第九十五話:生贄と再臨
第九十五話です。
よろしくお願いします。
明日から一週間入院となりやす。
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「お前は……!」
「我が名はドラグニス。始まりの魔王なり」
初代魔王ドラグニス。
古の時代に現れた最初の魔王である。
2メートル程の身体から溢れ出す威圧感は今までバーンが相対したグリード、ベルザー、アドヴェンドより上であった。
カーティスがバーンより先に口を開いた。
「お前がドラグニスか……お前を倒せばこの世界も平和になるんだな?」
「貴公は勇者候補の一人か……なかなか腕は立つ様だが理解はしていない様だな。バーンよ、教えてやるがよい」
ドラグニスはバーンの表情を見て、自分が最大の敵ではないと気付いている事を察していた。
心を見透かされた上、ドラグニスに命じられた格好になったバーンは仕方なくカーティスに告げる。
「この世界には今、こいつら以上の存在がいる。その名は〝魔帝〟。そいつがこの事態の黒幕さ」
「〝魔帝〟……? 聞いた事もねぇな」
「そういう事だカーティスとやら。まぁ正確にはまだ存在はされておられないがな」
ドラグニスの口振りから察しても、やはり〝魔帝〟は実在し、ドラグニスなど魔王の上に立つ存在らしい事が分かる。
「今、されるのだ」
ドラグニスの言葉が冷たく響いた。
バーン達がドラグニスに気を取られている間に、マベラスがドラグニスの背後にあった時空転送装置が置かれた魔法陣の中心で跪いている。
「まさかっ!」
「もう、遅いわ……〝魔帝〟様! 数千年を生きた我が命を受け取り給え! この世を魔族の世界に!」
マベラスは身体に刺さった剣を更に押し込み、うずくまる様にその場で息絶えた。
瞬間大気の慟哭が世界を揺らし、大地も揺れていた。
「く、くそっ!」
「さらばだ勇者バーン。ヴァンデミオンで貴様を待つ。足掻くがいい足掻くがいい。魔族の世界で足掻くがいい。フハハハハハハ!」
そう言い残し、ドラグニスは消えた。
「バーンさん……今ので……あっ!?」
「アリス? こ、これは!」
アリスが持っていた古代書が輝き出し、ひとりでに空中に浮かび上がる。
空中でパラパラとページが捲られ、開かれたページから光がアリスに流れ込んだ。
「うぅっ!」
「アリス……大丈夫だ。支えているから安心しろ」
「は、はいっ……」
光が収まると本は床へ落ちるが、再び本が光を放ち出し、本の中から女性が姿を現した。
身体が半透明の美しいその女性は、呆気にとられたバーン達の前で静かに語り始める。
『初めましてかしら……アリスとは何度も話していますけど。私の名前はシルヴァ。あなた達が言うところの古代人……という存在です』
「あんたが本の……」
『えぇ……そうです。嘗て〝魔帝〟と戦ったシスター、それが私。今再び〝魔帝ゼノ〟がこの世界に現れてしまった。それに合わせて私は力を取り戻す様にこの本に魔力を込めたのです』
〝魔帝ゼノ〟それが最後の敵の名前。
この世を終焉に導かんと、今まさに復活した闇の化身である。
「あなたも……シスターなんですか?」
『そうですよアリス。だから私はあなたを選んだ。闇の力に対抗しうる力を持つあなたに。そしてバーン。あなたならきっとアリスを導けるでしょう。今アリスに渡した二つ目の魔法。名は〝白銀の導き〟。闇を照らす一筋の光です。そして〝魔帝ゼノ〟と相対した時、最後の力を授けます。どうか希望を捨てず、闘って下さい』
「分かりましたシルヴァさん!」
「やってみるよ」
『ふふっ、大丈夫。あなた達ならきっと……では、またお会いしましょう』
そう言い残し彼女は本の中に消えていった。
残されたバーン達は不安のなかに一つの希望を見た。
最後の闘いに全てを持って挑む決意が湧き上がる。
「なんかやる気でてきちまった」
「マジかよカーティス。珍しいじゃん」
「オメーには言われたくねー。つかお前もやる気でてんだろ?」
「まぁなー」
ゆるい二人の会話に場が和む。
決して悲観はしない。
バーン達は前を向き、その場を後にした。
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「何という事か……マベラスが……」
アトリオン王、ノルディーゼは頭を抱えてうな垂れていた。
バーン達の報告により、自身の右腕が魔族だったということを知ったのだからそれも仕方がない。
「陛下、お気を落とされるお気持ちは分かりますが、今はそうしている場合ではありません。すぐに兵を集め、出撃の準備を整えて頂きたい。恐らく封印は破られました。奴らから攻めらる前に、全世界の力を集めてこれを討たねばなりません」
「で、あるな……分かった。すぐに兵を集めよ! 全軍を持って出陣する。……わしも出る」
「陛下……それは」
「バーンよ、全世界が戦おうとしている中で、城に籠るものは王ではない。必ず全ての国の王も来るだろう。わしが行けば兵達の士気もあがる」
確かにアトリオン王が言う通り、全世界の王達も船にのり、バーン達の合図を待っていた。
これは見栄や計算では無く一丸となって戦おうというバーンの意思に世界が応えたからに他ならない。
「分かりました……ご無理はされませんようにお願い致します」
「うむ。分かっておる」
話は終わり、バーン達は謁見の間を後にする。
仲間と合流する為港町に向かうのだった。
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港町に停泊したメルギドの高速戦艦カルディアの中に、この世界最強の者達が集結していた。
「エリザだ。よろしく頼む」
アーヴァイン最強の魔法剣士。八英雄序列第六位〝消失のエリザ〟。
「シェリルですわ。よしなに」
世界最強の大魔導師。八英雄序列第二位〝天識のシェリル〟。
「バカラだ! よろしくぅ!」
ギンダークの守護神。八英雄序列第八位〝熱血のバカラ〟。
「……ミリア。よろしく」
ギンダークの魔法殺し。八英雄序列第七位〝反魔法のミリア〟。
「スタークだ。みんなよろしく!」
ギンダーク最強の英雄。八英雄序列第四位〝太陽のスターク〟。
「ディライトね。よろー」
アルデバラン最強の魔法剣士。八英雄序列第三位〝創造のディライト〟。
「あー、カーティス。ま、頼むわ」
無気力でありながら世界最強だった男。八英雄序列第一位〝無力のカーティス〟。
「バーンだ。よろしくな」
九人目の英雄。〝真の勇者バーン〟。
「すげーメンツだなぁ」
「君マリアだろ? 〝魔拳のマリア〟。有名人じゃないか」
スタークに言われ若干嬉しそうなマリア。
マリアの実力は決して彼らに引けは取らない。
「で、バーン。彼女が世界の希望かい?」
「そうだスターク。彼女をなんとしても〝魔帝ゼノ〟まで連れて行く」
「アリスですっ! よろしくお願いします!」
パーティをクビにされていた少女は今、世界の希望になっていた。




