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Paradox・A lover パラドックス・ラヴァー  作者: さかき原枝都は
15/20

第15話本当は…山村優美の気持ちの中

 浴槽に水をはり、病院でもらってきた安定剤を大量に飲んで、ありったけのお金で買い集めた痛み止めの薬を全部飲んで、もうどうでもいいと感じながら手首にカッターを押し付けた。

 もう、痛いという感覚もなかった。

 浴槽に這った水がみるみると赤く染まっていった。

 「多分、そん時さぁ。物凄く悲しかったんだと思う。ううん、寂しかったんだよ。物凄く」

 次第に意識はなくなり、この寂しさからようやく解放される。それしかなかったんだと言っていた。

 ふと見る優美の左の手首には今だはっきりと、その時の傷が残っている。

 浴槽からあふれ出る赤い大量の水、もう意識はなかった。

 「なんかさぁ。白いさぁぼやけたの見えて来て、それが病院の天井だって解るまでしばらくかかってさ……私死ねなかったみたい。だって気が付いたら病院のベットの上だったんだもの」

 優美が気が付いてあたりを見回すと、泣きじゃくるお母さんと、見た事ないくらい真っ青な顔しながら目に涙いっぱいに貯めていたお父さんの顔が目に入った。

 そして真純は一言言った

 「私、死ねなかったんだ」

 それを訊いたお父さんが、大声で怒鳴った。病院にいることなんか気にしないで

 「ば、馬鹿野郎。どれだけ俺らに心配かけさせれば気が済むんだ」

 そして声を大きくしながら。

 「馬鹿野郎。馬鹿だ、馬鹿だ……ば、………助かって本当によかった」

 と大声で怒ってそして私を強く抱きしめて、私の顔お父さんの涙でぐちゃぐちゃになるくらい泣いてくれた。

 その時初めて、私を心から叱ってくれた。

 そして初めて、お父さんとお母さんの私への愛を感じた。

 

 「さすがに病院だったから殴られはしなかったけど、あの時のお父さんは本気で私を叱ってくれたんだと思う。ようやくね」

 退院してから優美は両親に、自分のやったことを誤った。

 そして優美自身が、どんなに寂しかったかを全部洗いざらい話した。

 その時優美はもう、この家にはいられないと思っていた。

 本当の、血の繋がりのない両親にこれだけ迷惑をかけたのだから。

 だから、優美の心の中にあるものをすべて両親に話をして、家を出るつもりでいた。行く当てもなかったのだが………

 そして優美に両親はこう言った

 「優美、もう私たちと暮らすことが辛いのなら、私たちは優美と別れようと思う。今まで優美に良かれと思いやっていたことが実は、優美をこんなにも傷つけていた何て、これは私たちの責任だ。優美が謝ることじゃない。謝らなけらばいけないのは私たちの方だ」

 お母さんも泣きたいのをじっとこらえているのがわかる。

 「すまなかった。優美」

 そう言ってお父さんは深々と頭を下げた。

 「でもな、優美。いまさら言い訳になるかも知らないけど、本当は優美を怒ることに僕らは恐れを感じていたんだ。優美があんなことをするまでそれを隠していたんだ。僕らはもうと取返しの付かないことをしてしまったんだと思う」

 優美は黙って訊いていた。

 お母さんから

 「ご、ごめんなさい優美ちゃん。私たちあなたにとっていい親じゃなかった。本当にごめんなさい」

 そう言ってこらえていた涙を一気にあふれさせた。

 そう言う両親に優美は一つ質問をした。

 「どうして今まであんなに悪いことしても怒らなかったのに、病院であんなに怒鳴ったの」

 「当たり前じゃないか。自分の娘が、自分の大切な命を絶とうとするなんて………あの時は、猛無我夢中だったんだよ。お前が死ぬなんて、そんな事考えも出来ないことなんだよ。だから、優美を思いっきり叱ったんだ。それにあの時初めて解った。僕らは優美に生かされているんだという事を」

 「私に生かされている」

 「そうだ。私たちどんなに優美に助けられて、そして今まで生きてこれたのだろうかと」

 産まれてすぐになくなった本当の子供。もし、あの時優美と出会うことが出来なければ、私たちは今までずっとあの子の事を引きずっていたかもしれない。

 結婚をしてようやく授かった命。でもその命の火はすぐに消えてしまった。光のない暗闇の中にいる人生を私たちは送っていたに違いないと……

 その言葉一つ一つが優美の心を打つ。

 両親は優美に一言もその子の事を話したことはなかった。それどころか、実の子以上に優美をいつも見守っていた。

 そんな両親の想いと自分への愛情を今までに無い位優美は感じていた。

 この人たち。いいえ私の両親は、見も知らぬ生まれたての私を、もしかしたら誰にも引き取られず、死んでしまっていたかもしれない私を……こんなに大きくなるまで育ててくれた。

 それを私は私の苦ってな想いで絶とうとした。

 もしあの時私が本当に死んでしまっていたら……

 

 ううん………私はあの時一度死んだんだ。


 だから私は、お父さんとお母さんにもう一度会えたんだ。

 今までの私はもういない。

 私は、独りぼっちじゃない。それに人形じゃない。

 言いたいことがあれば言えばいいんじゃない。

 私も、お父さんも、お母さんも……

 膝の上に落ちる涙は、優美の想い。

 一つ、また一つ涙はこぼれていく。

 一度も二度も揺らいだ優美の心。でも優美は決意した。

 ここで。もう一出直そうと。

 本当の血の繋がりがなくてもいい。

 だから………

 「お父さん。お母さん。お願いがあります」

 二人はやはり自分たちの前から離れるんだとその言葉を聞いて思った。でも……

 「私、学校。転校させてください。そして、また一からやり直します。お父さんと、お母さんと一緒に。また一から……」

 二人はそれを訊いて大声で泣いた。

 泣くことはいい。私も大きな声で泣いた。三人で泣いた心の中からすべてを出して。

 本当に空っぽになるまで。

 それからすぐに転校の手続きが行われ、新しい学校に行く朝。

 お母さんが言った言葉がとても嬉しかった。


 「優美、しっかりとね。頑張って」


 今まで優美ちゃんだったのが「優美」と呼んでくれた事に。


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