五話 サンクの記憶
朝、鳥の囀りで起きて鎧を磨く。
魔王の城に来て3日目だが、この生活ももう慣れてきた。
朝、昼、ご飯を皆で食べ、それぞれの仕事へ向かう。
夜になったらまったりしながら楽しく食事をする。
そんな中、俺は一つ溜息を付いた。
「はぁ。やっと仕事が終わった…」
一日がとても長く感じてしまう。
どんなに疲れていても毎回夜になると風に当たりたくなる為、外に出る。
これも少し経てば日課と化していくのだろう。それが時間という物なのだからしょうが無いが。
外に出て辺りを見回すと、そこにはリアムが居た。どうやら毎日来ているようだ。
リアムは、俺に気付いたようで横目でこちらを見てきたが再び空へ視線を移した。
俺も隣に座る。
二人で数分間無言のまま星を見ていた。
だが、暫く経つとリアムは俺に問うてくる。
「なぁ、お前の両親の事聞いてもいいか?」
「両親?別に良いが。」
両親、もう一生会うことのできない世界で一番大切な家族。
最近は、思い出す機会が多くなった。そのことについて誰にも話したことはなかったが___
「お前、前に星を見てた時、本当の両親のこと思い出すって言ってただろう。
だから、その両親はどんな人で、どうしたのか気になっただけだ。」
どうやら無意識の内に話してたらしい。
だが……信頼出来る人には話そうと思っていた。今が良い頃合いなのかもしれない。
「…そうだな。いつか誰かに話そうと思っていた。少し長くなるが聞いてくれ。」
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俺は、ある大きな国の都会で裕福な家庭に生まれた。
父は国王の側近。母は国で一番の強い剣士だった。
そして、物心付いた時から鎧を身につけていた。
いつだっただろう。父に一度だけ聞いたことがある。
「父さん、何故俺は鎧を外してはいけないの?」
大人には大人の事情があったのだろう。両親は一瞬強張った顔をしたが、すぐに答えてくれた。
「それはね、お前が格好良すぎるからだよー。」
「それだけ?」
「それだけだ。でも、絶対に外してはいけないよ。」
鎧のせいで他人からは、「変わり者」と蔑まれた。
それでも、両親が俺にとって一番だったから、父の言う通りにして脱ぐことはなかった。
ある日、国で政治について意見が割れ、内乱が起きた。
大きい国だった為、それが裏目に出て内乱も大きなものなった。
父は、それを命懸けで止めに行ったが誰も話を聞こうとはせず、呆気なく殺されてしまった。
母はそれを嘆き悲しんだが、俺の前では出来るだけいつも笑顔で居てくれた。
俺は、死ぬというものがどういうことかまだ分かる歳ではなかった。
だから母を質問攻めにしていたのだろう。それでも、母は優しく答えてくれる。
内乱が起きてる最中は、関係の無い人々も逃げ回るしか無い。
俺の家もいつの間にか戦火に飲まれ灰になってしまっていた。
しかし、それでも王家VS反乱軍の戦いは続き、遂には王家側が負けてしまうという最悪な結末に終わった。
そして、勝利した反乱軍はある司令書を出す。
『王家に少しでも関係のあるものは全員根絶やしにしろ。』と言うものだ。
父が王の側近だった俺達は真っ先に狙われる事となった。
帰る家も、頼る場所もない。
国境の境目の場所では、反乱軍側の兵士が厳しく監視をしている。
外に逃げ出すこともできなかった。
それでも、母は希望を捨ててはいなかった。
「森の中で騒ぎが収まるまでは身を潜めましょう。大丈夫よ、すぐだから。」
そう言うと、俺を連れて森へと入っていった。
木材を掻き集め、ログハウスを作る。
決して綺麗なものでは無かったが住めないほどでも無かった。
朝起きてすぐ母は狩りに言ってしまう。
そして、夕方になって帰ってくる。その間の時間は寂しく、暇なものである。
だから…あの日…少しでも母の手伝いがしたくて、それで____
木の実を取りに森の奥の方まで行った。
薄暗くて肌寒かったが、それでも資源は沢山あった為夢中になって集め続けた。
きっとそれがいけなかったのだ。
帰る頃にはすっかり日が暮れている。家への道を戻っていく。
途中であるものを見てしまった。
___反乱軍の兵士だ。数にして20人ほどは居たはずである。
森の中までもがもう危うくなっている。
母が俺を探しに来ていたら危ない。
そう思い、足を早めるが時既に遅し。
すぐそこで母は、大声で俺を探していた。勿論反乱軍に見つかる。
母は剣を持ち歩いていた。
襲ってくる大量の兵士と剣を交えている。
しかし、流石にこの人数では勝てないのだろう。
最初の内は威勢よく戦っていたが、あとの方になるに連れ段々弱っていく。
直ぐに助けに飛び出そうとした。だが、俺が行っても勝てるわけが無いのは目に見えている。
「すまない。母さん…」
そう言って俺は走って逃げた。目に冷たい風が当たって涙がこぼれる。
まるで弱い自分を攻め立てているかのようだ。ごめん、ごめんなさい。ごめんなさい…
一時間後にまたその場所に戻ってくる。
そこには弱り果てた母が居た。
青白い唇でそっと微笑む。その表情は俺の全てを見透かしたようだった。
俺は何回も何回も謝った。そして泣いた。
「木の実を取りに行って、少しでも母さんの役に立ちたくて…それで…それで…ごめん___」
「良いの…よ。生きててくれて良かった。
あのね、私はもうこのままじゃ体が持たない。だから、鎧について話しておくわ。」
「その鎧はね、呪いのようなものなの。
貴方は……魔剣の一族の子孫。だから、私は本当の親じゃない。
その一族には代々子孫の誰かが自分の姿を見せてはいけない掟を受け継いでいる。」
ショックのあまり言葉が出なかった。
鎧が呪いだと知ったから?___違う。両親は両親じゃ無いと知ったからだ。
「自分の姿を見せたら、見た人とは関われなくなる。良いわね?
それと…貴方のお母さんは私だけ___」
言い終わらない内に母は目を閉じた。
声を上げて泣くしかなかった。泣いて泣いて泣いて泣き喚いた。
罪悪感に押しつぶされそうに成りながらも必死で身を隠した。
そして、少し警備が手薄になる時期を見計らって国境を超える。
__ここから俺の冒険が始まった。
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「という訳だ。随分前の話だが____な。」
「おい、魔剣の一族と言ったか?」
驚いた様に聞いてくる。
魔剣の一族というのはそれほど問題なのだろうか。
「そうだな。だが詳しくは、俺もあんまり知らないんだ。」
「そうか…じゃあ、教えてやる。魔剣の一族というのはな____」
「唯一神に抗える力を与えられた伝説の剣士の一族の事だ。」
息を呑む。____唯一…か。
でも____
「伝説?俺、そんなに強く無いだろ…」
「いや、お前の持っている騎士の剣があるだろう?
元々、その剣には魔力が込められていたんだ。魔剣の一族に合うように。だから、その剣に魔力を戻せ
ばいつも以上に本領が発揮できる。剣を貸してみろ。」
これが____?
騎士の剣を腰から外し、取り出す。光り輝いた剣身には反射した自分が映った。
怖ず怖ずとリアムに渡すと、また何か唱え始める。
「A magical power includes it」
そう言うと、剣が紫色に光り始めた。
それを俺に投げてくる。
「うぉっ。危ないだろ…」
「僕が強化してやったんだぞ?」
「お、おう。ありがとう。」
重さなどは変わっておらず、外見だけじゃ…と思ったが試しに剣を軽く振ってみる。
すると、遠くの方の植木が真っ二つになった。
「これはヤバイな。」
俺はそう確信した。




