第11話石崎家という家の人達
かなり気まずい雰囲気?どうしてだろう。でもどうして私ったら何も考えずに彼の事名前で呼んでいたんだろう。いつもの私じゃない。
この気まずい雰囲気を破ったのは、お風呂場から聞こえてくるお姉さんの声だった。
「倫子ちゃん。お風呂場に来てくれる」
「え」
「なんだよう姉さんは、怪我人に風呂場まで来いっていうのかよ」
「いいから早く。俊昭お前の肩かしてやれ」
俊昭さんはまったくと言う感じで手を止めて
「さあ、倫子ちゃん立てる。まったく一度言うと後きかないのが姉さんの悪いとこなんだ。ごめんね」
「いいえ」
私は俊昭さんの差し出す腕に捕まって立ち上がり風呂場へ向かった。
ガラっと浴室のドアが開き、全裸のお姉さんが、当たり前のように、しかも恥かしさなんて微塵も感じないのか平然と
「わりーな俊昭料理の手を止めさせて」
「まーいいけどよ。でもよまさかとは思うが……」
「馬鹿かお前は。さ、もういいから行きな」
そう言って俊昭さんを追い出した。
「あのう御用てなんですか」少しもじもじしながら、目のやり場に困ってしまいながら私は『お姉さん』に訊く
そして彼女は何気なく言う。
「さっ倫子ちゃんも服脱いで」
「え、でもこの傷じゃ……」
まさか一緒にお風呂に……
「早く、清拭(…体を拭くこと)するから、早く」
清拭?なんだろう訊いたことない言葉だった。
言われるままに服を脱ぎ、下着を脱いだ。
そして浴室の扉を開け入ると、お姉さんがハンドタオルをお湯で濡らし絞っていた。
「お。来たか。そこ早く締めてな。寒いし湯気が脱衣所に入っていくから」
言われるままに扉を閉めた。
彼女はその私の裸を眺め
「倫子ちゃん発育いいなぁ。胸、私とそう大差ないじゃないか。それにいいよ、綺麗だよ体。やっぱ若いとこんなにも違うんだな」
正直恥ずかしかった。それにこれから何されるんだろうと少しドキドキしていた。
お姉さんは、私に後ろを向く様に言い、そして背中を優しく温かいタオルで拭いてくれた。
「これは清拭と言ってな、入院している患者さんで怪我や手術なんかで入浴ができない患者さんの体を拭いて清潔にしてやる事なんだよ」
体を拭いて清潔にする。そうか、怪我をしている私の体を拭いて綺麗にしてくれてるんだ。
やっぱりお医者さん。でもそれって看護師さんがよくやっているような気がするけど、でもとても気持ちがいい。温かく柔らかいタオルが背中に触れるたび、何か今まで張りつめていた気持ちが少しほころびるような気がした。
「さ、この椅子に座って」
浴室にある椅子に座り、足を丁寧に拭いてくれる。
タオルをいったんお湯で洗い、また固く絞って今度は首から静かに拭かれ始めた。
前は自分で出来ると言いたかったけど。でも身を任せてしまった。タオルは肩から徐々に下へ向かう。
胸までくると、手が止まった。
「やっぱ大きいなぁ。ほんとにこの前まで中学生だったのか。Dカップは確実にあるな。サイズいくらなんだ」
「Dの85……」
「ふうん。そうか。じゃやっぱり。私とあんまり大差はないか」
そう言いながら私の胸を拭き始めた。
優しくそしてとても丁寧に、どうしてだろう。恥ずかしいと言う気持ちよりも、何かとても暖かい気持ちになる。
時折タオルが乳首に触れる。何かピクンと感じる。ゆっくりと静かにタオルは私の胸を拭き上げる。
またタオルを洗いそしてお腹へタオルが触れる。
何かとても気持ちいい。今まで感じたことが無いような、なんだろう。この気持ち。暖かい落ちていきそう。そしておへその下に来た。
横にタオルを滑らせ、腰のあたりを拭き、ゆっくりと股の所へタオルが滑り込む。思わず
「そこは、自分で出来ます」
と言ったがもうすでに、タオル越しの手は股の奥深くまで届いていた。
拭きながら
「もう当然初潮は終えたでしょ。立派よ倫子ちゃんの体。もうちゃんと子供産めるわよ。骨盤もしっかりしているし、大丈夫。元気な赤ちゃんが育つと思うわ。医者の私が言うんですもの確かよ」
なんでだろう。どうしてそんな事言うんだろう。
私……そ、そんな経験なんてないのに、それに今まで好きな男の人なんて……その彼氏なんかいなかったし。でもお姉さんにそう言われるとなんだかとても納得してしまう。
「本当ですか」
おもわず訊いてしまった。
「うん。大丈夫よ。でもまだあなたバージンよね」
バージンと言う言葉に反応して顔が熱くなる。そしてコクリと頷く。
「バージンは大切にしないさい。初めての人。ちゃんとあなたを思ってくれる人に捧げない。いい、初めだけは絶対に後悔するようなことしちゃ駄目よ。解った」
またコクリと頷いた。
「さあ、終わったわよ」
お姉さんは私のその体を見て
「あら、乳首立っちゃった。ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけどね。へへへ」
と悪戯の笑みを浮かべ、そっと私にキスをした。
「これは俊昭には内緒。後で膝のガーゼ交換しましょうね。それと良かったら、脱衣所にある私の下着使ってもいいから、それじゃ風邪引かないようにね」
とても恥ずかしかったけど、何だろう。この安心感と心が何か暖かくなってくるような感覚は。
「ありがとうございます」
一言礼を言って浴室を出た。
そこには、私が清拭されていたのを解っていたかのように、着替えとスエットが用意されていた。
これを用意したのは俊昭さん。だってこの家にはお姉さんの他は俊昭さんしかいないんだもの。
なんだろうなぁ。お姉さんといい、俊昭さんといい。とても気が利くし、そしてなぜか恥ずかしいと言う気持ちが薄れていると言うか、あまりにも彼の行動が当たり前すぎているからかもしれないけど、そんな事感じなかった。
思わず「ありがとう」と小さくつぶやいた。
俊昭さんは料理がとても上手でうまかった。
「今日は酢豚にするね」何気なく言っていたが、その酢豚の出来栄えはもう、どこかのお店にでも食べに行ったような美味しさ。
「倫子ちゃん遠慮したら怒るよ」と冗談に俊昭さんは言っていたが、遠慮できるような余裕はなかった。だって美味しすぎるんだもの。
私が美味しそうに食べる姿を見ながら二人は。
「いいねぇ。人がいるって事は……」
お姉さんが、グラスのビールをごくりとして、ぼそりと言った。
そこからこの石崎家についての話が始まった。