第八節 32話 ガーゴイル
「まずは、これを見て下さい」
大江烏があたしの目の前に三つの包みを置いた。一つずつ丁寧に折りたたまれた布を開くと、中から指輪に加工された宝石が現れた。
「右から順に、レッドダイヤモンド、エメラルド、サンタマリアです。これらを見て、何か感じることはありますか?」
斐氏神社本殿の応接室にて、あたしは久しぶりに那美や烏さんと向かい合っていた。
玄孫の輪廻転生のお使いをしていたお婆ちゃんに遭って数日後、あたしは斐氏神社の山を散策してた時、ミコに発見されてしまった。ミコは那美に呼び出されたというあたしの嘘を信じて、那美の元に抗議に行った。本当はあたしを別館で療養させていたことを知る那美は事情を察し、あたしの嘘と口裏を合わせた。『もう広瀬さんを困らせることはしない』と約束しつつ、その場を丸く収めた。
ただ、いかに広い敷地を持つ斐氏神社といえども、再びミコに見つからないとも限らない。その頃にはミコに何も知らせること無く学生生活を過ごさせるという那美の意向をあたしも了承していた。
そのため、肉離れが完治してすぐ寮生活に戻り、必要に応じて斐氏神社に出向くという生活になっていた。
今日は八月最後の週。あと数日で夏休みも終わるという頃になり、那美から呼び出しがかかったのだった。
応接室周囲に人はいない。珠理すらも部屋から遠ざけられており、目の前には真剣な表情の那美と烏さん。
しかし、あたしには分かっていた。この部屋にはもう一人いて、先ほどからずっと泣き叫び続けていると。
「この、サンタマリアという宝石に、人が封じ込められてます」
あたしが素直に答えると、那美と烏さんが見つめ合って頷いた。
ガーゴイル。
クルーチスが保有しているという、魂魄捕縛の秘術だ。アルベドに還る死者の魂を宝石に宿らせることにより、人知の及ばない力を扱えるようになる宝石。
ストゥの所持していたメダンに続き、二つ目の発見だった。
「それらの宝石は、ストゥが活動していた東南アジアで探し出した物です。彼女の言っていた密売ルートにある闇オークションを辿った結果、最も疑わしき三つを集めることができました」
疑わしき三つ、か。あたしは他の二つの宝石も手に取り確かめたが、特に何も感じなかった。
「こっちの二つは普通の宝石ですね」値段がとても高そうで、キラキラと光り輝いている。「ちなみに、いくらしたんですか?」
「一億米ドルです」
「一億……」高い。斐氏教の資産規模からしたら微々たるものかもしれないが、よく決断できたものだ。
いや、米ドル?
アメリカドルってことは、、、「百億円ちょっと?」
「敵の存在を調べるための経費だ。そなたが気にすることではない」那美はどこふく風といった態度で答えた。
うそん。百億円。
気にすることは無いと言われても、指が震える。諭吉さん一人すら大金に思える庶民のあたしには耐えられない。傷を付けないようそっと布の上に戻した。
それにしても百億円って。単純に、宝石一個が三十から四十億円程度ってこと?
那美は急いで買い占めた様子なので、それなりに足元を見られたことだろう。
しかし、ストゥがマリウスを買収しようとした時、あたしをガーゴイルにすると五十億の値が付くと言っていた。案外妥当な相場なのかもしれない。
「その宝石はバタムと呼ばれており、とある王族の所有物でした。それを身に付けた者が出席した式典で、過去に数人が嘔吐により窒息死しています。後に所有者自身も吐しゃ物を詰まらせて亡くなり、呪われた宝石として宝物庫に放置された状態だったそうです。決まりですね。ガーゴイルは実在した。主に東南アジアの裏社会に流れ続けてて、ストゥは供給元でありボスだった」
「烏さん、その言い方は失礼だ。私がアルカの報告を信じてなかったかのように聞こえてしまうぞ」
「そうでした。すみませんアルカ様」烏は那美に叱責されて、頭を下げた。
メダンとバタム。アルベドに還る時に、宝石の中に迷い込んでしまった人達。
あたしも今頃は、このサンタマリアという宝石のように変わり果てた姿になっていたかもしれない。ストゥの禍々しい呪詛が響いてくる気がして耳を塞ぎたくなった。
「ガーゴイルとは本来、雨どいを意味します」
「雨どい?」
「はい。屋根を流れる雨水を下水まで導く設備です。日本語で『とゆ』『とよ』とも呼ばれます。斐氏教では前五識界と末那識界の境目を『トウ』と呼びますが、雨どいの別名が訛って伝わったとの説も過去にありました。枝を使いこなされているアルカさんは既にご承知の通り、トウの開く位置は、自身の肉体が立ち上がった地点付近。この高さは高層ビルの屋上だろうと地下鉄構内だろうと変わりません。トウと名付けた者は、もしかしたら、同じ高さに雨どいがあったから、なんて安易な思いつきだったのかもしれません」
「なるほど……。面白い仮定ですね」斐氏神社が何年前からあるのか知らないけど、最も知識を抱えている烏さんの言う事だ。信憑性は高い。
妖の枝を斐氏と言い換えたりもしてるわけだし、トユを洞穴のトウとかけあわせて言い換えたなんて逸話もありえなくないか。
「日本と諸外国、特に世界大宗教会や国際双十字社のある欧米とでは、雨どいの持つ意味がかなり大きく異なります」
「大きく異なるっていうと?」
「ガーゴイルは宗教的意味合いの強い設備です。世界中の聖堂や寺院などで雨どいは動物の頭や体を模っており、フランスのノートルダム大聖堂などでは悪魔の姿をしています。日本のように意匠の無い機能性だけの雨どいのほうが稀なんです。もっとも、日本には雨どいと同じ高さに祀る『神棚』という文化が代わりにありますが。そして、動物や人を模ったガーゴイルと神棚には古来より、人の魂が宿り、奇跡の力で建物や信者に益をもたらすという言い伝えが多々あります。欧米諸国にある宗教施設のそれらが魂魄捕縛が目的で設置されたものだとすれば、クルーチスの秘術とやらは、千年以上も前から活用されてきたことになりますね」
「千年……。千年以上前から、魂を活用……」
「冒涜行為だな」
那美がぽつりとつぶやき、あたしも頷いた。
日本でも、髪の伸びる日本人形のように、人型の物に魂が宿るなんて話はある。
丑の刻参りのわら人形とか、そのままガーゴイルと言い替えることもできるだろう。広まったのは江戸時代らしいから、その頃に魂魄捕縛秘術の一部が欧州から伝わり広まったのかもしれない。
「先日の和議による非戦の盟約は、あてにならないかもしれません。コミュニオンの世界大宗教会は二千年近い歴史があり、クルーチスの国際双十字社は二百年に満たない。世界大宗教会から国際双十字社が派生したと考えるのが妥当です。かたや宗教施設で魂をかすめ盗る集団、かたや病院施設で魂を盗む集団。同じ穴の狢としか思えません」
「烏さん、控えなさい。アルカが怯える」
血の気が引きっぱなしのあたしを気遣って、那美が烏に再び注意した。
「申し訳ありません。出すぎた真似でした」
「いえ、大丈夫です。続けて下さい」
気分の悪い話だが、あたしだって強く成長しているんだから。巻き込まれている以上は情報だって欲しい。
あたしがしっかりした声で先を促すと、今度は那美が話を継いだ。
「コミュニオンの動きは、全くと言っていいほど掴めなかった。正直存在すら疑ったが、マリウスがスパイとして潜入してたというならば、間違いなく実在するのだろう。水曜会もしかり。こちらは前の二つと違い、組織の規模すら分からない。名前が単純だけに、同じ名称の集まりが世界中に多すぎて判別がつき難いのだよ。だが重火器を大量に用意できるほどの勢力はあるのだ。油断できないだろう。最後にクルーチスだが、こやつらは明白な敵だ。和議の場ではストゥ一人の暴走だったとして矛を収めたが、我が神社から目と鼻の先とも言える場所に双十字病院を建設しようとした事実は消えない。ガーゴイルを得るための祭壇造りが目的で間違いなかろう。今の時点では正体の分からないコミュニオンと水曜会が、クルーチスとぶつかって削り合う展開を望むしか無い」
「劣勢ですね……」斐氏神社は組織として小さすぎる。抗えるとは到底思えない。
「それと、ストゥを重点的に調べたところ、色々と興味深いことが分かった。まず、極秘に鰐丘病院の設備を調べたところ、魂を捕縛するための簡易祭壇を作った形跡を見つけた。病院の照明設備を勝手に改装して、それっぽく作り直したらしい。天井裏に設置して取り忘れた宝石を数個見つけたよ。調べてくれ」
那美は布に包んだ数粒の宝石を、あたしの前に広げた。これらは見るまでもない。
「魂は入ってません。空です」
「だろうな。ハズレの宝石はともかく、ガーゴイルの回収をしくじるような真似はしないか。ありがとう」
那美は宝石を無造作に布で包み直して、テーブルの端に置いた。
あれだけで数百万はするんだろうなあ……。ストゥの置き忘れらしいが、斐氏神社が懐に収めても問題ないだろう。
結局、ストゥの死体は未だに見つかっていない。那美も四方八方に手を尽くしているらしいが、影も形も掴めていないとのこと。警察も既に現場にあった血痕と外国人看護師の失踪を結び付けて追っているが、何も分かってない。
「結局、ストゥとクルーチスの繋がりもはっきりできませんでしたね」
「いや。密売ルートを追いかけていた時に、偶然見つけたものがある。烏さん」
那美が視線を向けると烏さんは頷き、一枚の写真をあたしの前に取り出した。かなり古い数枚の白黒写真で、病院のようだ。
「右端の女をよく見るんだ」
那美に言われて目をこらすと、そこにストゥそっくりの女がいた。
白い制服でスカートが長い。看護婦らしい。
「親族を見つけたんですか?」
「違う。本人だ」
「はい?」
「オランダに統治されていた頃のインドネシアの病院だ。ストゥは今年、九十九歳になる」
あたしは口をあんぐりと開けたまま硬まった。
ストゥの見た目は二十代後半だ。辻褄が合わない。
「彼女は極めて長寿だった可能性が高い。彼女の身分証を調べて現地に協力者を送り、急ぎ調査させた。裕福な家庭に生まれて知性も高くオランダ語の高等教育をマスターした彼女は、成人する前から双十字病院で働き、一九四二年の日本侵攻後は二年で日本語も習得した。大戦終結後の四年に渡る独立戦争中にオランダに渡り、その後の消息は不明だった。ただ世界各地の紛争地帯を中心に、双十字社の国際看護士として働いていた形跡はある。鰐丘病院で受けいれたのも、実績がしっかりしていたためだった」
「……理解できないですよ。彼女は吸血鬼か何かだったとでも言うんですか?」
「いいや人間だ。吸血鬼なんてものがこの世に存在するわけがなかろう」
妖の枝なんて能力を受け継いできた人のセリフとは思えない。
まあ、本当に吸血鬼だなんて思ってないけどさ。
伝説では死んだら灰になるらしいから、姿が消えた事と辻褄が合う。けれども、それだったら看護士の制服くらいは残っただろう。服もまとめて都合よく灰になるなんてありえない。
「それにしても若すぎです。五十代なのに三十代に見られる芸能人とかいるけど、さすがに九十九歳なのに二十代に見えるってのはおかしいと思います」ここまでいくと美魔女ってレベルじゃない。魔女だ。
「長寿そのものは、実は驚くほどでもないのだよ。アルカは自分がトウを開いた時に降り注ぐ光を見たことは?」
降り注ぐ光……。何度かある。マリウスと戦った時は自分の頭に天使の輪のようなものまで見えていた。「はい、見覚えあります」
「妖の枝を使わなくても、死者の魂が末那識界に還る瞬間、前五識界との境界に穴が開くことがある。そこで天使の光と呼ばれる強烈な光が降り注ぐことが稀にある。その光は、前五識界の人間が目にしたり浴びたりしただけで、末那識回の英知が宿る、病を癒す、寿命を延ばすといった効果を与えることは、稀にあることなんだよ。そうですよね、烏さん」
「はい。妖の枝で開いたトウから漏れる末那識界の光は、よほど強烈でなければ意味がありません。しかし、前五識界で幸福な人生を送る、救世主的働きを遂げたといった、魂の力が満ちた人物が末那識界に還る時は、空から光が降り注ぎ、目にした者の病や心までも癒したと伝わっております。聖者が多く存在した創世記の時代は、九十歳で子を産んだ者もおり、九百歳を超える長寿の者もいたと記されております。ストゥが魂魄捕縛を繰り返していたのならば、幾度かは天使の光を身体に浴びる事もあったはず。何らかの変化、それこそ九十九歳で二十代に見えるほどの若返り効果が起きたとしても不思議はありません」
アルベドとニグレドの間に開いたトウから降る光。天使の光。
そういえば、マリウスも似たような事を言っていた。天からの光を見た者が、魂が捕縛できることに気付いたとか。
「もしかすると、クルーチスが行っているガーゴイル作りは単なる副産物で、本当の目的は不老不死の探求だったりして」
「ありえなくはないな。実在していた世界の王たちの中にも、生涯をかけて追い求めた者は多い。不老不死になる方法は、様々な神話や伝説に語られている、最古は古代メソポタミアのギルガメシュ叙事詩、秦の始皇帝に命じられて旅に出た徐福伝説。インド神話、日本の古事記と、枚挙にいとまがない。二千年に渡って研究を続けてきたコミュニオンなら、何か知っていてもおかしくはない。不死に近い体になれるというのなら、手段を選ばずに多くの人の死に際に立ち会いたいと考える者も現れる。それこそ、世界最大の宗教を作ったり、世界中に病院を展開してでも、天使の光を浴びようとするかもしれない。それくらいの価値はあるだろう」
ストゥは不老不死。
……。ううん。無いと思います。不老長寿ならあるかもと思えるけど。
マリウスと戦っている最中のストゥは必死な様子だった。不老不死というのなら、銃弾なんか怖がらないはず。あの時の怯えや狼狽は演技とは思えない。
もっとも、ストゥの演技をずっと見抜けずに騙されていた、あたしの低い洞察力による評価ではあてにならないけど。
ストゥについてあれこれと可能性を議論したが、きりが無かった。結局のところ、全て推測でしかない。
「アルカよ。我々は戦うぞ」那美が真剣な顔になり、あたしの目を見つめた。「コミュニオンは中立としても、クルーチスは明白な敵だ。マリウスも敵だが、水曜会とやらの意図を理解しなければ、対応策も浮かばない。敵を知りつつ勝利する。斐氏神社は鰐丘の街に根を張り長い時が経った。少なくとも、この地で蛮行を行った者には、相応の報いを受けさせるまで屈しない」那美は魂の封じられているサンタマリアを手のひらで包んだ。
宝石からは今も苦し気なうめき声が聞こえるが、那美と烏は聞こえてないようだ。
正直、戦うと言われても。
あたしは今も自分が一般人だと思ってる。
ただ平和でごはんがおいしかったらそれで良いと考える、ごく普通の女子高生。さほど欲張りな望みではないはずだ。
そうですか。頑張ってくださいねバイバイと、協調しないで部屋を出ることも可能だ。おそらく、那美はあたしが去っても怒らない。
だがなんとなく分かる。あたしが去ったら、斐氏神社は負ける。
那美は神社の宗師として頑張ってるとは思う。それでも、この世界規模の組織同士の争いに巻き込まれて無事でいられるわけがない。
ライオンと虎の死闘にウサギが飛び込むようなものだ。
ウサギが妖の枝という武器を装備していても、戦いの流れはさほど変わらないと思う。
それでも、やっぱり。
一矢報いたいね。
目の前のバタムからは、今も解放されたいと泣き叫ぶ声が聞こえる。
あたしには自信や勝算は全く無い。
しかし、今すぐにこの場でやらなければならないことはわかる。
「あの、とりあえず、その人を開放して末那識界に連れて行きましょうか?」
あたしが提案すると、那美と烏は顔を見合わせた。
「出来るのか?」
「ええ。多分超楽勝っすよ」
「超楽勝?」那美の眉間に皺が寄って、オーラがぐわっと拡大した。
おわわ、怒らせた。
そういえば、妖の枝のスキルアップについては、ずっと先延ばしにしてることになってたんだった。
那美達から見たら、今のあたしは枝の能力を認識して、なんとか転生しないようにコントロール可能になったって程度の赤子のような存在。自分の設定をすっかり忘れてた。
学校や寮でフル活用しております。
夜な夜な神社から抜け出して遊び半分に冒険してます。
なんて言えない。言ったらぶっとばされる。
適当にとぼけようかと、ほんのちょっと思った。
……だけど、やっぱり目の前で困ってる人は救わなきゃね。見過ごせない。
「やれますよ。この場でも」
「……。分かった。救ってあげなさい」
よし。救済ついでに、那美の信頼もちょっと得られる。
あたしは頷き、椅子にくつろぎ瞑想を始めた。一瞬でヨーヨーの形をした魂と枝が飛び出し、すぐにトウを開いて枝をアルベドに伸ばした。半覚醒だからニグレドの肉体も動かせる。あたしはバタムを両手で包み持ち上げた。アルベドから枝を突き入れ、バタムを抱えると、中から澱みの進んだ魂が現れた。崩さないように注意しながらアルベドまで迎え入れると、澱みはあっという間に霧散して、その下からやや大きめの魂がむくむくと膨らみ、姿を現した。アルベドマスターとまではいかないが、一般人のかなり大きいってレベルだろうか。その魂はゆっくりと浮き上がり、やがて乳白色の世界に溶けた。
正味ほんの数十秒。
あの人が何年、何十年苦しんできたのか知らないけど、あっさりと魂は解放された。
趣というか、感慨が足りないけど、まあこんなもんかな。
「終わりました」
「うむ。ご苦労」
那美が労いの言葉をくれた瞬間、手の中にあったバタムが割れた。
「うわ?」
どういうことだろう。魂が抜けた影響だろうか?
そういえば、メダンも最後は炭化してた。ガーゴイルから魂が抜けると壊れるものなのかも。
「ああ、すみません。壊れちゃいました……って、これたしか、数十億円……」
「金のことは気にするなと言っただろう。それと、そのバタムと呼ばれていたサンタマリアは九十億円、残り二つはそれぞれ五億円ほどだったよ」
九十億円。
きゅきゅきゅ……。九十億円!
九十億円の宝石を割っちゃった、だと?
あわわわわ。
逃げ出す
弁償する
→開き直る
うん。これもう開き直るしかないね。あたしのせいじゃない。あたし悪くない。潔白です。
「宗師様。アルカ様はどうやら妖の枝の力をかなり使いこなせているようです。もしかしたら……」
烏さんと那美がごにょごにょ話している。
あたしは割れたバタムを布に乗せてそっと閉じ……
「アルカ」
「ひっ、ごめんなさいせめて分割で……」
「……やれやれ。貴様は大胆なことをする割に根は小心者だな。繰り返すが金のことは全く気にする必要は無い。そんなことより頼みがある」
「え、頼み?」
「ああ。実はマリウスの状態が危うい。枝の力で何か出来ることが無いか、調べてくれないか?」