第十三節 54話 事象想定 1
「枝を網状にして、ジグザグに飛び回る世界」
目の前に新たな夢が現れた。あたしの体が白い漁網のように細く広がり、ナラカの海に向かって突入していく。
そもそも、妖の枝は精霊体。手や目を作れるんだから、体を網状にする事だってちょろいって話。
夢のあたしがアルベドからナラカの黒い海に飛び込んだ。するとその瞬間、網がバチンと弾かれた。それだけではない。糸状の細い部分が数カ所ブチブチと切れて、魂にまでダメージが伝わっている。
これもダメかー。漁網っぽいからかな。軽くて脆い。
「枝を焼肉で使うような丈夫な網状にして、ジグザグに飛び回る世界」
新たな夢が現れるが、これもダメ。今度はダメージを受けなかったが、やっぱりナラカには傷一つつけることができなかった。うまくいかないなあ。
ここまでアルベドの光を利用してナラカを浄化する方法を試み続けたあたしは、殻が固すぎて細かく砕かなければ効果が無いと早々に気付いた。今はどうにかして殻の上部をアルベドの浄化作用が利くくらいの小ささまで砕く方法を調べている。
枝を剣、槍、鞭に棍棒と、思いつく限りの武器に変化させて攻撃してみる世界を手繰り寄せて覗いたのだが、全てダメ。オセロみたいに、四面を枝で囲ってみたら何か変化があるんじゃないかと思いつき、網を試してみたのだが、それもご覧の通り効果無し。
「消えてよし」
目の前に現れた焼肉網の世界が、アルベドに溶けていく。
そこでふと思った。もう随分と、焼肉どころか何も食べていない。
まあ当然だろうね。ニグレドの世界は完全に停止している。肉体が空腹を感じない限り、枝であるあたしも空腹になるわけがない。
なんだかんだで世界を手繰り、試行錯誤を繰り返しながら既に三日は経過している。こういう時、枝でいると便利だね。眠らなくて良し、食べなくて良し。じっくりと時間をかけて戦術を練ることができる。
ふむ。枝に火力が足りないのかな。
やっぱり世の中パワーだよ。あたしはこの世で今現在最も火力のある武器を思い浮かべた。
「枝をミサイルのようにして、ナラカに突っ込ませる世界」
夢の世界で枝が変形して、巨大な槍のような形になった。中に爆薬を装填できるわけもなく、夢の中のあたしは、ナラカの中に突入した時点で風船のように自爆させるつもりなのだろう。
見るからにダメダメだ。だがとりあえずは実証実験。
天高くからナラカの海に突っ込んで行く妖の枝。ナラカにぶつかるギリギリの所で意識を魂に移し替えて、枝はそのままナラカに刺さる。
次の瞬間、アルベドから見たナラカの表面浅くに潜り込んだ枝が爆発して、ナラカの殻が弾け飛び中心部がちょっと見えた。おお、少し効果があった。表面にちっちゃいクレーターが出来上がる。しかし、それとほぼ同時に夢の世界が暗転した。枝の破損にあたしの魂が耐えきれず、砕けて死んだのだろう。これもダメ。
ううん。うまくいかないね。
だが、時間は無限にある。別の手段を試そう。