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アルカ  作者: 試作439
第一章 ~アルカ・ソフ・オウル~
30/70

第七節 30話 枝を使いこなす日常 4

 というわけで、深夜一人で駅前まで遊びに出かけた。

 要塞のような施設とはいえ、所詮は山の中。軍事基地みたいにフェンスで囲ったりしているわけでもない。

 夜中に寮から出入りするほうがよっぽど難しいんじゃないかな。

 境内の駐輪場にあった守衛のおっちゃんの自転車をちょっと拝借して、えっちらおっちらと西に疾走。

 一応、変なおじさまに目を付けられないように、帽子にマスクをつけて変装している。あたしの髪は今とても短いので、女子に見られて絡まれる可能性も低いはずだ。

 だが、いざペダルをこぎ始めると、自分の体力が案外落ちていることに気付いた。ママチャリでペダルも重い上に、熱帯夜すぎて暑い。おっかしーな、アニメだと自転車って気持ちいいはずなのに。

 十分ほど進んだ中間地点で、心が萎えた。

 丁度、鰐丘病院の手前あたりにさしかかったところで、そういえば病院の北側に公園みたいな所があったと思いだした。何度も通った最上階の病室から見たことがあり、一度行ってみたかったんだ。

 このあたりで良いでしょもう。

 予定変更して公園に向かうと、案外人が多くてびっくりした。大学生くらいの男女が花火をしてたり、背広姿のおじさま達が仕事について論戦してたり。深夜だけど周囲に住宅は無いので苦情が来ないのだろう。

 あたしは適当なベンチに座って、酔っ払いが眠っているフリをすることにした。街灯も明るいし外も暑いので、アルベドから降る光や冷気も目立たないだろう。帽子を目深に被って顔を隠す。怪しい人に絡まれても、ヨーヨーを発動させておけば安全なはず。拳銃ぶっぱなすマッド教師すらボコれるのだから、素手の一般人は楽勝ってもんよ。

 あたしは瞑想して、半覚醒の感覚を思い出しながら繰り返した。すると四度目でヨーヨーの覚醒に成功した。

 なんとなく体得した気がする。これ意思や願いの力が大きく左右するね。

 眠る時や瞑想直前に枝の位置を狙えば、次は一発で発動させられる自信がついた。

 もうアルファベッドのゆるキャラみたいになりたくない。

 常日頃から気を付けとこ。

 トウを開き枝を高みへ伸ばし、試行錯誤しながらできる事とできない事を探してみる。

 うん。あたしの視点を三つにすることができるね。

 完全に寝入っている時は、ニグレドにある肉体の目を開くことはできない。だが、半覚醒時の瞑想状態からのヨーヨー発動は、肉体の目を開きつつ、魂にも目を作ることができて、尚且つ妖の枝にも目を作ることができる。

 アルカは新技を身につけた!

 テッテレー!

 新技 トーテムポール

 能力 三百六十度死角が無い

 ……。とても微妙な技だ。何より見た目が馬鹿っぽい。

 それに、六つの目を使って三つの視点を全て同時活用するとなると、混乱して目が回り実用的ではない。特訓すればなんとかなりそうだけど……そんな必要ないか。

 一番意味の無さそうな魂の目を閉じると安定した。このままでいいや。

 マリウスが有名なスポーツ選手は大抵がアルベドマスターって言ってたけど、納得できたよ。時間を遅く認識できるなら百六十キロのボールも打てるし、後ろから飛んでくるボールをオーバーヘッドで蹴ることもできる。よく語られる盲目の剣士なんて、間違い無くアルベドマスターでしょ。後ろからの攻撃も魂の目で捉えれば容易く避けられる。宮本武蔵も『肉体の目で見るのではない。心の目で観るのだ』って言ってたし。

 本人たちに自覚は無いんだろうけどね。枝で魂の状態を見抜けるアルベドロードのあたししか理解できないか。

 さて、他に何か新発見は無いかな。

 あたしは枝を一番高い所まで伸ばした後に、意識を集中させた。ニグレドの時間がとても遅くなる。

 乳白色の世界がぐんぐん広がり、公園から出ると同時に夢を見ている人々の魂がたくさん浮かび上がる。

 清涼な白い霧の下に、綿毛を付けた無数のタンポポが揺れているような感じ。幻想的できれい。

 やがて枝の力を全開にすると、さっきと同じ、四百から五百メートルくらいの探知範囲にある全ての眠っている魂が認識できた。数千人ってとこだろうか。鰐丘の街全体を探れる、とまではいかないか。

 なんとか範囲を広くできないだろうかと思考錯誤を続ける。

 やがて意識をまっすぐ前に向けると、幅は狭くなるが距離を伸ばせることに気付いた。今まで使っていた普通の探知は円で、この方法は線。遠くまで届くが、代わりに横や後ろが探知できなくなる。試しに西側の駅前や港方面を線探知ブランチレーダーしてみたら、魂の全く存在しない領域まで突き抜けた。おそらく海だ。

 その後も北や南、学校方面にも線探知してみると、範囲は狭いが使える技であることに気付いた。認識できた距離がおよそ十倍。四キロから五キロ先までのアルベドで眠っている魂を捉えることができた。

 千里眼とまではいかないが、一里先程度までならアルベドを見通せる。髪を絡めたらもちっと先まで探知できるね。寮にいた時は四十メートル程度だったから、ざっと百倍まで伸びた。

 アルカは新技を身に付けた!

 テッテレー!

 新技 ブランチレーダー

 能力 数キロ先までアルベドを見通す

 これ、ニグレドだったらすごいんだけどね。アルベド限定だから、眠っている人しか探れない。けど、トーテムポールよりは使い道ありそうな気がする。

 方法は分かんないけど、そろそろあたしも油田掘り当てられちゃうんちゃう?

 浮かれた気分でブランチレーダーをくるくる回していると、枝が緊急警報を発した。冷や水を浴びせられて、気を引き締める。

 漫画に例えるとドゴゴゴゴ! って感じがした。さっきの那美がズゴゴゴゴ! だから、那美より強大な魂だ。

 あたしは一瞬危機を感じた方角にブランチレーダーをそろそろと伸ばす。すると、見つけた。

 那美よりも魂が大きい。

 もはや魂というより小型の鯨のような姿だ。

 その人の夢に引き込まれないように距離をとって警戒しつつ、そろそろと探知範囲を広げていくと、遠目に夢が見えてきた。一般人より夢も巨大で、スクリーンのように上映されている。そこには、モニターを怒鳴りつけながらものすごい速さでパソコンのキーボードを叩く、太り気味の中年男性が映っていた。

 テレビで見たことある人だ。たしか、東京でゲーム会社を立ち上げて、あっという間に巨大企業になり、海外のメーカーに売りさばいて早々に経営を引退した億万長者。地元の鰐丘に戻って悠々自適の生活をしているとか噂で聞いたことがある。夢の中でもまだ何か新しい取り組みを行っているようだ。

 あの人もアルベドマスター。夢を叶える素質を持った人。今のあたしと比べ物にならないくらいのエネルギーを感じる。対面したら那美以上のオーラを感じるはずだ。

 魂の力を極限まで使いこなしているから、今夢で見ている謎のプログラムが実現する日も遠くはないと思われる。

 世の中にはすごい人もいるものだね。

 とはいえ、鰐丘全域を探知してみたわけだけど、他にそこまでの人は見つからない。やっぱり那美やマリウスのレベルでも特殊なんだなと分かった。

 あんなおっかない人たちがそうそういても怖いか。

 調子に乗って他にいるかもしれないアルベドマスターの夢に引きずりこまれるのもまずい。あたしは探知範囲を円に戻し、周囲に限定させた。

 さっきまで花火をしていた大学生達の一人がベンチでいびきをかいており、その横では仲間のカップルがいちゃついている。いびきをかいている男は魂が出ていないので狸寝入りだね。観察されてるよ、ご両人。

 周囲の夢を片っ端から覗いていると、やがて見覚えのある人を見つけた。鰐丘病院の織田さんだ。そういえばここから近かったっけ。

 満面の笑顔で子供を抱いている夢を見ていた。

 以前、子供が四人いて、一番上が嫁に行ったとか言ってた。お孫さんが生まれるのを楽しみにしてるのか、はたまた自分の子供を産んだ時の夢か。

 いずれにしろ、夢の中で楽しそうな夢を見ているのだから幸せ者だ。ここまで色々な夢を見たが、寝ていても働き続ける人が多すぎる。

 あたしは織田さんの側から離れて、他にも何か見えないかなと高い場所に昇った。

 すると、人を見つけた。

 人。

 人?

 人がいる! 人が浮いてる! 

 アルベドにいる人を初めて見た。

 白くてぼんやりしているが、明らかにお婆ちゃんがいた。

 お婆ちゃんだが、冷静に考えると、アルベドに人がいるわけない。軽く透けてるし。

 人は人でも、普通じゃない人だね。間違いなく。

 悪い人には見えない。気配はかなり穏やかだ。

 というか尊い。なんか神々しい感じだ。うっすら金色に光ってるし、餅でも供えたくなる顔してる。

 あたしがお婆ちゃんをじっと見てると、向こうもあたしに気付いた。こっちに手を振っている。

 これまさか、あっちに行くと三途の川を渡るとかってパターンじゃないよね。

 あたしはいささか無礼なことを考えながら、お婆ちゃんに近づいた。


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