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お狐様と僕  作者: 暗根
2/2

事後処理

あの後は色々と大変だった。

というか現在進行形で大変なんだけれども。


結局もとに戻る手段が見つからなかった僕とお狐様はあの後すぐに神主さんに見つかった。

いや別に隠れる必要もないしむしろ助けが欲しかったから僕なんか全力ですがったんだけども。

でもやっぱり神主さんにもどうしようもなくてとりあえず僕の家族にご連絡という形になったわけである。


いやまあ当たり前と言えば当たり前だ。

少なくとも息子の性別と種族がいきなり変わることって滅多に無いと思うからね。

報告しとかないと。


しかし僕には一つ懸念事項があった。

いや問題の山ではあるんだけれどそれとは別にだ。

今の僕の体というのは女性のものであるし、狐娘でもあるわけなんだけど、それ以前に神の肉体だ。

いやこう言うと頭おかしい奴に聞こえるかもしれないんだけど事実だから仕方ない。

そして今までこのお狐様の肉体を視認できていたのは、神主さんの一家と僕だけだったわけだ。

そう僕だけだったんだ。

つまるところ僕の家族はお狐様の存在を知らないし、何度も神社に行くことはあれど気づくこともなかった。

つまり何を言いたいのかというと…僕の姿が見えない可能性があるんじゃないかと考えたわけである。

確かに中の人は今やただの凡人だし、神からただの狐娘程度には降格している気がするがそれでもその体は純粋な神様のもので間違いないのだ。

つまり今後僕は誰にも見えない霊的存在として生きる必要があるんじゃないかとか思ったわけだ。


が、それは完全に杞憂だったと思い知らされることとなる。


「えーっと…あの、さ。聞くのおかしい気がするんだけど…お兄でいいんだよね?」


「あ、えっと…僕もよく分かんないんだけど多分兄貴だと思う…」


まあつまり今こんな状況なわけだ。

目の前、机を隔てて反対側、距離にして数メートル。

そこに僕の妹がいる。

そしてなんとも言えない空気の中こんな質問を浴びせてきたわけである。


はい。完全に見えてますね。

僕の心配は完全に無駄なものであったらしい。

ちなみにお狐様に聞いてみたところ、姿を隠すのもお狐様の神通力だったらしい。

今の僕はその神通力がさっぱり使えないのでほんとうにただの狐娘と化しているわけだ。


いやまあ姿が見えるのは喜んでいい気がするんだけど、家族に今のこの姿を思いっきり晒すと考えるとそれはそれで考え物だと思う。

だって明らかに元の僕と似ても似つかない姿だし、いまいち慣れないせいでちょっと尻尾が荒ぶってるし、一番の問題は僕が恥ずかしいということだ。


普通に考えてみてほしい。

狐娘となり果てた自分を「あなたの息子さんです」と家族に紹介された時の僕の気持ちとあの空気を。

僕以外の家族三人全員が綺麗にハモって「は?」と言ったあの光景はなかなかこうくるものがある。

まあ家族の反応も当たり前なんだけどね。

第六感とか全くない家系だったし、不思議な世界とは完全に無縁だったから。


流石にそれだけで状況が理解できるはずもないので詳しい話をということで神主さん一家の家へと通されて世にも不思議な説明が始まったわけである。

ちなみに僕はいても謎の注目を集めるだけで話にまともに参加できないと判断されて別室待機、妹の舞乃(まい)もとりあえず両親が理解してからということで別室待機、そして今ここという感じだ。

そしてこんな状況でろくに説明も無いまま僕と二人きり。

そりゃ微妙な空気にもなるというものである。

妹の側から見れば初対面の狐のコスプレした巫女さんがお前の兄だと言われているに等しいわけで、そりゃ混乱するし確認したくもなるだろう。

とはいえど当事者の僕すらまともに現状を理解できていないため、なんか曖昧な答えになってしまったのは許してほしい。


「質問。私の部屋は家のどこだか分かる?」


「え、二階の手前から二つ目」


「お兄の好物は?」


「味噌煮込みうどん」


「お兄のパソコンのエロ画像フォルダの場所は?」


「風景画フォルダの十一月二十四日フォルダの中」


「…やっぱりお兄らしい」


「ちょっと待って、判断材料そこなの」


確かにその情報は舞乃以外にばれた記憶も教えた記憶もないので一応僕の証明になると言えばなるんだけど…なんか釈然としない…


「えっと、とりあえずね。何から突っ込んだらいいのかもう分からないんだけど…」


「う、うん。僕も何突っ込まれても仕方ないなとは思ってる」


「その…それ本物なんだよね?」


「えーっと、どれ?」


「耳と尻尾」


「…触る?」


「いいの?」


「いや、良くないとは思うんだけど…触ればはっきりするでしょ」


「…じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」


お狐様ごめんなさい、と心の中で謝りながら許可する僕。

一応借り物の体ではあるので下手なことはしちゃだめだとは思っている。


「し、失礼しまーす…」


「やめて、変に構えないでっ。こっちまでなんか緊張するから!」


「んなこと言ったってさっ!」


いや分かる。

妹の言い分はすごい分かる。

僕も人生で狐娘と触れ合う機会は無かった。

妹からしてみればこれは未知との遭遇であると言えるだろう。

僕がその未知そのものなのだが。


「…ふさふさしてる」


「まあ、毛が生えてるから…あ、あと耳はあんまり触んないで。かなりくすぐったい」


「あ、ごめん」


「いや、謝らなくていいけど…」


頭の上から耳が触られている感触がするというのも変な感じだ。

というかそもそも他人に耳を触らせるなんてことが滅多に無いので変な感じでしかない。

妹の触り方もやんわりといった感じだったのでくすぐったい感じが抜けきらない。

…まあ今から触られる方よりはまだ理解できる感覚ではあるんだけどさ。


「じゃ、じゃあこっちも…」


「ど、どうぞ?」


「…うわ、すごい」


「え、何が」


「すごい。もふもふ」


「ああ、はいもふもふ」


「すごい。羽毛布団とかそんな感じがする…」


「あ、あのすんごいもふもふしてるところ悪いんだけど、一応それ感覚あるから、その…」


「え、あっ、感覚あるんだちゃんと」


「あるよ。違和感しか無いけど」


毛自体はそこまで強く感覚があるわけじゃないけど触られればまあ分かる。

感覚としては髪の毛とかに近いと言えば近い。

尻尾自体は九本もあるけどそれぞれ神経が通ってるのか、どれに触られているのかは感覚で分かる。

なんというか体に焼き付いた本能じゃないけど動かすこととそこら辺の感覚的なことは既に理解できていると思う。

違和感は拭えないんだけどね。

流石に無かったものがある感覚にいきなり慣れることができるほど、僕は超常現象に見舞われてはいない。


「えい」


「ひゅぃ!?ちょ!何するのさ!」


「あ、ごめん。いやちゃんと繋がってるのかなって」


「繋がってるから!痛いから普通に!」


「ごめんごめん」


とか考えてたらいきなり尻尾を引っ張られた。

毛をとかではなくまるごとそれ自体を体の後ろにだ。

思わず腰が動いてしまったし、変な声が出てしまった。

根本付近は結構そこらへんは敏感に感じるようだ…ちょっと痛い。


「…本当に生えてるんだねえ」


「うんまあ…」


そこで納得をしたのか手を引く僕の妹。

再び僕の前へと座りなおしたかと思えば、今度は僕の顔をじっと見つめてきた。

…ちょっと恥ずかしい。


「な、何?」


「それにこんな美人さんになっちゃって」


「美人さん…うん、まあ、そうか」


お狐様は美人だ。

いや今は僕の体であるのでこれじゃただのナルシストにしか聞こえないかもしれないが、客観的に見たとき少なくとも美人に属するとは思う。

狐要素を取り除いて考えれば、頭から流れる金色の長い髪に、ちょっと西洋方面入ってるんじゃないかと思う綺麗で整った顔、何度か話題にしてるけど出るとこ出て引っ込んでるところ引っ込んでるその体つきといい、まさにパーフェクトボディと言えるだろう。

少なくともなかなかお目にかかれない程度には美人ではあると僕も思っている。

まあその美人さんが今の僕というのが大問題なんだけど。


「ちょっと恨めしい」


「な、何が」


「いやお兄に女として負けた感じがして」


「そんなこと言われても…」


困る。

どこの世界に妹と女を競い合う兄貴がいるのだろう。


「うーん…だけどお兄そのまんまじゃ外出れないね…」


「連れ出す気だったのか」


「せっかくお兄が美人になったんだしちょっと一緒に出かけたいじゃん」


「待って待って、そんなことしたら僕死ぬ。心が死んじゃう」


「大丈夫。私がついてる」


「そういう問題じゃない」


妹の適応力が高い。高すぎる。僕がついていけていない。

当事者の僕ですらまだ現状の把握に大忙しだというのに既にこの妹は僕を外へ引きずり出す算段を立てているらしい。


「でも実際お兄どうするの?私としてはお兄がそうなっちゃったのは別に受け入れられるけど」


「…ここは受け入れてくれたことを感謝すべき?それとも元の僕の存在が否定されたって嘆くべき?」


「大丈夫。どうなってもお兄はお兄だし」


「…ありがとう、でいいのかなこれ」


あまりにもあっさり受け入れられるのも考え物だなと少し思う。

…けどまあ、受け入れられないよりはまし、と思うべきなのかな。


「話戻すよ。お兄、そのまんま外とか出歩くつもり?学校どうするの?」


「…ほんと、どうなるんだろうね?」


「…そういえばそれを今向こうで話してるんだっけ」


さてめでたく妹に今の姿が認められたわけだけど、これだ。

これが当面の僕の最大の問題であると言えるだろう。

そう、今の僕は狐娘。

その存在は当たり前だがファンタジーであり、少なくとも現代日本にいていい存在ではないと思う。

だから今の僕はある意味トップシークレット。

状況が状況なので僕たち家族にはその存在が明かされたわけだが、少なくとも何も知らない一般の人にその存在が知られるわけにはいかないというわけだ。

つまり今のままでは僕はこの神社の外に出ることはできない。

というか姿を隠すことすらできない今の僕は、ここのどこかの部屋にそのまま監禁されてもおかしくない状態だ。

そう、この部屋とは別の部屋で現在僕の両親に状況を説明している神主さんの判断によっては本当にそうなりかねない危機的状況なのである。

とはいえ、僕にやれることは現状何にもないので、神主さんが慈悲をくれることにかけるしかない。


「舞乃…」


「何、お兄」


「もし僕が二度とここから出られない感じになったら偶には会いに来てくれよ…」


「いやさすがにそれは無いでしょそれは」


僕が最悪の状況を想定して暗くなっていると、脇の襖が音を立てて開いた。

そこにいたのは神主さんとお狐様。さらに僕の両親。ついでに騒ぎを聞きつけてやってきた神主さんの息子で僕の友達の(あきら)

判決を言い渡される被告人の気分ってこんな感じなのかなとか考えていると神主さんが口を開いた――


□□□□□□


時間は妹と会話していたあの時から数十分後。

僕は神社裏の家のとある一室にいた。

家族にはおいてけぼりにされた。


どういうことだよって言うと、つまり先ほどのことが原因だ。

あの後神主さんが言っていたことを要約するとこういうことだ。


僕はこの神社の神様と入れ替わってしまった状態で、これを今すぐ解消することは不可能に近い。

事故に近い出来事であるし、僕を拘束はしたくは無いが、そのままの姿で人前に出るのだけはなんとか回避したい。

だから僕にお狐様の体に残された神通力とでも呼ぶべき力の使い方を学ばせ、その力を使うことで人前に出ても大丈夫な状態にしていき、最終的にその力でもって体をもとに戻す、…ということらしい。


つまり僕は突然手に入れた謎パワーでもって人としての生活を取り戻さなくてはならなくなったわけである。

頭抱えたくなった。


不幸中の幸いというか、まあ今は運よく夏休み。

しかもまだ始まって間もないころなので、学校は当分はまだ大丈夫。

学校が始まる前になんとかできればそれでよし、どうしようもなければそこは何とかしてくれるという。


つまり学校は気にしなくても大丈夫というわけだが、どのみちその修行のようなことはしないといけないわけで…

家に帰るわけにもいかず、こうして修行が完了するまで神社にご厄介になることになってしまった。


なお僕の体のお狐様は「人の体の生活とか楽しそうなのじゃ!」と言って普通に僕の代わりに僕の家へと帰るらしい。

向こうは人の体であるので特に何か制限がかけられることもなく、結果としては僕が一方的に神社に押し込められた感じにはなる。

そもそもこうなった原因あの人なんだけどなんであんなに能天気なんですかね!

まあ戻るためにはどのみちお狐様に教えを乞う必要があるんだけれども…


というわけで僕は今日からしばらくの間、神社に住まう狐娘として修行の日々を過ごすことになりそうです。


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