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アルカ  作者: 試作439
第一章 ~アルカ・ソフ・オウル~
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第十三節 61話 事象想定 8

 そう。あの頃のあたしは、すっかり忘れていた。ナラカが人の魂だけから剥がれ落ちたストレスの結晶というわけではなくて、睡眠を必要とするあらゆる高次脳機能生命体が出すストレスと魂の結晶だという事を。

 以前にマリウスの魂を包んでいたナラカから記憶を得たが、人間の出す澱みは、枝に吸収されても意識を保てる。なぜならニグレドにおける最も優れた知的生命体だからだ。ストレスの種類にも思慮分別があり、あたしの精神が受け入れることも可能。だが、人間以外の生命体は駄目だ。獣や昆虫の魂や澱みは、とても正気を保てるものではない。

 以前にインフィニットリーダーで作った夢の中のあたしは、トカゲの魂を枝に取り込んでしまった。正確には人と蜂の澱みをトカゲの魂で固めた、煮凝にこごりのようなナラカ。想い人と付き合う女子に対する強烈なコンプレックスと、女王蜂を守りたいのに守れない焦燥感、それがトカゲの生存本能を中核に混ざっていた。人よりも蜂のほうが愛情深さを感じ取れた。一寸の虫にも五分の魂というが、人や獣よりも虫のほうが気高い魂を抱いていようとは。

 人の放つ澱みよりも、高次脳機能生命体の魂のほうが固いナラカに育つ場合もあるらしい。

「そこだ」

 あのナラカは、決して澱みの結晶ではない。地球上のあらゆる高次脳機能生命体の魂も混ざっているのだ。人は当然、昆虫や爬虫類、あらゆる生命が結晶化している。マリウスの時のように、己の魂から生み出された澱みだけで作られたナラカではない。命そのもので出来たナラカなのだ。

 砕いちゃダメだろう。

 あたしは正に寝ぼけていた。

 ナラカの破砕は、そこに混じりあっている生命体の魂を砕くこと。

 すなわち直接的な死を意味する。

 マリウスの時とは状況が全然違う。あれを砕かず、アルベドに溶かさず、魂へと戻して、ニグレドにいるそれぞれの肉体に還してあげる。この方法が全く思いつかない。

 ナラカから澱みと魂を分離して、澱みだけを浄化させて、魂をニグレドに戻す。

 不可能としか思えない挑戦に取り組み続けているうちに、いつの間にか二十年もの時が経過していた。

 全ての魂に語り掛けて、自分の肉体に戻るように導く。言葉にすると簡単だが、人間以外の生命体にも同じ趣意しゅいを伝えるとなると難解になる。帰巣本能を刺激する。郷愁きょうしゅうを感じさせる。魂に刺激を加えてからニグレドに放つことで、離れている肉体に戻せることまでは分かった。

 どうせ救うのなら、人間だけに限定したくはない。あたしは魂の輪廻についての研究をひたすら続けた。


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