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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
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第2話おかしな人達

 今年の夏も異常に暑い。

 去年、絵理菜の三回忌の法要が執り行われた。       

 絵理菜が死んでからもう4年が過ぎ去った。僕は今、とある大学医学部の3年として学生生活を送っている。

 そして今日。絵理菜の命日に彼女が眠る墓の前に来ている。

 去年来た時は、まだまともに彼女が眠る墓を目にすることが出来なかった。 

 正直今でも辛い。

 すでに墓石はきれいに掃除がされていて、絵理菜の好きだった「ゼフィランサス」という小さな丈と白くスッと伸びるような花弁が印象的な花と線香が灯されていた。

 ゼフィランサスのは花言葉は「汚れなき愛」もしくは「便りがある」などらしい。

 生前、絵理菜が庭に咲くこの花を見ながら僕に毎年話をしてくれていた。

 それを見て、もう「かあねぇ」が来た後だと解る。

 「かあねぇ」とは絵梨奈の母親。

 お袋とは高校からの大親友で、同じ高校のクラスメイトだったらしい。

 二人とも性格は本当に正反対で、勝ち気で気の強い絵理菜の母親は、大学時代付き合っていた人と学生結婚をして絵理菜を産んだ。

 そして彼女とは反対に物事に対し冷静過ぎるほど客観的にとらえ、自分の感情をあまり表に出さない性格。それが俺のお袋だ。 俺ら二人。絵理菜とは年は2つ離れていたが、母親同士仲がいいのを良い事に兄弟の様に育てられてきた。

 お互いの家も近い。ほんの家2、3軒先にあるほどの近さだ。

 しかし、今思えば「かあねぇ」が学生結婚をしていたのは何となく理解が出来る。

 だが、あの冷静沈着なお袋が、大学を卒業してすぐに結婚し俺を産んだとは、驚きの面もある。もっとも、彼女にしてみれば恋愛はあの冷静沈着な趣とは違う面を持っていたのかもしれない。

 まだ中学の時、親父が事故で死んだ時のお袋の取り乱し様は今でもはっきりと目に焼き付いている。

 あのお袋にとって、親父の存在はもう自分の一部だったのだから。

 今にも消えそうな線香に新たに火をともさせた線香を備え、もう一つ絵理菜が好きだと僕に言ってくれた花「ひまわり」を備えた。

 「ひまわり」の花言葉は

 「私はあなただけを見つめる」

 これも絵理菜から教わった。


 この花言葉を訊いたのは、親父が無くなった年の夏だった。


 山村家と彫られた墓石の前で手を併せる。

 静かに、線香の香りが鼻をかすめ、目を閉じるとまぶたの奥に絵梨奈の微笑む顔が浮かんでくる。

 自然と胸が熱くなり、閉じた瞼から涙がほほを伝わるってゆくのを感じる。


 「ようやく、一人で来れたよ。絵理菜」


 僕がつぶやいても返る言葉はなかった。


 それが途轍もなく寂しく。悲しく。現実にもう絵理菜はこの世にはいない事を、その悲しみが教えてくれる。

 やりきれない。

 どうしてもやりきれない。

 もう、どうにも出来ない事は解っているが「どうして……、どうして絵理菜は僕の前からいなくなったんだ」と心の奥底から叫び声が聞こえてくる。

 まだ辛い。ようやく一人で来たのに、物凄く心寂しい。

 この想いを本当に何かにぶつけたい。 

 

 そう思った瞬間。腕に針で刺されたような痛み走り、僕の意識は次第に薄れていった。


    ◇◇◇◇◇


 薄っすらと目が覚めるのと同時に、激しい頭痛と吐き気。これはひどい二日酔いに似た症状だ。

 仮にも僕は医学生だ。今自分の症状ぐらいは判断ができると思っていた。

 でもあの後、大量の酒を飲んだ記憶はない。

 むしろ、絵理菜の墓参りをしてからの記憶がまったくない。

 ここはどこだ。

 そして今は何時で何日なんだ。

 次第に意識がはっきりとはいかないが気が付いた。

 「ここは病院の病室か……」

 白い天井ボードにベットを囲む様にあるカーテンレール。

 左側の頭の横位置で束ねられているベージュ色のカーテン。

 上部にある酸素などを取り付けられるようにセットされている横並びのパネル。

 そして僕の腕につながる点滴の管。

 この様子を見て病院であることは確かだと思う。

 そして右側から望める大きな窓。

 そこに映し出されているのは、大きな山とその横から望める海、そして……背の高そうな木々を見下ろせる。

 見下ろせる? と言う事はこの部屋は相当高い階にある部屋だと解る。

 3階や5階じゃない、もっと上の階にある。少なくても30階以上は上だろう。

 あの近くにこれほどまで高層に建てられた病院はあったか?

 いや、そんな大病院はないはずだ。しかも海が見えるのはまだ可能性はある。だがあの大きな山はなんだ。

 あんなに高い山はなかったはずだ。

 凄い頭痛と吐き気は未だ続いているが、何とか現状を把握しなければ……そう思い体を起こそうとするが、体が動かない。

 足も、指も、頭も起こす事すらできない。

 目だけがキョロキョロと動き回すのが精いっぱいだ。

 「気が付いたかい」

 その声は、僕の足元の方から聞えて来た。

 「ああ、まだ無理に体動かさない方がいいよ。もっとも、まだ動かないと思うけどね」

 声の感じから30代後半くらいかな。

 でも話し方がどことなくふざけた感じがする。

 「まぁ、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。君の命まで取ろうなんて事はしないから安心しなよ」

 受け応えをしようにも、肝心の声も出ない。

 「今は、もうひと眠りした方がいいと思うよ」

 そう言って、腕に刺されている点滴に何かを注入した。

 その時見たその男の姿は、白い白衣に黒い面を掛けていた医者らしき人だという事だけだった。

 そして僕はまた、深い眠りに入った。




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