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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
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第3話おかしな人達

 目が覚めると始めの様なひどい頭痛と吐き気はなく、それよりも、今までにないくらいとても清々しい気分で、体も動かすことが出来た。

 もう点滴もなく、部屋の中を見回しても今は誰もいないのがわかる。

 そおっと起き上がり、窓辺の景色を眺めた。

 その景色ははじめに目にしたそのものとはほとんど変わっていない。

 ほとんどと言うのは、最初に見た景色があまりにもぼやけていたからだ。今ははっきりとその光景を目に出来る。

 あの高い山、あれは富士山だ。

 そして、海が見えるということはもしかしたらここは静岡のどこかだと思う。あくまでも推測だが……

 山村家の墓は都心から千葉県に入るあたりの地域にある。

 と、言うことは僕は多分静岡だと思われるこの場所まで移動してきたことになる。

 スーと目線を外の下の方に向けた。

 およそ5階建てくらいの建物が3棟に2から3階建ての鉄筋の四角い箱の様な建物が楕円を書く様に10棟ほど見える。

 さながら、何かの研究所の様な感じがする。

 だが、今僕のいる部屋はまさしく病院の個室病棟の様だ。

 ここはいったい何なんだ。研究所の様な施設に病院の施設。もしかしてここは政府が密かに行っている人体実験場じゃないのか。少し苦笑しながらそんな馬鹿なことを考えていた時、部屋のドアがノックされた。

 横スライドの病室特有のドアが開き、そこに一人の女性看護師らしき人が、食事が乗ったワゴンを押して部屋に入ってきた。

 ただあの時、おぼろげながら見たあの医師の様な男同様、顔には黒いマスクをはめていた。

 「石崎遼いしざきりょうさんですね」

 声のトーンからはにこやかに話しかけているようだが、マスク越しではその表情はうかがえない。

 まぁ仕方なく「はい」と返事はしてみた。

 「お食事です。もう動かれても大丈夫そうなので、こちらのテーブルでお召し上がりください」

 そう言って彼女は、ワゴンに乗った病院食らしき食事をトレー事テーブルに置いた。

 僕はすかさずその女性看護師に

 「ここはどこなんですか? そしてあなた方は何をしているんですか」

 その僕の問いに彼女は表情? いやマスクをしているから解らないが、声の調子からしてなんの困った様子も感じさせないように。

 「ここは、石崎さんもお分かりの様に病院ですよ。何かありますか」

 まぁ確かにこの部屋だけを見ればここはれっきとした病室で、病院ということは解る。だからそう返されても文句のつけようがない。

 「ええ、と。確かに病院なのは解りますけど、どうして僕は入院をしているんだすか」

 ちょっと確信に触れたいという思いが先走った。

 「あら、何も覚えていないんですか? そうですよねぇ。あんな状態じゃ覚えているのが不思議ですからね」

 「あんな状態って、僕はどうしたんですか?事故か何かにあったんですが」

 女性看護師はその後少し間をおいて

 「その事については担当の先生からご説明がありますから、その時わかると思いますよ」

 ちょっと頭を横振る。若い子女の子が可愛らしくする素振りに似ている。肩まである髪がサラサラと揺れる。

 「あ、あと一つ」

 「なんですか」

 「どうして、その……黒いマスクを着けているんですか。顔を隠さなきゃいけない理由が何かあるんですか」

 これもまた即答で

 「ああ、このマスクですよね。これ、この病院の決まり事なんですよ。私はちょっと気に入っているんですけどね。変ですか?」

 変も何も普通、そんな黒いお面マスクなんか着けないだろう。

 しかも彼女はちょっと気に入っているとも言っていた。

 自分の素顔をさらけ出すのが嫌なのか、何かあって顔を表に出来ないでいるわけでもなさそうだ。そうなれば……その先は言葉に出さないというのが最善そうだ。

 「それじゃ、冷めないうちにお召上がりくださいね。後で回収にまいりますのでよろしくお願いします」

 そう言ってぺこりと頭を下げてドアを閉めた。

 ドアが閉まると「カチャ」という小さな音がした。多分オートロックになっているんだろう。

 つかさずドアの取っ手を横に引いてみた。

 鍵同士の隙間もなくもうそのドアは壁の一部の様に同化している感じだった。

 つまり、僕はこの部屋からは一歩も外に出ることは出来ないという事になる。

 普通の病院だったら、そこまでするか?それとも僕は何か伝染性のウイルスにでも侵されているとでも言うのか。

 でもその考えの確率ははるかに低いと思える。

 なぜなら、この病室の設備はいたって標準であっていわゆる一般病室であるからだ。

 そして今来た女性看護師は、ナース衣だけだった。もし伝染性の患者の元に来るのなら、防御衣、手にはグローブも装備すると思われるからだ。

 あのマスクを除けば本当に普通病棟でよく見かける看護師と変わらない。

 そう、僕はこの病室に軟禁されているのと同じ状態にある。

 では僕は、何の為に監禁されなければいけないのだ。

 あまりにも、状況を把握するには情報が少なすぎる。しかもこの病室には、独立型の冷蔵庫はあるにせよテレビやラジオに至るまで外部からの情報を得るものが一切省かれている。つまり何もない。

 などと考えているが、テーブルに置かれた食事の臭いが鼻をすする。

 ふとテーブルに目をやると、プラスチック製のトレーに少し大きめの蓋つき丼に、これもふたが付いたお椀と小皿に乗った御しんこ。そして白い深皿に乗った温野菜のサラダらしきものが目に入る。

 テーブルに付き、ゆっくりと大きめの丼の蓋を開けると、こんもりと盛られたシラスに汁のかかった大根おろしが乗ったいわゆる「シラス丼」というものだった。

 「まさか何か毒? はまぁないだろうけど、変な薬でも混入していない?」

 独り言のようにつぶやき、箸でほんの少量取口にした。

 「う、美味い」

 念のため、10分位体調を見ようと思っていたが、もう箸が次のシラスご飯を口に頬張っていた。

 「このシラス本当にうまい」しかもとても鮮度が良い内に釜揚げしてるんだろう。ほのかな塩味が食欲を誘う。  

 小さな椀の蓋を開けるとおふに三つ葉。そして香ばしい鯛の香りがする切り身が入った吸い物椀だった。

 一口、そして二口と、一級の日本料理の職人が丁寧に出汁を取ったような完璧な味の吸い物。

 そして深皿に乗る温野菜。ドレッシングやタレの様なものはなかったが、その歯ごたえと野菜本来のうまみに甘さが十分に引き出されていた。

 この野菜も鮮度が良いものを使い、ひと手間いや二手間もかけたような立派な料理だった。

 見た目はどこの病院でも出されている変わり映えのない病院食の器に外見だが、その中身はとてつもなく高級な料亭料理に匹敵するほどの味だった。

 夢中で全部食べ切った後に

 「ま、10分くらいは立ったろうし、何も変化ないから大丈夫だろ」

 また、独り言のようにつぶやいて自分に納得させた。

 

 食事が終わり、あとする事と言えば……正直何もない。

 何もする事が無い。

 後はただ窓から外の変わらぬ景色を眺めるしかない。

 しかし僕は何日胃に物を入れていなかったのだろうか。そんなに多い訳でもない量に物凄い満腹感と満足感が、また眠気が僕を包み込んだ。

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