第九十八話:第八と古強者
第九十八話です。
よろしくお願いします。
色々と繋がって参りまーす。
ヴァンデミオン城を上に向かって進む。
バーンは自身にとって初めてでは無いその空間に妙な感慨を受けながら、一歩、また一歩と進んでいた。
懐かしさと共に、この場所を取り戻したいという気持ちがふつふつと彼の心に湧き上がる。
そしてもう一つ、彼にとっては何よりも知りたい事がこの先にきっと待っている。
自身の父と母が今も尚生きているのかどうか。
「バーンさん……」
「ああ……アリス悪いな。お父さんの事……アリスも気になっているだろ?」
「いいんです。それよりも先に……やらなきゃならない事がありますから」
「だな……」
「バーン来るぜ」
城の中層、恐らく礼拝堂だろう。
かなり広い空間に出たバーン達の前に第四魔王グリードが現れる。
いつか見た笑みは消え、バーンを強敵と認めたかのように既に彼は力を解放していた。
「久しぶりだなバーン。また会えて嬉しいよ」
「俺はそうでもないかな。悪いがお前に構っている暇はないんだ」
グリードはククッと嗤うと、全身に魔力を込める。
礼拝堂はギシギシと軋み、大気が震えていた。
「舐められたもんだ……仲間に任せ、先にってか?」
「ああ、テメーの相手はあたしがしてやるよ」
マリアは魔力を滾らせ、バーンの前に出る。
「私もだ。グリード、アーヴァインではやってくれたな。我が祖国を汚した罪……償って貰おう」
エリザも剣を掲げ、グリードに相対した。
「任したぜ。マリア、エリザ」
二人は背中越しに頷く。
シェリルの時もだが多くは語らない。
何故なら……必ず勝ってまた会えるのだから。
「行かせると思うのか? バーン!」
グリードが闇魔法を放つが、バーンはそれになんの反応もせずに歩いて行く。
次の瞬間グリードが放った闇魔法は一瞬で消えた。
「なっーー!?」
「言ったよな? テメーの相手はあたしらだ!」
既に懐に入り込んだマリアの拳が、唸りを上げてグリードの顔面に炸裂した。
「魔鋼拳!」
「ぬぐっ!?」
凄まじい一撃にグリードは吹き飛ばされ、床に立てつけられた長椅子を粉砕しながら巨大な柱に叩きつけられた。
「行け!」
「バーン様ご武運を!」
「ああ、任せろ」
グリードが起き上がった時には既にバーンとアリスの姿は無かった。
歯ぎしりをしながら床を拳で叩きつけ、怒りをあらわにするも、そんな事をしている暇はなかった。
「舐め過ぎだ。お前が」
「なっ!?」
キンッ!
僅かに回避が遅れ、グリードの右足が消し飛んだ。
「ぬがぁぁぁっ!?」
「ちゃんとやりなよ? ま、やったところで……」
「私達には勝てん!」
「ほざけメスどもがぁぁぁぁ!」
第四魔王と魔拳、消失の闘いが始まった。
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残る魔王はあと一人。
そして、その先に魔帝ゼノがいる。
バーンは第八魔王ザディスには思う所があった。
当然父ディーバと闘った魔王なのだから無理もない。
外からは激しい戦闘の音が響いていた。
各地で魔物と各国が、魔王と勇者が闘っている。
彼らのおかげでバーンとアリスはここまで損耗なしに来る事が出来たが、ザディスはバーンが闘うしかない。
「バーンさん……」
「ああ、この先にいるな」
ヴァンデミオン城上部にある巨大なバルコニー。
そこにザディスが立っていた。
鎧姿に紫色の髪を後ろに流した魔王はバーンをじっと見つめている。
バーンも歩み寄り、ザディスと相対した。
「バーン……来たか」
「あんたがザディスか」
「そう、貴様の父と闘い、そして敗れた。第八魔王ザディスだ。会えて嬉しいよ」
「嬉しい?」
「私は人間を嫌悪している。理由はその身勝手さだ。だが、貴様の父はそれでも人間の為に命を賭けた。ディーバは私が唯一認めた人間。その息子である貴様も数々の困難を乗り越えここまで来た。だから素直に嬉しいのだよ」
バーンは正直戸惑ってしまう。
魔王とはこんな思考を持つ者なのかと。
しかしそう思うと、今まで見て来た魔王達もどこか人間くさい存在であった。
欲望や愉悦、憎悪に身を焦がしながらも、その根本は人間と変わらない様な、そんな気がしていたのだ。
「私は貴様とは闘わない。城の最上部、謁見の間に魔帝様がおられる。行くがよい」
「いいのか?」
「フハハ……貴様も分かっておろう。最早貴様はこの世で絶対者に成りつつある。それは魔帝様も同じだがな。私では貴様に傷を付ける事が精々だろう。無論ただでここにいる訳では無い。やがて魔王を倒した貴様の仲間達が上がって来た時、私がそれを止めるのだ」
「成る程な……じゃあ遠慮無く行かせて貰おうか」
「ふ……仲間達が私にやられる心配はないと?」
「ないな。俺の仲間はヤワじゃねーぞ?」
「そうか……話は終わった。さらばだ勇者よ」
「さらばだ魔王。こんな台詞を言うとは思わなかったが……ありがとう」
ザディスは背中を向けて笑った。
バーンとアリスは最上部に向かう。
この物語に決着をつける為に。
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城下町では激しい戦闘が続いていた。
その中にあの男の姿があった。
「邪魔だ退けい!!」
彼の振るった巨大な斧が、ガーゴイルを数匹纏めて引き裂いて行く。
頑強なゴーレムがアトリオンの兵士を薙ぎ払いながらその男目掛けて突っ込んでくるも、真一文字に真っ二つにされ瓦礫に紛れていった。
全てが一撃。
大地を抉る巨大な斧を振り回し男は城へと向かっていた。
そこに、何者かに吹き飛ばされたのか、一人の勇者が飛んで来た。
「いってぇ! ふいー……あの溶岩魔法はやべーなぁ……あれ? あんたひょっとして……」
「頑丈な小僧だなぁ。溶岩魔法ってーとべルザーか。案内しな」
「ま、まさか……爆砕の……」
「バーン……露払いは任せておけ。お前の憂いは無くしてやるよ。この〝爆砕のジーク〟がな!」
老兵は死なず、戦場で再び輝きを増していた。
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ラインバルド率いるアーヴァイン騎士団は劣勢だった。
Sランクの魔物に囲まれなかなか進軍が出来ていない。
ウッドガルドの女王ヨミ率いる魔導師達と共同戦線を張る事でなんとか堪えていたが、限界は近かった。
既に生存者も見つけ、後方に連れて行く作業も兵を減らす結果に繋がっている。
しかし、ここで自分達が崩れれば再び避難させた生存者達を危険に晒してしまう。
「参りましたね女王陛下……」
「情けない声だすな騎士団長! 勝ちゃいいんだよ!」
「はぁ……この世界の女性は強いですね……」
「おらぁ! 風華魔法! 〝咲き乱れる花吹雪〟!」
花びらを模した風の刃が魔物を駆逐して行くが、焼け石に水であった。
この地区は捕らえられていた人間達の収容所であり、配置されている魔物の強さも数も並ではない。
「まずい……サイクロプス……しかも二体!」
「あーもー! 魔力が足りんわ!」
「間に合った……」
「誰ぞ……ってお前!?」
拳を振り上げるサイクロプス二体の前に、女性が立っている。
彼女が静かに呪文を唱えると、サイクロプスは見えない壁に激突し、逆に吹き飛ばされた。
すぐさま起き上がったサイクロプス達の瞳に、今度は巨大な矢が突き刺さる。
「ギャァァァァァア!」
二体がのたうち回る中、剣を構えた戦士がそれに駆け寄り二体の首を撥ねていった。
「よし、ここは押し通す。行きましょうギリー様、リリー様!」
「うん……」
「ジャバー! 油断しないでねー!」
「ギリー! リリー! 私だ! ヨミだ!」
「あら? 女王陛下? 最前線とは……らしいですねぇ」
「久しぶり……後で話そう」
「ウッドガルドの女王陛下でしたか。私の名はジャバ。10年前にここに進入し、生存者と機会をうかがっていたのです。おかげで助かりましたよ」
「ジャバ!? お前がアリスの父か?」
「よかった……やはり我が娘は指輪の導きでウッドガルドに行ったのですね。指輪を盗んでしまい申し訳ない。私の仕業なのです。我が友の空間魔法で一時的に脱出し、事に及んだのです。我が子に道を示すため仕方なく……咎は受けます。この闘いを乗り越えた後に!」
「そうであったか……よい! 不問だ! アリスは今勇者と共に魔帝を目指しておる! ここを乗り越えたらお前達も奴らの力になってやってくれ!」
「なんと……承知しました!」
「ディーバとルインの息子……待ってろよー!」
「行くよ二人とも……」
全ての事態が収束していく。
全ては魔帝を倒す為。
世界が終結を求め、それに応えんと勇者達の闘いは激化していった。




