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二重のエコー  作者: 駒米たも
第二章 二人の犯罪
16/31

2.

2.


 声を揃えるのは大変だ。

 しかし心が一つであれば自然と揃うらしい。


「「「すみませんでしたァ!」」」

「いいですか。皆さん良い大人なんですから、しっかりと分別のある会話を心がけてください」

「「「すみませんでしたァ!!」」」


 真面目なレッド&ブルーライトが土煙に消えていくのを死んだ眼差しで見送った。

 アンディはこっそりと舌を出し、ショウは穏やかに微笑んでいる。……彼らは話を聞いていない時、大抵この顔だ。


「性犯罪者扱いはサンフランシスコ、リノに続いて三度目だな」

「三人揃うと毎回通報されるのは何でだろう」

「私たち安全性の化身みたいな存在なのにさぁ」


 またまた。いやいや。そちらこそ。

 感想と責任を押し付けあいながら通りを歩く。


 警官の小言を土産に店へ戻る気にはなれなかった。西部の老人とカメラ付き日本人観光客、そして美女の組み合わせは目立つ。場所を変えようと通りを歩けば、すぐさま好機の視線を集めた。


「フッ、我ながら町を魅力する黄金ボディ」

「フッ、俺の色気も負けてないぜ?」

「あ、向こうでツルハシ売ってる」


「会話しようよショウくーん!」

「遊んでくれよ、現代っ子ォ!」

「えぇい、放しなさい! 過剰スキンシップと露出地獄への入り口は可能な限りスルーすると決めたんだ僕ァ!!」


 肘に胸を押し当てると、上ずった声のショウが怯えたように身をすくめた。相変わらずティーンにしか見えない反応をする男だ。


「さて、若人たちよ。イチャイチャするのはこれくらいにして、予定より少し早いサプライズプレゼントと行こうじゃないか」

「え、サプライズってなに?」


 目を輝かせたショウの肩をアンディが組み、私にウィンクをとばした。意味は「退路は塞いだ」である。


「そう! 計画は俺、共犯はビアスでお届けする『ミステリー・ツアー』だ!!」

「帰る」


 近くの廃墟ゴーストタウン巡りを日程に組み込んだのは私とアンディで、ショウには内緒のサプライズだった。

 少し車を走らせれば簡単に見つかるゴーストタウン。開拓時代から現代に至るまでに捨てられた廃墟の中でも特に有名な「本物がいる」とインターネット上で噂になっている地区にこれから向かうのだ。


 曰く、そこは自殺の名所らしい

 曰く、それは原住民の呪いらしい

 曰く、遊び半分で向かった若者のグループが集団ヒステリーを起こしたらしい


 調べれば調べるほど出てくる、出てくる。呪いと悪霊と怨念の盛り合わせセット。カラリと乾いた空気に似つかわしくない気味の悪さに高揚する。さりげなく逃亡をはかる日本人を両側から抱えた。


「えー、何で逃げるの?」

「明らかに本物(ガチ)の気配がするからですが何か!?」


 血相を変えたショウに、アンディが驚く。

 てっきり嬉々として参加するかと思ったのに、ここまで嫌がるなんて。

 しかし三人で行くことは決定事項なので覆らない。

 叫んだショウは頭を押さえて唸っていた。二日酔いの傷は深いらしい。


「別に今回は多分邪神復活の儀式を邪魔しないし?」

「それにゾンビや殺人ウィルスも多分ないぞ?」

「どうして絶対と言わず多分なのか、説明を求める!!」


 鮮魚のように跳ねてはグッタリを繰り返す友人を見て心が和む。こういう時、趣味嗜好を理解した相手は話が早くて助かるのだ。


「そこまで警戒しなさんな。ようは俺たちでエクソシストやゴーストバスターの真似事をしようってだけだ」

「わぁい、凄いな~……とでも言うと思ったか!? オカルトか! 分かったオチがオカルト系なんだな!?」

「よし、出発だー」


 私たちがどんな風に見られていたか、今なら言える。

 間違いなく「変人」だ。








 青空と一面砂色の地平線。遠くにそびえる雄大な山脈。

 どこまでも続く直線のT字は広大なアメリカならではの光景だ。錆びついた白のジープ・チェロキーの車輪が土煙を巻き上げて走る。カントリーミュージックを轟かせながら兎のように跳ねた。


「スピード、落とせない?」

「無理だ。この車は80キロ以下になったら爆発するからな」

「なら仕方ない。……じゃあ、本物の幽霊が出るって町まであと、どれくらい?」


 ゾンビ化した青年が弱弱しく後部座席から顔をのぞかせる。少し見ない間にずいぶんと繊細な胃になったものだ。


「俺の愛車で吐くなよ?」

「お約束はできかねます」

「はいはい、二人ともその辺でね」


 バイオハザードが発生しそうになったらショウが好きな語り手の話でも振ってやればいい。いや、そうなればアンディが荒れるかな。彼は子供を狙った犯人に対して信じられないほど容赦しないから。

 そんな事を考えながら、私は持っていた地図をひっくり返す。


「もう少しで到着するはずなんだけどなぁ。アンディ、この道で本当にあってる?」

「一本道だぞ。見逃したわけでなければ、そろそろ見えるはずだが。いや、ちょっと待て……」


 運転手のアンディが妙に辺りを気にしはじめた。


「……子供の匂いがする。一人だな」


 私とショウは顔を合わせた。捉え方によっては変態にも聞こえるアンディのセリフだが別の一面もある。

 彼は子供の匂いを間違えない。彼がいる、と言ったからには近くに居るのだ。

 この砂地のど真ん中に子供がいる。じゅうぶん、トラブルの気配だ。


「ぶっ飛ばすぞ、つかまれ!!」

「アイサァ!」

「安全運転!!」


 車が道を外れて砂地へと飛び出した。

 一瞬で土が舞い上がり、いくらワイパーを動かしても前が見えない。まるで黄色い雲の中だ。


「いたぞ!」


 アンディの言うとおり、前方に女の子が一人立っていた。

 異常な光景だ。

 こんな荒野のど真ん中に女の子が一人でいる事も異常。

 時代外れの白い寝巻きを着ていることも異常。

 こんな晴れた日にぐっしょりと全身が濡れていることも異常。

 猛スピードで迫る車に怯えもせず、彼女は口を動かした。


『カエレ』


 横を通り過ぎる瞬間、私には彼女がそう言ったように聞こえた。車は進む。土煙を巻き上げながら。


「それで二人とも。俺が金髪幼女(ロリ)見ても減速しない時点で絶対に気づいているとは思うんだが一応言うぞ」

「「うん」」


 後ろでショウがシートベルトをはめ直す音が聞こえた。


「ブレーキもハンドルもきかん」

「ゴーストタウン。マジな話だったねー」


 だから言ったじゃないかーっというごもっともな悲鳴は聞きながす。


「吸引力の変わらない唯一の掃除機しか積んでないけど、大丈夫かなー」

「思ったよりヤバそうだぁ」


 車内にハハハと明るい笑い声が起こる。

 全員ヤケなのか、楽しんでいるのか。半々だ。


「それより、このままだとあの倉庫に突っ込むな」

「思ったより近かったね。ショウ、吐く前に着いて良かったじゃーん」

「これさぁ、吐く以前の問題だと思うなぁ、僕」


 そんないつも通りの会話をしながら車は本日最大級のジャンプと共に納屋へと突っ込んでいった。

 車内に流れる間延びしたカントリー・ロード。ガラスと木材の破壊音。納屋への突入。暴れ牛にまたがるロデオでは、よくある話だ。

 


 

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