第12話石崎家という家の人達
石崎家は代々医者の家系のようだ。
お姉さんは、自分たちの親もそして祖父もその・・・と代々医者という家業をしていたと話を始めた。
そして自分たちの両親は、医者でもあり学者でもあったのだと。
その両親が学会出席のためドイツに渡った時。悲劇が起こった。
移動の為利用した飛行機が突如消息を絶ってしまった。
そして後にとある草原で、その機体の残骸は発見された。
乗客乗務員すべて死亡。
運悪く自分たちの両親もその飛行機に搭乗していた。
お姉さんが、医学部で大学2年の時。そして俊昭さんが、高校に入学したての頃。言わば今の私と同じ年の頃だったと。
…………
私は言葉が出なかった。
こんなにも仲がいい幸せそうな姉弟なのに………
親が残してくれた保険金と、財産があったことでお姉さんの学費や生活などには不自由することはなかったそうだ。
でも、やはりいきなり両親を失ってしまったショックは相当大きかった。
お姉さんはしばらくの間、大学を休学して躰が、精神が崩壊寸前するところまで崩れてしまったらしい。
その時、俊昭さんが一人もくもくと勉強をする姿を見て、
「このままでは、私じゃなく俊昭が駄目になってしまう」と感じた。
その時俊昭さんは、まるで何かにとりつかれた様に、怨念をむき出しにした姿に見えたそうだ。
なぜ、どうして。そこまでにして勉強を始めたのか。
それは両親を事故で亡くした飛行機事故が原因だった。
なぜ、あんな不完全なものが空を飛ぶ、人の命を運ぶんだ。
もっと安全な方法は無いのかと……
その思いからかは分らないが彼は、医者の家系を受けず、なぜか「物理」の道を目指した。
そして、お姉さんはその時崩した体の為。子供を産めない体になってしまったと。
お姉さんは自分の体の事を詳しく躊躇することなく説明してくれた。
自分の体の内臓内部に大きな損傷などがあったわけではない。常に通常の女性同様の機能は正常に機能している。
だが、子供を宿す為に必要な卵子に異常が出てしまったんだと。
「そう、私の卵子は黄身のない卵のようなものしか出来ない。だから、受精するタイミングが合ってもそれを受け付けることが出来ない。つまり子宮にもとどまることをも許してはくれないらしい」
それを訊いたとき、だから何だろうな。風呂場であんなことを言っていたのはと感じた。
そして、それは彼女のホルモンにも関係をするようになった。
女性として、子供を産む機能はあるにせよそれを実行できない体、私にはよく解らなかったが確か、子供を産むために必要なホルモンの方が極端に減ってしまっているらしい。そのためかどうかは解らないが、俊昭さんとは5歳も年が離れているのにとても若く見える。
また、その反動だろうか。お姉さんは男性にはまったく興味と言うか、俗にいう異性への想いというものが無くなってしまった。
それに弟である俊昭さんに対しては特に異性である感覚はなく、同性、もしくは同じ人間だといった感情しかないと言った。
でもそれは男女、異性として見た時の事らしい。
もちろん家族として姉弟、弟しての愛情は普通の姉弟よりも強いと最後に強調している。
「ああ。俺も姉さんの事はもう異性とは思わない様になっているよ。まぁ確かに外見は違うけど、俺も今では同じ体だと思っているから、裸を見ても何も感じない」
俊昭さんは付け加える様に言いながら、箸で酢豚の肉をつまみ、あムッと口に頬張った。
その顔が少し変で面白かった事は今でも覚えている。
その後、お姉さんが言った言葉が、のちに私の運命を変えた様に今は感じている。
「今、話した通り、私は子孫を残すことが出来なくなってしまった。そしてこの石崎家の医師家系を今は私が継いでいる。だが、その後だ。俊昭は自ら別な道を歩んだ。まぁ、俊昭が医者になっていたにせよ同じことなのかもしれないが、将来、俊昭との間に生まれた子にこの病院を、石崎家の家系を継いでもらいたいと思っている。そうでなければこの家系は私の代で終わってしまうだろう。まぁその辺りの事は俊昭も十分に理解はしてくれている。そうでなければ私も俊昭も自分たちの親に申し訳がないからな」
「それは俺もそうしたいと思っているよ。ちゃんと好きな人と結婚をして、その人との間に僕らの子どを作り家族として生活をしたい。そしてできるものなら、その子に医学の道に進んでもらえればとも考えている。でも、それは僕は強要はしないつもりだ。一応は打診はするつもりでいるが、その人生はその子のものだ。もし自分の子供がどうしても別な道に進みたいと言うならば僕はそれを応援するだろう」
それではお姉さんの想いはどうなってしまうんだろう。
お姉さんはその後こういった、真顔で
「それなら医者になってくれる子を産み続けるしかないな」
「ははは、そうなるんかやっぱり」
俊昭さんは笑い飛ばしていたが、不意に私から出た言葉が
「そんなぁ。私そんなに沢山子供産めません」
自分でも思いもしないまま勝手に口が開いて言ってしまった。
二人とも顔を見合わせ………大きな声で笑った。
「あ、ははは。そうか倫子ちゃんは、俊昭の子供産んでくれるのか。そうか。いいなぁ、こりゃ。今日出会って将来の家族計画まで話ができる子なんていないぞ。俊昭」
真っ赤になりながら、私の開いた口はぽっかりと開いたまま。
「ちょっと姉さんに、倫子ちゃん」
そうも言いながら俊昭さんも顔が赤い。
でもとても不思議な感じ。
今日出会ったばかりの人達なのに、なぜだろう。もっと前から………いいえずっと前から知っていたような。そしてとても親しくしていたような不思議な感じが先に来る。心の中から………
そう、この日から。私にとって石崎家は私のかけがえのない家になっていたのだから。