六話 魔界の住民
魔剣を手にし城に来て4日目、リアムは突然切り出してくる。
「サンク、今から魔界の街に降りて様子見に行くから一応建前で着いて来い。
ついでに買い出しもだ。ルーカス、お前は留守番をしていろ。」
一人だけ留守番は流石にまずいだろ。と思ったが、名前で呼ばれたのが余程嬉しかったらしい
「貴方様の為なら喜んで。」
そう言うとご機嫌で仕事に向かっていった。
単純だな…
「じゃあ、魔界に行くぞ。準備は良いか?」
「突然すぎだろ。まず、具体的に何しに行くんだ?」
「さっき言っただろ。民の様子見だ。孤児院とか豪族のところとかに行って来なければならない。
半年に一回くらいだがな。」
「へぇ。」
俺がそう応えるとリアムは指を鳴らし、言う。
「transference」
すると、瞬く間に市場のような場所に来てしまった。
辺りを見回してみると、並んでいる品物等は人間界と何ら変わりないが、そこで買い物をしているのは人ではない。
獣の耳がついていたり、牙が生えていたりと様々な外見の魔物である。
魔物達はリアムに気づくと、ヒソヒソ話を始めた。
耳を澄まして聞いてみる。
「あれって角なしだよね。」
「そうそう。あんなのが魔界を守れるとは思えないんだけど。」
本人は小声で話しているつもりらしいが、丸聞こえである。
それはさて置き、角なしと言っていた…か。確かに片方角が折れていた。
だが、あれと魔界何が関係あると言うのであろうか。
考え込んでいると、リアムが声を掛けてくる。
「おい、行くぞ。最初は孤児院だ。」
「おう。」
そう言い、歩きだす。
数十秒間無言だったが、
「なぁ、転移魔法って使えないの?」
と、気になっていたので聞いてみる。
「魔力にも限りがあるからな。近いのに勿体無いだろ。」
まさか魔王から勿体無いという言葉を聞く日が来るとは思っていなかった。
意外と現実的な答えだ。
そうこうしている内に孤児院に着く。
外見は、割りと大きな平屋で、庭には孤児達が遊んでいるのであろうアスレチックやブランコ等も設置してあり、設備は充実しているのが伺えた。
中に入ってみると、さっきの魔物達とは一変して歓迎される。
その変わりように驚いていると、ここの管理人であろう白髪の目立つ男性が挨拶にやって来た。
「魔王様、お久しぶりでございます。あの早速…データを見て頂きたい____」
なるほど。仕事の話か…
(仕事の話は分からないから外で待ってよう)
そう思い、外に出ようとするといきなり声を掛けられる。
「ねぇ!お兄さんは、魔王様の騎士?」
後ろを振り向くと熊耳の生えた小さな女の子が俺を見上げている。
「そうだが、どうした?」
「いや、私は自由に外に出ることが出来ないから何かお話聞かせてほしいの!」
『自由に外に出れない』そんな言葉が昔の自分と重なる。
行動を制限されてしまって何も自分の意志で行動できない。
してしまったら何かが壊れてしまうのが分かっているから。
俺の場合、その自由の代償は大切な人の命だった。
断れないだろ。こんなの…
「良いよ。どんな話が聞きたいんだ?」
「冒険のお話!」
「そうだな…じゃあ、俺の故郷になった村の話をしようか。」
そう言うと、女の子は目をキラキラさせて頷いた。
記憶を辿りながら一言一言、言葉を紡いでいく。
最初は女の子だけだったのだが、人数がどんどん増えていく。
それでも皆、口をツッコまず頷きながら聞いてくれていた。
「____それで今に至るんだ。これでお終い。」
話が終わる頃には殆ど全員涙目になっている。
中には泣き出している子も居た。
「冒険って良いことばかりじゃ無いんだね。楽しかったよ、ありがとう騎士様!!」
女の子はそう言うと、涙を服の袖で拭い笑って言った。
丁度そんな会話をしている時にリアムは話し合いが終わったらしく、こっちにやってきた。
「行くぞ。サンク」
「あぁ。じゃあな。皆」
俺は手を振りながら孤児院の出口へ向かう。
子供達も手を振り返してくれた。だが、そのことよりもその時の笑顔を一生大切にしようと思った。
孤児院から出た後、前へ行くリアムの背中に話しかける。
「次は豪族の所だっけ?」
「そうだ。これもすぐ近くだから転移はしないぞ。」
「はいはい。」
1~2分位で豪族の家と思わしき場所に到着する。
外見もさっきとは打って変わって豪華だ。
門の前には門番が居る為、警備は厳しいのが分かる。
門番は俺達を確認するなり、家主を呼びに行った。
屋根には金で出来た鳥が飾ってあり、庭には噴水もある。
玄関のドアにも綺麗な装飾が成されていた。
そんなところを見ている内に、豪族と呼ばれる男性はやってきた。
手には宝石の指輪を大量に付けていて、首元にはネックレスもしている。
服にもダイヤモンドが散りばめられており、非常に目がチカチカする。
「これはこれは魔王様~。よくぞいらっしゃいました。
それでは、交渉を始めましょう。こちらへ。」
何か嫌な予感がする。___着いて行くか。
俺も一緒に部屋に入れて貰い、豪勢な部屋でリアムの横に立って黙って話を聞いておく。
「魔王様、もう少し援助して頂けませんでしょうか。
もう少しでいいんですがねぇ。あと少し人を増やせばいつもの2倍は稼げるので。」
こいつの話は聞くに堪えない。
自分の私利私欲の為に金を出せと言っているのだ。
お前に出す金など一円も無いだろうに。
黙って聞いていたリアムは言う。
「それは無理だな。お前に金など出したところで何の利益にもならないだろう。
いつも通りの金額で良いか聞きに来ただけだ。そんな話は聞くに堪えない。帰らせて貰おう。」
「残念。交渉決裂ですねぇ。おいお前ら、やれ。」
その言葉と共に数人の剣士が襲い掛かってくる。
リアムは動かない…ということは俺がやるのか。
俺は溜息をつくと魔剣を腰から取り、自分の出来る限りの速さで移動しながら傭兵を斬りつける。
傭兵達は次々と倒れ込んでいく。
「我が主に手を出すとは許し難いですね。どうしましょうか?リアム様。」
「どうしようか?」
それを見た豪族は叫び始めた。
「そいつらは聖剣の一族だぞ!!お前、何で…何で魔剣を扱えてるんだ?
いや、待て。その姿は…魔剣の一族…なのか?そうか、なるほどな…」
一人で騒いで一人で納得したらしく、黙り込んだ。
だが、何か思いついたようで俺に話しかけてくる。
「なぁ、騎士さんよ。魔王のところなんか辞めて俺のところに来ないか?
その方が楽できるぞ?稼げるし。な?」
仲間に引き込む作戦か。
どっちにしろ行く可能性など皆無に近いと分かっているはずなのに、ここまで足掻くとは愚かだ。
「俺はリアム様に尽くすために産まれて来たようなものです。
ですのでリアム様以外にはお仕え出来ませんので。特に貴方のような方にはね。」
そう言うと、豪族は逃げ出したが、それを追おうとはしなかった。
事なきを得て、買い物しに市場へ行く。その途中でリアムは俺に言ってくる。
「何がリアム様だ。気持ちが悪い。」
「完璧騎士って感じだっただろ?」
「ふん。でもまぁ、良くやったほうじゃないか。」
そう言って初めてまともな笑顔を見せてくれた。
あぁ……俺はこの笑顔のために頑張ったんだな。
孤児院で出会った女の子の笑顔、魔王の笑顔。どちらも金では買えない。
だからこそこの時を胸に刻んでおかなくてはならないのだ。もう二度とこの時間は戻ってこないのだから。今、目の前に広がる光景も過ぎてしまえばそれは、思い出と化してしまう。
市場で買い物をして、魔法で城に帰る。
忙しない一日ではあったが、お互いのことをよく知る事ができた。
有意義な日だったな。何て考えながら次の日を待ち侘びた。




