
優美ちゃんは、驚かないだろうなぁ、と思っていたがなんと彼女は「え、まさか。本当」と驚いているばかりだった。
実家は地方、あそこから通学は完全に不可能だったから高校に入学してからは一人暮らし。
本当は、学校の寮に応募していたんだけど。もうすでに定員いっぱいで入れなかった。
だからできるだけ安くて、静かで、近所に同じ学校の人がいないところを選んだ。
なんとか見つけて入居出来たけどちょっと古いし駅からは少し歩かないと行けない。でもわたしはここがとても気に入っている。
この地域がなんとなく都会にいてもそれを思わせないのがいいのかも知れない。
それともう一つ理由もあるんだけど……。
優美ちゃんを初めて私のアパートに招待した日、偶然にもひょっこり彼、石崎俊昭が私の部屋を訪ねてきてしまった。
そうなればもうどうにも言い逃れることも出来ず「ごめん、私の付き合っている人って、この人なの」と言うしかなかった。
なにせ物理の先生が担任でもないのに私の部屋に「おーい」と声を上げて自分の合い鍵で入ってくるんだからどうしようもない。
「ええ、石崎先生が本当に倫子ちゃんの仮氏なの?だって歳だって随分と離れてるじゃない。どうしてよ。どうして付き合ってるのよ」
質問攻めにあったことは言うまでもない。
彼女も学校で毎日会っているし、しかも彼の授業も受けている。本当に知らない人じゃないから余計に驚いていた。
彼、石崎とは実は
この高校に合格して入学する直前に知り合った。
地方で育った私はこの大都会に来たての頃、この人の流れに圧倒されていてばかりでついていけず、オドオドするばかりだった。
そんな時後ろから跳ね飛ばされるように背中から押され鞄を放り投げ、駅のホームに倒れ込んでしまった。
私を跳ね飛ばしたサラリーマン風の男性は「チッ」としかめた顔をして人ごみの中に消えてしまった。
いきなりの事で訳が分からなかったけど、状況を飲み込むと次第に涙が溢れ出ていた。
これが都会なんだと。
私の知らない都会の姿なんだと。
方膝と方ひじに擦り傷をして、中身が出された鞄の荷物を夢中で広い集めた。
その時頭の上からふと
「大丈夫?」と私に問いかける男の人の声がした。
彼も私の散らばった荷物をかき集めてくれていてくれていたらしい。
「ハイどうぞ。まったく無神経と言うか、こんなことをして心が痛まないのかねぇ。あんな人ばかりだからこの世界は駄目になるんだよ。きっと……」
彼は独り言のように呟いた。
そして私の膝から出ている血を見て
「怪我してるじゃないか、これりゃひどいなぁ。駅員に言って訴えよう」
彼はそれこそ心配というか、何というか、今だから知ることだけれど、こういうことが大嫌いなのだ。
私の手を掴み
「さぁ、行こう」としたが
「いいんです。私がボーとしていたのが悪いんですから、私が悪いんですから大袈裟にしないでください」
何とか彼を引き留めるのに精一杯の私を見て
「あははは、そんな大袈裟にするつもりはないよ。でもその傷のままじゃ大変だろう。あ、肘もすりむいているじゃないか。まずは手当てしないと」
彼は近くのベンチに私を座らせ、自分のカバンから白いハンカチとハサミ。ちょっと高そうな半袖のティシャツを出して、おもむろにそのティシャツをハサミで切り膝にハンカチを充てその切ったシャツで包帯の様に巻き付けた。もう一つは肘に巻き付け
「君、ちょっと歩ける。それと時間大丈夫かなぁ」
と訊く
私はあまりの事で言葉が出ず。ただ頷くことしかできなかった。
彼は私が頷いたのを確認するとスマホを取り出しどこかに電話をした。
「あ、ごめん。今大丈夫、良かった。実はちょっとお願いがあるんだけどいいかな……」
彼が会話する声を耳にただ流れるように訊いていた。
会話が終わると彼は私の目線に腰を落として
「とにかく駅を出るよ。ほら、僕の肩に捕まって」
そう言って肩を差し出す。
でも、今までそんな事されたこともないし、今さっき会ったばかりなのにここまでされると正直体が動かなかった。
それでも彼は無理やり私の腕を取り、ゆっくりと立たせゆっくりと駅の出口を一緒に目指した。
もう、知らない男の人にこんなに触れているだけで意識がどこかに行きそうだった。あまりにも動揺しすぎて心臓がパンクしそうだったのだから。