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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
17/20

第17話この気持ちは、そして今から

 この苦しい気持ちって……何?

 この寂しい気持ちってどこから来るの?

 私、変?


 石崎家で俊昭さんは私だけに料理を教えてくれる。

 でも学校では多くの生徒にかかわらないといけない。

 それを思うとまた涙が溢れてくる。


 俊昭さんて、私の何なの。

 それを思うと胸が締め付けられて、嗚咽が止まらなくなりそうだった。

 ふと、玄関から呼び鈴がなった。

 鍵はかけていなかった。

 ドアが少し開きそこから「倫子ちゃん。いる?」とお姉さんの声がした。

 電気もつけず真っ暗な部屋で、嗚咽を殺しながら泣きじゃくる私の姿を見つけ、お姉さんは部屋に入って

 そのまま、私を強く抱きしめてくれた。

 「ごめんね倫子ちゃん。あいつ倫子ちゃんの気持ちに気づいているのに、不器用な奴で。俊昭に代わって謝るよ倫子ちゃん」

 「お、お姉さん……」

 なぜだろうお姉さんに強く抱かれて、何かもやもやしていたものが少しづつなくなっていくような気がした。

 とてもお姉さんの体は暖かい。まるでお母さんのようだった。 そして私はめいいっぱい泣いた、溜めていた物を吐き出す様に。 お姉さんの胸の中で……泣いた。

 「うん、今はいっぱい泣きな。落ち着くまで私こうしてあげるから。ね、倫子ちゃん」

 今まで私の心は何かに縛られていた。

 いつからだろう。多分、あの時駅で初めて俊昭さんと出会った時から、私の心は縛られていたんだ。

 それを、私も素直に表現できなかった。

 ただ「料理、教えてやるよ」その言葉だけを支えに、私は俊昭さんの前にいることが出来ていたんだ。

 でももう、それだけの口実じゃ私の気持ちはおさまりが出来なくなっていたんだきっと。


 素直じゃないのは私も同じだった。


 「お姉さん。私、俊昭さんが………好き」


 「うん、知ってたよ。倫子ちゃん」

 お姉さんは、いつものように優しく言ってくれた。

 「私、ほかの子の様にできないから……私難しいから……気持ち溜めちゃって、そして……」

 お姉さんはゆっくりと私から体を離して

 「落ち着いた?」と尋ねた 

 「す、少し」

 「それじゃ家に戻ろう。俊昭が夕食仕上げてくれて、倫子ちゃんが来るのを待っているよ。それと家族会議もしないといけんしな」

 家族会議?

 「そうだ、うちら3人の会議をな……」    

 

 石崎家の家族会議。3人での会議とお姉さんは言っていた。

 お姉さんと一緒に石崎家に行くと、俊昭さんがうなだれるようにして私たちの帰りを待っていた。

 俊昭さんは、私の姿を見て

 「倫子ちゃん」と立ち上がり私の名を呼んだ。

 「まぁ、待て俊昭」

 気をもんでいるような感じの俊昭さんをたしなめるようにお姉さんは言う。

 「さ、倫子ちゃんもこっちに座って」

 私はお姉さん側に座った。向かいに座る俊昭さんの表情は少し悲しげに見えた。

 「なぁ、俊昭。倫子ちゃん来てくれたぞ。まずはお前から先に話を始めるべきだと思うんだが」

 お姉さんは静かに言った。

 俊昭さんは、うつむいた顔を上げ、私を見つめながら

 「ごめん倫子ちゃん。俺、ほんと無神経で。本当は倫子ちゃんの気持ち、俺……いや、俺の気持ちも倫子ちゃんに隠していたんだ」

 私は俯きながら、ちらっと俊昭さんの顔を見た。右の頬が赤くなっていた。

 「俺、倫子ちゃんと同じ学校の教師だろ。それに年も確か7つも離れている。だから……」

 お姉さんは、そんな俊昭さんを少しにらみつけて。

 「俊昭、そんな体裁はいい。大切なのは、お前の本当の気持ちじゃないのか」

 相変わらずお姉さんは俊昭さんにはこういうことになると手厳しい。

 彼は意を決したように

 「俺……の、倫子ちゃんの事 好きだ」

 もうなんか、今まで私と同じようにため込んでいたように俊昭さんは私に向かっていった。

 そして当の私は、さっきお姉さんには素直に言えたんだけど、なぜか本人を目の前にしていると固まってしまって声が出ない。

 俊昭さんは自分の気持ち、ちゃんと私に伝えてくれた。ちゃんと聞こえたよ「好きだって」本当想いが通じていたんだ。そう本当に感じていた。

 でも体が動かない声が出ない。どうしよう。

 多分顔ももう真っ赤だと思う。

 ああ、こんな性格?こんな自分が今ほど嫌だと感じたことが無いくらいそう思った。

 しばらくの間重い空気が私たちを包み込む。

 でも今、私が勇気を持って言わないと、多分一生後悔してしまう。

 俊昭さんもきっと同じ思いだったから、きっと勇気を出して、きっと言ってくれたんんだから。

 私も言わないといけない。自分の本当の気持ちを。

 俊昭さんに。

 ようやく出た俊昭さんへの言葉は

 「わ、私、まだ高校生で……そ、それでほかの子みたいに可愛くないし……地味で、性格こんなだし………」

 隣で訊いていたお姉さんが腕を組みながら、イライラした口調で

 「お前らなぁ。ほんと、似た者同士というか、ほんとまどろっこしい奴らだな。倫子ちゃん。さっき私に行ったとおりに言えばそれでいいんじゃないのか」

 さっき俊昭さんに言った様に私にも手厳しい言葉が投げられる。

 そう言われると、もう後には引けない。

 だから思い切っていってやった。顔を真っ赤にして叫ぶように。


 「私、俊昭さんが大好き」と


 それを訊いていたお姉さんは今度は「ぷっ」と吹き出し大声で笑い出した。

 「大好き」とわな。さっきは「好き」としか言わなかったのにと、お腹を抱えて笑っている。

 私と俊昭さん。当の本人たちは、いったい今までこらえていたのは何だったんだろう?と、ぽかんとしている。

 でも私もなんだかおかしくなって一緒に笑った。

 俊昭さんだけが、ただ一人ぽぁんとしていた。

 普通?ま、告白ってもっとなんかムードがある様な所でするもんだ。

 誰がそう決めたのかは分からないが、そんな気がしていたけど。こんな告白の形あってもいいんじゃないのかなって。

 私自身他の人の事良く知らないから。

 でも私……今とても満ち足りている。

 そしてとても心が暖かい。

 「さぁ。飯だ。腹減ったぞ」

 何事もなかったかのようにお姉さんは言う。でもその時私は思った。俊昭さんへの親代わりそして姉としての愛を。それに私にもその愛を捧げてくれていることを。

 その時、私は俊昭さんと同じくらい。ううん本当のお姉さんとして私はこの人を慈しみたいと心から思った。

 数日後、俊昭さんは私のアパートに一人でやってきて

 「倫子ちゃ。本当にいいの。本当に倫子ちゃんの事、本気で好きになっていいの」

 今更のように聞きに来た。

 さすがに私もちょっと「ムッ」ときた。

 「もう、今更何言いだすの。私あんなに苦しんだのに。それともやっぱりこの関係気にしてるの。

 だったら、俊昭さんに自身ないんだったら、あんなこと言わないでよ」

 もうお姉さんの性格が少し移っていたのかもしれない。

 そしてとどめは

 「私の事、本気で好きだったら。その証拠私にください」

 自分でも結構すごいこと言ってるなぁと今思えば関心している。

 「解った」

 俊昭さんは、一言つぶやいて、私を強く抱きしめ「キス」をした。

 いきなり私はキスされて驚いたけど、その俊昭さんの真っすぐな想いが、彼の唇から、抱きしめる彼の力から、そして伝わる彼の鼓動から

 本当に真っすぐに伝わっている。

 私も彼を強く抱きしめた。

 今も、そしてこれからもずっと。共にこの世から消えうせるまで私は、彼からこの真っすぐな想いを受け留めていたい。

 彼の温もりは心の温もりだった。

 お母さんが言っていた。

 「おんなで生まれたことに感謝しなさいと」

 私は両親にこの時感謝した。

 

 こんなに素敵な想いが受けられる、女性に生んでくれたことを。

 

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