第14話本当は…山村優美の気持ちの中
学校では優美とはあまり一緒にいることは少なかった。
晴れた天気のいい日に限り、あの屋上で一緒にお弁当を食べて、たわいもない話をして、メールやSNSでやり取りしたりしたりするくらい。
でも学校の外では、一緒に遊びに行くこともよくあった。
それでも、いかがわしい所は全て私が却下した。
よく二人で行ったのが近くの河川敷
優美にとっては、退屈な場所だったかもしれないけど高校生の私達にとって、羽目を外す場所はお酒が出てくるような、大人が集う場所じゃない事は確かだ。
それに二人で本当に大声を出して騒ぎたい時に行く場所は、そう格安のカラオケボックスに限る。
それと二人でよく将来の話をした。
「私たちって、高校を卒業してま、大学にも行くと思うけどその後、就職して何とか仕事しながらもいい人見つけて結婚をする。そして子供産んでから、振り回されるように子供と一緒に生活していくんだよねぇ」
優美はそんなことをぼそりと言った。
彼女は実家から学校に通っている。
毎日親からは成績どうだとか、最近は派手じゃないかとか、いろいろ口うるさいよ。と愚痴をこぼす。
でもなぜかその表情は安らかだ。
「倫子はいいよなぁ。一人暮らしで。あんなうるさい親なんか関係ないしさぁ」
そうは言うが、実際一人暮らしは自由に思えて、かなり束縛されている。
学校にかかる費用からアパート代。それに私の生活費まで、親が仕送りをしてくれているから何とかやっていけるのだけれど。
それでも、ギリギリ以下の生活をしていかないとやってはいけない。
それに俊昭さんや、お姉さんにすべて甘える訳にはいかない。
でも実際はかなり甘えていると思う。
週に3回から4回は石崎家で夕食を共にしているし、俊昭さんと一緒にいるときは全部彼がお金は払ってくれた。
もっと仕送りを増やしてもらいたいと親にお願いをしたいところだが、お父さんもお母さんも、ギリギリのところで私にお金を送って来てくれているのを知っているから、絶対に言えない。
「お金足りてる?」
お母さんからそう連絡が来ることもあるけど
「大丈夫何とかやってる」と返してあとは何も言わない。
お母さんはその言葉で私の気持ちもそして、自分たちの生活も合わせてすべて解っていてあと何も言わない。
だから優美を見ていると反対にとても彼女が自由に見えて仕方がない。
でも、優美も優美なりにいろいろとあった。
「わたしさぁ。実は養女なんだぁ」
その話を訊いたのは彼女と知り合ってから少ししてからだった。
優美から聞いた話は、本当のこと?と耳を疑いそうになった。
自分を生んでくれた親のこともわからず。
生まれて間もなく養女として今の親に引き取ららたのだと。
「わたしさぁ、実は中学のとき物凄く荒れたときあってさ。そん時何回か補導されてんだ。その時お父さんも、お母さんも二人共、物凄く怒ったと思うでしょう。でもね、二人共涙流すだけで私に怒った事無かったんだ。それがさぁ……とても悲しくて、寂しくて……」
その時の優美の表情は今まで見たことない位悲しい表情だったのを覚えている。
「だからさ、言ってやったの。本当は私たち家族じゃない。本当はあなた達、私の親じゃないんでしょって。そしたら何て言ったと思う。あの人達」
そんな事聞かれたって、私には答えるだけの言葉は見つからなかった。
「まさかと思ったんだけど。どうして知ってるのって。そんなこと返ってきた」
優美は本当は知らなかった。その時まで自分が養女であることを。
いつも優しく、そして暖かく優美に接していた両親。
でも優美はそんな両親に何か幼い時から寂しさを感じていた。
「どうして、お父さんもお母さんも。私の事怒ってくれないんだろう」
ほかの友達は、親に怒られたとか、あんな親怒ってばかりいてやってらんないとか。訊くのに私の親は私を一度も怒ったことがない。
「なんだろう。そん時さぁ思ったんだ。なんか私たちって偽りの家族だなって」
そんな何かやりきれない気持ちを隠しながら育ってきた。
「だから、中学のときちょっと悪い奴らと付きあったんだ。何となく寂しい気持ち紛らわすこと出来るかなって」
そして何度か補導されても一向に何も言わない両親にあんな事を口にしてしまったのだと。
優美は、自分で言ってからとても後悔した。
その真実を知ったからではない。
自分から両親を傷つけるようなことを言ってしまった事に。
そして今まで優美の両親がどんな思いで、優美を育てて来たか。自分は、本当は両親から愛されていないんじゃないかという想いを持った自分に、両親にあんなことを言ってしまい、そしてどれだけ心配をかけたのかと。
優美の両親は優美に全てをその時打ち明けた。
自分たちが結婚してから出来た子を産まれてすぐに亡くしてしまった事を。そして、知り合いの伝手で優美のことを知って「亡くした子の産まれ変わりだと」引き取ったことを。
だからとても大切にしたかった。
優美には傷一つつけてはいけないと、二人で心に誓い育てたと。
でもそれが優美にとっては悲しかったのだ。
優美自身、もっと自分を、叱ってほしかった。私を人形のように扱う感じがとてもいやだった。だから反抗した。
でも、両親の途轍もない優美への愛を知ったのはそのあとの事だった。
「私さぁ、それから二人と口きかなくなったんだよ。だっていきなり、お前は養女なんだ。何て言われてみ。そりゃ気まずいわ。ていうより。私、相当荒れていたからどんだけ両親に心配かけたんだろう。そんな思いが大きくなっちゃって口きけなくなってたんだ」
そんなある日、グループの一人と優美は喧嘩をした。ほんの些細なことだった。でもそれが尾を引いてことは次第に大きくなっていった。
それは、優美が通う学校に広がり、優美は酷いいじめを受けた。
もう、学校に行くことさえ恐ろしくなって、自分なんかもう、この世にいない方がいいと。
そんな思いが募り、優美は自殺を図った。