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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
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第5話おかしな人達

 その女性の姿を見て僕は思わず声を出した。

 「母さん」

 それについこの間まで目の前にいた母さんよりずっと、いやかなり若く見える。

 もしかしたらその姿は僕と同じ位かそれよりも少し年下かもしれない。 

 もう一人、あの男性医師の方の顔はあまりピンとくるものはなかった。年は初め30代は超えていると思っていたが、実際の彼の顔つきは僕と同年代に見える。

 でも何となくどこかで見たような、そんな懐かしささえ感じさせられる顔つき、誰かに似ている。その誰かは解らないが確かに誰かに似ている面影があるのは確かだ。

 「君とは多分初めて出会うことになるはずだ。いや初めましてだよな。石崎遼君」

 思い出せないどこかで見たことのある面影のある顔をじっと見つめていると

 「おいおい、だから君とは面識が僕にはないんだよ。でも……多分、今君はこの顔のどこかに懐かしさと言うか、誰かの面影をかさねようとしているんじゃないかなぁ。僕の推測だけど……」

 母さんが、いや多分母さんだと思うあの女医が

 「そりゃそうでしょ。遼君の最愛の彼女の父親なんですもの。どこか似ていて当たり前よ」

 僕はそれを聞いて驚いた。もしかして絵理菜の父親なのか。

 「そうだよな。絵梨奈はあいつにもよく似ていたし、俺にもよく似ていた。でも生まれた時は、俺の方が断然優位だったんだけどなぁ」

 そんなことをしげしげと言った。

 「絵理菜の……」

 そうなれば僕には面識はない。絵梨奈は二人が結婚する前に「かあねぇ」のおなかの中に宿っていて、絵理菜が生まれてから後に二人は離婚をした。

 それは僕が生まれるちょっと前の事だっただらしい。

 だから僕は絵理菜の父親の事は知らない。写真も見せてもらったこともない。

 母さんからも、絵理菜の父親の事は話に出すなときつく言われていたから……。

 それにしても、おかしい。母さんにせよ、絵理菜の父親にせよ。

 二人共とても若い。

 これはどう言う事なんだ。それに今の彼はまさに今頃絵理菜の父親になっているはずなんだが。

 困惑する僕を母さんであろうその女性が優しく抱きしめた。

 「無理もないよね遼君。いきなりこんな状態じゃ解らないよね。でも大丈夫、必ずあなたの想いを絵理菜ちゃんに届けさせてあげるから。そしてあなたを私たちは必ず守るから」

 彼女の目からは涙が流れ出ていた。

 それはまだ自分が宿してはいないが、いずれ自身が宿すことになる子への愛情からくるものなのだろうか。


 「あなたに、これからすべての事を教えるわ」

 僕を強く抱きしめながら彼女は言う。

 そして彼も続けて言った。

 

 「ああ、このすべての事実を知るには、まずは僕らの事から話さないといけないよね倫子のりこ。そう、僕と絵梨奈の母親になる優美まさみそして遼君、君の父親、石崎俊昭いしざきとしのりについても話さなくてはいけないよね。ちょっと長くなるけど、ま、ゆっくり聞いてくれよ。僕ら4人の話を……」



◇3+1=4じゃなく3+1=0になる

 

 「なぁ、遼君。3+1は幾つになる?」

 「3+1ですか?普通は4じゃありませんか?」

 僕は当たり前のように答えた。

 「ああ、間違いじゃないよ。それは当たり前の事だからね。でも、もしその答えが「0」ならば君はどう説明する?」

 答えが「0」?これは謎解きか。または別な数学的な意味合いを持っての答えなのか。まったく意味が解らない。

 「済みません意味が解らないんですが。答えが0になると言う事は、僕の知る限り普通じゃありませんよね」

 「その通り。まさしく普通じゃないんだ。それに僕はただ単に3+1としか言っていない。特別何かの条件も付けていないからね」

 彼はいかにも学者らしい感じの遠まわしの言い方を好むらしい。   

 僕は少し考えた。3+1が4じゃなく0になるパターンを。

 でもどの数字も実際は実数であり負の数字でもない。そうなれば負の対数による変化でもない。

 3+1、3に1をかけたとしても答えは3になる。

 0ではない。

 では、どうする。 

 すべてが存在する物であって、大きいものが小さいものに食われて0になる。

 ……待てよ。

 確か講義でがん細胞について語った教授がいたことを思い出した。

 がん細胞。それは一般的には病巣として体内部では必要が無い物と位置づけられているが、実際はそうではない。

 がん細胞は、常に体内に存在をしその姿を現している。でもそれを抑制する働きががん細胞を表に出していないだけなんだと。

 ただ、その抑制する細胞のちからが弱まった時、がん細胞は一般細胞と同等な位置づけで細胞分裂を行ない通常の細胞からがん細胞に変えて行く。

 つまりがん細胞は、当たり前にあるものとして考えるべきものだと。

 だとすれば……

 「済みません。僕なりにちょっと考えてみたんですけど。もしかして3+1の1ってがん細胞と同じ考えを持てばいいじゃないのかなって」

 彼はにニヤリとして

 「うん、さすがは医学生らしい思い付きだね。まさにその通りだよ。3+1=0になると言う事は」

 彼は僕が表現した事を自分たちに置き換えて説明した。

 つまり、3+1の3は3人。

 母さんである倫子、それと絵理菜の母親の優美さん。そして僕の父親、俊昭であると。

 そして残りの1は、絵梨奈の父親である彼自身であった。


 彼自身が僕の言うがん細胞であったのだと。



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