第18話この気持ちは、そして今から
優美の恋愛というか、優美が付き合う男性との関係は何時もあまり長続きしなかった。
「私、今日告白された」と言って喜んでいたのもつかの間。
「ねぇ。告白された彼とはうまくいっているの」と訊くと
「ああ、もうとっくに別れたよ」
とつぜんという。
「何で」
「だって退屈なんだもの。それにすぐにキスしようとか、エッチに持っていこうとするし」
それは、あんたがそうさせてるんじゃないのか。と言いたくなるがそこはぐっとこらえて。
「残念だったね」
ま、ねぎらいというか、彼女にはなんの意味のないだろうけど。だって本当にケロッとしているんだもの。
でもある日、優美から、今付き合っている人の事で相談があるとSNSでメッセージが来た。
私は何かとても大事なことだと感じて
「それじゃ、今晩私の所に来ない。ちゃんと許可とって来てよ。黙ってくるのはご両親に心配っかけるから」
「解っているわよ。倫子の所だったらいつでも大丈夫よ。うちの親だったら」
私も何度か優美の家に呼ばれて行った事がある。
立派な家で、とても優しそうなお母さんがいて、そんなに会う機会はないけど、お父さんもいつも優美の事見ているよ。って言っているのが解る様な感じの人だった。
そして、優美も私の事を親友と紹介してくれた。
「自分たちのことも全部倫子には話しているから」と。一番の親友だから話したんだって。
お母さんは、それを訊いてとても喜んでいた。
私から見たら。本当の親子にしか見えなかった。
その日の夜。私は石崎家、俊昭さんの所にはいかず倫子と私のアパートで一夜を共にした。
もう私たちはすでに高校3年になっていた。
このころ俊昭さんの臨時期間は終了し、私たちの学校をすでに辞めていた。でも初めは1年の契約だった。だけどもう1年とちょっと任期がのびた。産休で休んでいた先生の具合が思わしくなかったからだった。
本当は校長から、そのまま教員での採用でいてくれないかと言われたんだけど、大学でお世話になった教授から研究を手伝ってほしいとお願いされ、大学の研究所に今はスタッフとして在籍しているいる。
ま、お給料は講師や教授の片腕として働いている分、臨時教師よりは少しはいい様だ。
それでも、石崎家の家事は俊昭さんがメインでやっている。
メインでというのは私はもう、石崎家の家族の一員として迎えられていたからだ。
実際まだ籍とかは入れていないけど。もう家族として共に生活をしている。
だからこのアパートも引き払えば親も助かるんだろうけど。まだそのまま、高校を卒業するまではこのままにしておくことにした。
その日は俊昭さんも家にいたし、連絡をしてアパートにいた。
優美が来たのは夕方ぐらいだった。
「いらっしゃい」
気軽に優美をアパートに入れる。
「いつ来てもやっぱり倫子ってしっかりしているよね。ちゃんと片付いてる」
「そんなことないわよ。夕食どうする。何か簡単なもので済まそうか」
そういうと優美は、手さげ袋を差し出し
「はいこれ、お母さんから夕食のおかずにしなさいって」
袋の中からはタッパーに入れられた、美味しそうなお惣菜がいっぱい出て来た。
「わあ、すごい。美味しそう。ありがとう優美」
そしておもむろに、もう一つの袋から出て来たのは缶ビールと缶カクテル。
「へへ、さっき買ってきちゃった」
でも、未成年にお酒売っちゃってそのお店大丈夫だろうか。
「大丈夫だったの」
「うん。だってここに行く途中、電車に乗るまで彼と一緒だったから。彼、もう二十歳過ぎてるし」
「ふぅん。まっいいかァ。明日はどうせ休みだし」
そんなことを言いながら私たちは、お互いを見つめながら笑った。
「私たち不良ね」
「うん。今だけ不良品だよ」
不良品?その言葉が何となくおかしかった。
優美のお母さんが作ってくれた料理はとてもおいしかった。ご飯たいたの二人でぺろりと無くなってしまった。
「なんか懐かしい味がしたなぁ。お母さんの味、ていう感じで。優美はいつもお母さんの手料理食べられるから幸せね」
優美は、ふっと微笑んで
「うん、私は本当に幸せだと思うよ。今はお父さん、お母さんに感謝してもしきれないほど幸せだと思っている。だから私はうんと甘えてやるんだ。そして、いっぱい二人から怒られて、褒められて、うん。それに、倫子とも出会えて、私親友って呼べる友達できるとは思ってもいなかったから、今、とても幸せを感じている」
「そっかぁ。良かったね」
そこへ私の携帯に俊昭さんからメールが来た。
「倫子ちゃん、夕食大丈夫。これから作るけど、良かったら一緒に作って持っていこうか」
今晩の事心配して俊昭さんはメールを送ってくれた。
「だれぇ。石崎先生?」
倫子は羨ましそうに訊く。
「うん。夕食大丈夫かって」
「やけるねぇ。相変わらず見えないところではラブラブなんだから。あ、そっかぁ。もう家族同然の様に生活してるんだっけ」
ニタつきながら優美は言う。
「そうだ、もう食べたよって写メ送っっちゃお」
「ええ、そんな」とは言ったけど写メ取る気満々の優美には勝てなかった。
パシャ
携帯で空になったタッパーを持って「お腹いっぱいだよ」 アピールするように二人で一緒に写真を撮った。
「俊昭さん心配してありがとう。優美のお母さんから差し入れあったからもうお腹いっぱいです。ありがとうまた明日ね」
メッセージを添えて送信した。
すぐに返信が来て
「なんだよぉ。残念。でも楽しそうだからいいよ」
そう書かれていたメッセージの後またすぐにメッセージが来て。
「優美ちゃんと楽しい一夜を。お休み倫子……愛してる」
そのメッセージは優美には見せられないな。でも顔が真っ赤になるのが解る。
優美は、私が真っ赤になっているのを見てひょいと携帯を私から取り上げ、そのメッセージを見て
「ひゃぁ。倫子愛してるだって。いいなぁ」
冷やかすわけでもなく本当に羨ましがっていた。
「ん、もう。優美勝手に取ってみないでよ」
ちょっと怒ったように言うがそんな事優美には効いていない。
「えへへ」とニタついて終わりだ。
優美が来た頃はまだ少し明るかったけど、今はもう外の景色は暗く、夜の装いを出している。
「お風呂入るでしょ」
「うん入る入る」まるで子供様な感じの優美。
浴槽にお湯を入れ、優美に先に入るように勧める。
「先に入って」……「うん。ありがとう」
鞄から着替えを出して脱衣所に入った。
「ザー」という音が聞こえ始めちょっとしてから
「ねぇ、倫子も一緒に入らない」
そんな声が聞こえた。
思わず「えっ」と思ったけど「ま、いいかァ」と今行くとこたえた。
優美は風呂の中で、気持ちいいと言いながら鼻歌歌っている。
優美と一緒にお風呂に入るのは初めてだった。
でも、意外となんだろうか抵抗感?というんだろうか。同じ女であるからか、すんなりと受け入れた。
「初めてだね。一緒にお風呂入るの」
「う…ん」
ちょっとためらいがちに返事をした。
修学旅行では優美とは班が別になっていたから、入浴する時間もずれていた。
だから初めて一緒にお風呂に入る。
「倫子の体綺麗」
優美はしげしげと私の体を見つめながら言う。
「ちょっと恥ずかしいから、あんまり見ないでよ」
「なによ。女同士なんだもんいいじゃない」
エイッと言いながら優美は私にお湯をかける。
「あつーーい。もうふざけないでよ」
少し小さめの浴槽に二人で入るのは無理があるように思えたけど。体洗い終わってから、無理やり入った。
お湯が大量にあふれ出す。
狭く抱き合う様にしていると優美の鼓動が私に伝わってくる。
きっと、私の鼓動も優美に伝わっているはず。
「ねぇ感じる。私の心臓」
優美が言う
「うん。感じる」
「私たち、今生きているんだよね。この時間、この世界で………」
何かいつもと違う事を言う優美。
今の優美は何かを言おうとしている。
お湯の中で二人の肌は触れ合う
その肌からも感じる優美の何か思いつめたような感じの感覚が……
今日、優美は私に相談があると言ってこのアパートに泊まりに来た。その事と何か関係があるんだろうか。
そんな事を感じながらも変な気分に浸る自分がなんだかもどかしい。
「上がろっかぁ」
一言そう言って私はもう一つの自分から、そのもどかしさを断ち切った。